夏祭り
今日は7月31日、駅前の道路が歩行者のために作り替えられて出店が並ぶ。
数日前から所々にどこかのお店の提灯が飾始め、祭りの雰囲気を醸し出していた。
そしてここには着物を着た4人の兄弟がいる。
もちろんそのうちの1人はこの私、夏輝!
それとはる姉、秋斗、凪冬。
秋斗と凪冬は着物なんて着たくない、って顔してたけどはる姉に無理矢理着せられてた。
まだ暑いのに冷や汗だくだくで別室から出てきたのは申し訳ないけど面白かった。
「ふんふふんふふ〜ん♪」
「なつ姉は楽しそうだね」
「まあ、夏の祭りだからじゃない?」
「そっか」
歩きながら秋斗が凪冬の意見に勝手に納得してる。
まあ、それもあるけどさ。
夏祭りよりもテンションが上がる行事を私は知らない。
「ねぇねぇ、射的やろ射的!」
この小さな祭り会場でパッと目に付いた射的屋を指差す。
「いや遊園地の超人気アトラクションぐらい並んでるぞ」
黙りなさい、秋斗。
「看板にあと800分待ちって書いてあるよ。······えっと何時間だ?」
凪冬、貴方もよ。
「流石に13時間は無理よ。諦めた方がいいわ」
はる姉······私も13時間は無理。
明日の朝じゃない。
最後尾の人に心の中で祈っておく、頑張って!
「そうだね······」
「あ、でももう少しで花火上がるらしいよ」
「でかした!凪冬!」
「じゃあそれまでなんか適当に買っておこうか」
はる姉から軍資金がそれぞれに配られる。
はる姉がフランクフルト、私がかき氷、秋斗が焼きそば、凪冬がドリンク類。
それぞれ買いに出かける。
集合は羊の木の下。
東側のかき氷の出店へ向かい、4本のかき氷を手に入れる。
1分程待ったがさしたる問題じゃない。
客はほとんど射的に連れていかれたらしく、ここだけじゃなく他の店もあまり並んでいない。
羊の木の下には凪冬がラムネを4本持って待っていた。
「素晴らしいチョイスだ」
「まあ、流石にね」
するとはる姉と秋斗がフランクフルトと焼きそばを持って戻ってくる。
「あと20分くらいだけどここで待機で構わないかしら?」
全員が同意を示す。
秋斗と凪冬はラムネを片手にスマホを弄り出す。
私は焼きそばを食べきらないよう3本ずつ口に放り込む。
口入れる麺自体が少ないので紅生姜を強く感じる。
はる姉と言えば······。
「「「春奈さん、こんちゃーっす!!!」」」
「こんにちは」
なんか体育会系の人に挨拶されてたり。
「「春奈さん、ご無沙汰しております。ご機嫌麗しゅう」」
「あら、そんな畏まらなくてもいいわよ。ほら、もっとフランクに接して?」
なんかお嬢様?みたいな人達によくわからない挨拶をされてたり。
「おお、春奈さん。先日は誠にありがとうございました」
「いえいえ」
なんか良い服着てるおじいさんと話してたり。
ずっと誰かがはる姉と話していた。
「あらそろそろかしら?」
「あと1分!」
「おっ」
「楽しみ」
羊の木の周りにはさっきとは打って変わって人が少なくなっている。
ヒュルルルル〜、と花火が打ち上がる音が聞こえる。
そしてパッと頭上に満開の花が現れる。
そこから続けざまに幾度となく花が咲き始める。
「きれいね」
「うん!」
「花火は結構久しぶりだな」
「たしかにね」
羊の木の下は別に花火がよく見てるスポットでもなんでもない。
ただ、ここで兄弟全員で見る少し欠けた花火がどうしよもなく愛おしいだけだ。
少し高めの建造物が光る花の先端を遮り、不完全さが私たちの想像力を掻き立てる。
少し目を逸らしても建造物が光を反射して、今はどんな色の花が咲いているのかを教えてくれる。
焼きそばとフランクフルトを口に放りながら、次々と打ち上がる光を見ている。
そして空に巨大な1輪の花が咲き、溶けて行った。
どこからが拍手が聞こえてきて、それに他の人も倣い始める。
やっぱり夏より楽しい季節と祭りより楽しい行事を私は知らない。