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ピコーンの実力

 ユニヴェールは小さな箱を見つめた。


「ピコーンでしたっけ? 画期的ですよね」


 アークトゥルスが立てたという魔道具は、まだ見つからない。

 もしかしたら騎士たちが先に見つけて回収しているかもしれない。

 いずれにしても子機がピコーンに近づけば反応するらしいので、ピコを頼りに進んでいる。


「シルヴェニア帝国が魔道具の開発に力を入れているおかげで、新しい技術がどんどん生まれているんだ」


「宿屋で使っている水道ポンプも、シルヴェニア産の魔道具でしたよね? 便利です」


「印刷や映写もすべてシルヴェニアが特許を持っているから、ここ十年あの国は経済が右肩上がりだ。国民にとっては、住みやすい国だろうな」


「皇都が、神聖国にわりと近かったですよね?」


「国境を越えて、馬で三日も行けば着く。近隣国の首都も、神聖国からはあまり離れていないんだ」


 なぜなら、有事の際に大神官の力を借りたいから。そして不可侵条約によって他国の介入を許さない神聖国は、亡命するのにちょうどいいからだ。まして神殿に逃げ込めたら勝利したも同然と思われている。


(実際は、そんなに甘くないようだけど)


 戦争が頻繁にあった時代の記録が神殿に残っている。その中に書かれていた王族の扱いは決してよいものではなかった。神ルミエールを崇める神聖国にとって、国を捨てた王族など価値がないからだ。


「あ、反応ありましたよ!」


 ピコが緑色になった。


「この階層にいるようだな」


 15階層くらいまで上がってきたと思う。アークトゥルスの行動とシリウスの経験に基づく想像で補いながら進んできたが、考えていた以上に早く反応があった。

 どうか無事でいてと祈りながら、右に左に行ったり来たりしながら場所を探る。

ピコが緑色に点滅するころには、騎士たちの姿を捉えることができた。魔物に囲まれていたからだ。


「いましたよ、シリウス!」


 女騎士が必死に剣を奮っている。男騎士も剣を握っていたが、片腕がだらんと落ちていて使えないようだ。あらゆる部位から出血もしているようだ。男騎士が重傷というのは一目でわかった。


「ユニヴェールは騎士たちを安全な場所へ! 魔物は俺が狩る!」

「わかりました、無事を祈ります!」


 シリウスがオーラ全開で乱入する。騎士たちが驚いて一瞬動きを止めるので、彼らが対峙していた魔物には、ユニヴェールがツルハシを打ち込んだ。


「アーク様は、ご無事です!」


 無事とは誇張がすぎるけど、ユニヴェールが叫ぶと騎士たちが驚きから泣きそうな顔へと変わり、あろうことかその場に崩れ折れた。それほど心配だったのだろう。

だが、安堵するには早い。


「まだ膝をついてはいけません! あなた方の安全を確保してからです!」


 女騎士は男騎士に肩を貸し、ユニヴェールは二人の盾になるように後退する。

 二人が岩陰に身を潜めると、結界石を彼らの周囲にばらまく。


「結界を張りました。剣を下ろして大丈夫ですよ。わたしは、彼の援護をしてきますね」


 援護が必要かどうかわからないほど、シリウスがすごい勢いで狩っていく。何度見ても恐ろしいほどの戦闘力だ。

 ユニヴェールが端のほうでネクロラット一体を狩り終えたころには、周囲にいた魔物はすべてが息絶えていた。さすがSSランク、格が違う。


「殿下は……っ、アークトゥルス様は、どこですかっ!?」


 騎士たちのもとへ戻ってみると、彼らはまっさきにアークトゥルスの心配をする。皇子であることを隠す余裕もないようだ。


「安全な場所にいますので、安心してください」


 彼らの応急処置を施しつつ事情を説明すれば、騎士たちは喉を詰まらせた。

 大怪我を負っているアークトゥルスへの心配と、生きているという安堵、自らの不甲斐なさを感じたのだろう。女騎士は嗚咽するほどだったし、男騎士のほうも目頭を押さえた。アークトゥルスは、従者に恵まれているようだ。


「六時間ほど休憩をとる。その間にメシと睡眠をとれ」

「ありがたいが、殿下の安否確認が先だ」


 男騎士が否定するも、シリウスは首を振った。


「向こうにはメシも薬も結界もある。俺たちの仲間が世話をしている。それよりも、おまえたちはいったん身体を休めろ。今のままでは地形に足をとられて怪我をするだけだ」

「大丈夫だ、我々は動ける!」


 救けが来たうえに主人の安否がわかって気分が高揚しているのだろう。自分たちの顔色がどれほど悪いか、身体がどれほど震えているか、気づいていないようだ。シリウスが溜息をこぼした。


「駄目だ。男のほうは出血が多く唇も紫色で皮膚も冷たい。ショック症状寸前で、本来なら安静にしないとならないレベルの重傷だ。女のほうは大きな怪我ないとはいえ、震えが止まらないし瞳孔も開いてる。極度の緊張状態だ。少しでいいから冷静さを取り戻せ」


 シリウスから言われて彼らはお互いを見合った。


「六時間だ。こちらの指示に従ってもらう」

「…………承知した」


 男騎士が躊躇いながらも判断を下す。女騎士も小さく頷いた。


「ではまず、軽く食事をとりましょう。食べ終わったら聖薬を飲んでください。六時間後にもう一度服用してから、出発しましょう」


「ああ……」


 手早く親子丼を作って食べさせる。

 味噌汁も飲ませれば女騎士の震えが次第に収まっていった。


「美味しい……」


 女騎士が涙をぽろぽろと流しながら親子丼を食べる。食欲があるだけマシだ。

 対して男騎士のほうは食事をしたくとも手が震えてままならない。ユニヴェールが食べさせようとしたらシリウスがスプーンを奪い、男騎士の口に無理やり突っ込んだ。


「し、シリウス、もっと優しく……っ」

「いいや、さっさと食べさせて休ませる。ユニヴェール、結界石はいくつ持ってる?」

「ゼロなので、補充します」

「二つあればいい。時間を最大限短縮して戻る」


 短縮とは、どうやって?

 ユニヴェールの疑問は、六時間後にわかった。





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