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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Sick house

作者: 綾奈

動物に対するネグレクト描写が無理な方は注意


 きっとこの家は狂っている。だからもう諦めた。いや、諦めざるを得なかったのかもしれない。


 最近、ねこのTが家にいてくれる時間が短くなった。連れてきても餌を食べるとすぐに外に出ていこうとする。深夜家のソファで寝る、なんてことも少なくなった。父はそれを始めよしとしていなかった。どれだけTが鳴いても、すぐには出さないようにしていた。ただそれにも限界が来たのか、結局いつの間にか、Tが出たいタイミングで外に出してあげるようになっていた。だからこそ、Tが家にいる時間は減っていたし、夕飯を食べる時間が近づいてもTが来なかったり、5時近くにTを家に入れたのに餌をやらなかったという理由で、怒鳴られたことも少なくない。ちなみにこういう時、Tはだいたい家に入りたがっていないが家の周りをウロウロしているのを家にあげただけで、えさを欲しがるそぶりは見せない。しかし、そんなことは関係なかった。Tが家に来ないことだけが、父の恐怖であり、怒りだった。


 それは突然に起こった。何があったのかは知らない。でも、父は私たちの部屋の扉をあけ放ってこう言った。

「Tを家で飼うことにしたから。絶対に外に出すなよ」

リビングの扉の方からは、Tがけたたましい声で鳴き叫んでいるのが聞こえた。父の剣幕はいつもの通りで、きっと口答えしてもしょうがないと分かっていた私は、にこやかに「わかった」と答えた。そもそも、今更Tを気遣って父に歯向かえるような気持ちも、そこまでさせるほどのTへの思いもなかった。ただ、彼が初めてこの家に連れてこられるようになって父の気のすむまでリビングに閉じ込められた日と同じように、このままTもこの家で父に買い殺されるのだろう、可哀想に、としか思わなかった。

リビングで再三Tの鳴き声を聞き続けた父と母は、かなり憔悴していた。流石に気の毒だと思って、できるだけ気遣う様に対応した気がする。リビングには猫砂と猫トイレが増え、台所には猫用のえさ入れが増えた。隙があればリビングのとびらから逃げ出そうとするTを、最初に比べればましだがそれでも頻繁に低音で鳴くTを、「ここの方が安全だからね」「ここにいた方がTにとってもいいんだよ」と、父は甘い声でさとしていた。


似た者同士なのだ、私も猫も。一人でここを出られるほどの強い意志と力と知恵があればいいのに。だから今回も、またダメだっただけなのだ。私はこの家からは出られない。

鳥かごの中の鳥は、今日も幸せそうだった。

生まれてこの方、私が自分の意志で何かを決めたことがあっただろうか。決められた線の中で、生きていいよと言われる生活。どちらが先だっただろうか。先に線の外に望みがあったのだろうか。それとも線を引かれているから、その線の外を渇望しているのだろうか。今となってはどちらでもいい。私は線の外には出られないのだから。


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