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転星 ~アラフィフOLの転星譚~  作者: 劉白雨
< 序章 >
8/25

- 桃双 -


 こうして私は、天照系の星々を隅から隅まで観察し、長い時を過ごしていた。

 ずっと兄弟姉妹の惑星たちを眺め、彼らの名前を考えたり、見たことのない星空を眺めて星座の名前を考えたりして、独りぼっちの寂しさを紛らわしながらも、グルグルと天照を周回し、様々な天体ショーを楽しみながら、この悠久の時を過ごしていたので、たとえ億単位の年月であっても、過ぎてしまえばあっという間だった。


 そう言えば、昔、私がまだ入社したばかりの頃、定年間近の人がこんなことを言っていた。

「子供の頃は余りに余って持て余していた時間だけど、二十代はまさに光陰矢のごとし、三十代は新幹線、四十代は音速、五十代は光速、六十代はワープのごとしなんだよね。気づいたらあっという間に定年になっちゃっててさ、七十代になったらどうなっちゃうんだろうね、ホント人生なんて一瞬だよ」って笑いながらおっしゃっていた。

 それを聞いた私は全然実感が湧かなくて、「そんなもんですかね」なんて呑気に気のない感じで応えてしまったけど、結局その人の言葉通り二十代を終え、三十代、四十代になるにつれ、時間の経つ「速さ」が桁違いに上がっていき、まさに四十代では音速にでもなったような感じだった。

 しかし、その後まさか億単位の時間を一気に駆け抜ける、ワープ感覚までも実感するはめになるなんて、その時は思いもよらなかったけど。


 気がついたら、時はあっという間に過ぎてしまっていた。

 しかし、日常茶飯事のように岩石が衝突してきたり、兄弟姉妹がバトルロワイヤルを繰り広げていたり、彗星が目の前を横切ったり、あっちで衛星ができたり、こっちで環ができたりと、大きなイベントが目白押しだった。

 そうそう、新星だか、超新星だかが爆発するなんてイベントも何回かあった、それと恒星同士が衝突した時はすごいことになってたな。

 とまぁ、そんなこんなで、結構「惑星生」を満喫している。


 重連惑星ができた時も楽しかった。いつものように兄弟姉妹のバトルロワイヤルが発生したと思うような激しい衝突をした惑星同士が粉々になると、そのまま他の惑星に吸収されるのかと思いきや、岩石たちが渦を巻き始めて、徐々に二つの惑星を形成していった。

 その二つの惑星がお互いに引っ張り合うように回転しながら、周囲の岩石たちを取り込み、二重惑星となっていったのには心底驚いた。

 地球では本物なんてもちろん見たことなかったし、こんなことが実際に起こるのかと言う驚きと、できあがる過程のなんともドラマチックな情景に感動しきりだった。


 そうそう、彼らに名前も付けたよ。

 岩石惑星群にできたこの二重惑星は、兄弟姉妹の中で最初に登場した重連惑星だ。なぜかピンク色をしていて、互いにクルクルと回りながら公転している姿は、メチャメチャ可愛い。写真を撮ってSNSにでも上げたいぐらいだ。

 と、話が逸れた。

 そう、名前だけど、この双子星を「桃双連星とうそうれんせい」として、それぞれの惑星を「桃姫ももひめ」と「桃太郎ももたろう」と名付けた。なんか可愛いでしょ。

 桃のような見た目の星が二つで「桃双」、で、桃と言えば桃姫、桃太郎でしょ。

 桃姫の方がちょっと小さくて、ピンク色がやや薄く、片方の極が帽子のように赤くなっている。

 桃太郎の方は全体のピンクもやや濃くて、なおかつ赤道と極の間ぐらいに濃い赤色の線がぐるりと一周、腰帯のように一本入っている。

 見た目も、姫と太郎って感じでしょ。

 どういう成分でピンク色に見るのかは謎なんだけど、この双子星の桃双星は私のお気に入りで、いつも眺めては癒やされている。

 あの衝撃的な衝突を起こした惑星たちが、こんな可愛い双子惑星に変貌するなんて、想像もできなかったから、ギャップ萌えに陥っているのかも知れないけど。結果癒やされているのだから、そんな理屈はどうでも良いんだけどね。


 このような感動的な情景を、全部で三回も見ることができたのだから、ホント幸せだよね。

 そのうちの一つは三重惑星だったから、その時の迫力ある光景は今でも脳裏に焼き付いている。私、脳はないんですけど。ってどこの骸骨だよ。

 とまぁ、冗談はさておき、こんな毎日だから、退屈もしない反面、時間があっという間に過ぎてしまうのかも知れない。


 他の兄弟姉妹の惑星たちについては、いずれ機会があれば詳しく紹介しようと思う。紅輝星や桃双星のように、他にも結構良い名前を考えたんだよね。三重惑星についてもまた今度ね。まだまだ惑星は数を減らしそうだし、まだ他に語りたいことが沢山あるからね。

 なんせ暇な時間は億単位であるから。この話はまた今度。


 さて、こうして新たに始まった私の「惑星生」は、波瀾万丈の幕開けだった。

 突然の事故から、まぁ事故はいつも突然なんだけど、いきなり岩石に転生して、気づいたらあれよあれよと言う間に惑星になっていた。

 衛星や環を従えて、地球では見たこともないような天体ショーを間近に見られたりして、もしかしたら、前世よりも充実した日々を送っているかも知れない。

 天体とか、理科に興味のある人生でホントに良かった。興味なかったら、こんな状態地獄だもんね。

 

 これから先、私の星と言うか、私自身である「桜雲星」はどうなっていくのだろう。

 ここがハピタルゾーンで、生命とか誕生すると良いんだけどな。もし恐竜とか誕生したらめっちゃ感激だろうなぁ。

 まぁ楽しみはとっておこう。何せ後何億年も先の話なのだから。

序章はここまでとなります。ここまでお読みいただきありがとうございます。

次の第一章からは、いよいよ桜雲星となった彼女の惑星生が本格始動します。

是非、この後の展開もお楽しみください。

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