表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/88

自己満足です

 ユニヴェールは魔石をひとつ購入して、少年を探した。


 少年が路地の木箱の陰にしゃがみこんでいる。

 スッと魔石を差し出した。


「浄化石がいいですか? 魔石のほうが売りやすいですか?」


 少女にしか見えない少年が「ああ?」と柄悪く見上げる。子どもなのに迫力ある。


「同情かよ」


「そうですよ」


 少年が舌打ちした。


「アホ面聖女は、やっぱりアホだな」


 悪態はつくが受け取るつもりはあるようで、「浄化石のが高く売れるから、浄化石にして」と言う。


 赤黒い魔石を白金色の聖石にしてから、改めて神聖力を籠める。


「金色の文字が消えるまで効果があります」


 石の中に金色の文字が浮かぶ。古代文字で『浄化』と読む。


「あなたの、お名前は?」

「……なんで」


「祝福させてください。名前があったほうが、強くかかるんですよ」

「…………カラ」


 不満そうに唇を尖らせながらも名前を教えてくれる。その素直さに、ユニヴェールは自然と笑みがこぼれた。


「神ルミエール様の光が、カラの行く末を明るく照らしてくださいますように」


 ふわっとした小さな光が少年の頭上で弾ける。降り注ぐ金色をカラは見上げていた。


「食事に困ったときは、神殿を頼ってください。朝の八時から数量限定ですが、パンとスープを配っています。お母様が病気だと伝えれば、パンを余分にくれるはずです。食事だけは必ずとってくださいね」


 神殿には金が唸っているので、パンがいくつなくなっても痛くも痒くもない。


「……バカな聖女」

「よく言われます」


 神殿で鍛えられたユニヴェールには、そっぽを向く少年の文句などくすぐったいだけだ。


「わたしを見かけたら、また声をかけてくださいね」

「……フン」


 甘えることが苦手そうな少年に別れを告げて路地を出る。

 先ほど声をかけてくれた男性が待っていた。


「施しを与えて、満足か?」


 どうやら、彼はユニヴェールが気に入らないらしい。


(待ち伏せをする人って、どうして意地悪なの?)


 同年代の神官や聖女は、よくユニヴェールを待ち伏せた。

 外の世界でも変わらないようだ。


「満足です。自己満足です」


「後悔するかもしれないぞ」


 うわ……嫌な人。


「そうかもしれません。でも、自分を嫌いにならずに済みました。それだけで充分に得をしたと思ってます。他人に文句を言うだけの人よりはマシだと、いい勉強にもなりました」


 反論すれば、さらに文句が返ってくることをよく知っている。だから普段は聞き流す場面なのに……、どうしてだか彼には厭味を返してしまった。神殿から解放されて、口まで自由になってしまったのだろうか。気をつけなければ。


「も、文句を言っているわけでは……っ」

「失礼します」


 ユニヴェールは急いでその場を離れる。


(口撃はしちゃ駄目だよね。でも、これからは自分の意思を伝えていかないとね)


 明日からの嫌がらせを考えなくていい。外の世界は自由だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ