受験生のやつ
随分よく集中していたと思う。朝起きてから昼までの約4時間と、昼餉を適当に済まし休憩を取ってからの2時間。計6時間も全く集中が途切れなかった。しかしその反動というのだろうか、今取った15分の休憩以降、全く筆が進まない。それどころかシャーペンを持つことさえ出来ていない。机の上の麦茶はとうに温くなって、外はまだ夏が蝕んでいることを知らせる。手元にあったラムネはこの休憩終わりの数分間で幾つも消えている。頭の中では地元の祭りのことだとか、2学期の文化祭のことだとかが浮かんでは消えていく。ギリギリ手の届かない位置にあるスマホを掴み取り、時刻を確認した。15:27と少し明るい画面が表示する。葛藤は一瞬のうちに消え去り、机に広げた道具を自室から持ってきたバッグに詰め込む。冷房を消して適当な服に着替え扉を開ける。先程までは感じられなかった季節が空気を通して呼吸を妨げる。日差しを片手で防ぎながら歩みを進める。
5分程歩くとチェーンのカフェが見えてきた。自動ドアを開け、冷えた空気を浴びながら注文口へ向かい安いアイスコーヒーを頼む。数分も待たないうちにアイスコーヒーが渡され、ミルクとガムシロップを取って席を探す。休日ということもあり少し混雑した店内で1つ角に面した空席を見つける。席に座りアイスコーヒーに口を付けると持ってきた道具を広げ、勉強用の放置ゲームを1時間にセットし勉強を開始する。少し熱を発する身体を少し強めに設定された冷房とアイスコーヒーが冷やしてくれ先程までと同じくらいの集中を保てた。
1時間経ったことをスマホの画面が知らせる。小さく息を吐き5分間の休憩を入れるためSNSを開く。数回程スクロールするとふと視界の左側を何か黒いものが掠める。何気なくその正体を見ようと顔を上げると1人の女性がいた。長い黒髪に切れ長の整った目鼻立ち、黒いトップスとロングスカートはその白い肌を際立たせている。その女性は自分の目の前にある空いたままの席に座り、本を開く。
つい、目を奪われてしまった。スマホに視線を戻し、SNSを弄る間もチラチラとその女性を伺ってしまう。何を飲んでいるのか、どんな本なのか、その細長い指は本を捲るだけで映えて見える。突如としてスマホが5分の休憩の終わりを知らせ、何とか気持ちを入れ替えて勉強を始める。休憩中にラムネを食べたからか、頭の中で目の前女性を考えつつも辛うじて集中は出来た。
問題の丸つけをしようと赤ペンを取ろうとすると目の前の女性と目が合った。この人をちらと見ようとした事に何ら違いはない、しかし目が合ったという事実に心臓は跳ねる。耳に心臓がある自分を意に介さず、女性は柔らかな笑みを浮かべるとすぐに読書に戻る。自分は平静を保とうとアイスコーヒーに手を伸ばす。手に結露した水がついて煩わしい。そして雑念を振り払おうと、半ば我武者羅に丸つけをする。次の休憩に入った時には、目の間にあの女性は居なかった。何処か寂しさを覚えつつ、アイスコーヒーを傾けると既に容器が空になっていることに気付く。道具を片付けて、外へ出る。夕焼けながらも熱を帯びた太陽がジリジリと身を焼こうとするのを感じた。
今週はいつかに書いたこれで許してください。
そして次に投稿できる日はまだ未定です。
17日投稿出来なかったら8日になると思います。
すみません。