39℃の私と彼
暗闇の中、目を開けても映るのはただの天井だけだった。
このまま起きずに朝まで寝てれば楽だったのに喉の乾きがそれを許さない。
ああ、もうやだ、喉乾いた、めっちゃ辛い。
頭がボーッとして冷蔵庫がどこかわからない。
こんな虚弱な身体なんか······!
「香依、起きた?」
枕元から声が聞こえる。
暗くて誰かわからないけど聞き馴染みのあるこの声は······。
「ゆーや······?」
「正解」
良かった、優也が来てくれたんだ。
「まだ熱はある?はい、体温計」
「ん」
寝巻きから肩を出し、体温計を脇に挟む。
「みず······」
「待ってて、取ってくる」
立ち上がろうとした私の肩に軽く手を置いて座らせ、冷蔵庫へ向かった。
「はい、スポーツドリンク」
「ありがと······」
キャップを開けると同時に体温計が鳴り響く。
構わず口を付けると優也がそれを抜き取ってくれる。
火照った身体に当たる優也の手が冷たく心地いい。
「······まだ下がってないね、ほら」
優也から体温計を受け取りその値を読み取った。
君がくれた体温計は39℃を上回ってる。
そんないつかネットで見た言葉が脳裏を過ぎった。
「ありがと」
「冷却シート張り替えるね」
「ん」
私の額からぬるくなったシートを剥がし、新しく冷たいものを貼り付けていく。
「汗も拭こっか?」
「おねがい」
「りょーかい」
机にあったタオルを二枚濡らして持ってくる。
いつものように私は背中を向けてからタオルを受け取る。
慣れた手付きで寝巻きを捲り背中を拭かれる。
その間、もう一枚のタオルで前側を拭く。
背中を拭き終わった優也が首元の汗も拭い始める。
微かに冷たいタオルは辛い身体をほんの少し楽にしてくれる。
「ん、ありがと」
「他に何かある?」
「だいじょうぶ」
つい眠るまで一緒にいて、なんてことを言おうとしたが、甘え過ぎちゃだめだ。
いつも優也には助けてもらってるんだから。
「······ゆーや」
「なに?」
「こんなわたしをいつもかんびょうしてくれてありがとね」
「うん、じゃあ治ったら映画でも見に行こうか」
「うん」
映画か、楽しみだなぁ。
「そろそろねるね。おやすみ」
優也が私の頬に口付けをする。
「うん、おやすみ。次起きるときまでここにいるからね」
「ありがと」
そう言うと優也が私の手を握ってくれる。
こんな虚弱な身体でも優也がいてくれるのなら、もしかしたらそこまで悪くは無いのかもしれない、微睡む世界の中で私はそう思えた。
左手から伝わる温もりが心地よかった。