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 翌日、彼はちゃんと返しにきた。


「とても助かった。君が付けてくれた本も」


 穴から手を出して受けとる。

 一瞬外の光に照らされた銀髪の彼は色白でとても整った顔をしていた。

 これは女子たちにもてるわけだ。

 これ以上関わると私に好奇心やら嫉妬やら向けられて目立つかもしれない。


「どういたしまして。では私はこれで」


 転移魔法を詠唱しようとした。


「待ってくれ」


 だが、その声に遮られてやめてしまった。

 返し忘れた本でもあったかしら。

 一冊、二冊……十冊、ううん。ちゃんと全部返ってきている。

 じゃあなんだ。


「今週末、学園パーティーがあるのは知ってるよね」

「もちろん知ってはいるわ」

「パートナーになって欲しい。最初の踊りを俺と一緒に踊って欲しい」

「ごめんなさい。できません」


 申し訳ないが、即断った。

 踊るとか婚約者とも恥ずかしくてしてないわよ。


「即答か。約束とかしてるの?」

「いいえ」


 『もぐら令嬢』に申し込むレアな人間がいるものか。

 いや、目の前、穴の上にはいるか。


「プリント読んだかい?絶対参加って書いてるけど」

「読みました。熟読しました」


 目を疑ったよ。絶対参加ってなんだよ。

 そりゃ、学園が勉強以外に人脈を作る上で大事な場所とは知ってるよ。知ってるけどね。


「当日は風邪をひくことにします」

「火魔法とか使うのか」

「いいえ」


 火魔法で体温を高くするのは難易度高め。それくらいなら実技トップなんだから余裕でできる。

 嘘が苦手なだけ。

 ついたとしても確実にバレる。


「氷水を被ればなんとかなるかなーと」

「は?なんでそうなる」

「嘘はつけないので」


 フローラは残念なことに、変なところで行動力に満ちていた。

 なので本当に氷水を浴びるつもりだ。


「大人になっても、毎回その方法で逃げるつもりか。限界がある」

「それは……………そうだけど」

「なら思いきって今回参加しよう」


 どうしてこの人は私をこんなに説得するのか。

 それにパートナーは女性から申し込むものだ。

 男性から申し込むといったらそれは……。


「あなた他に話しかけてくる子がいっぱいいるじゃない。その子といけばいいわ」

「外面ばかり飾り立て、外面ばかり見るのに興味はない。けど、お前は違うだろう」


 どういうことだ。

 私も人垣の一部になっておけばよかったってこと?

 ムリムリむりだ。

 そんな目立つことできっこない。

 ん?あれれ?でも、目立たないようにしてたのになんでダンスに誘われてるの??


「どうせ避けられない道だ。今なら社交界に詳しいやつについて貰えてお得だと思わないか?俺はお前を気に入っている。最高のリードをすると約束しよう」


 お得って……。

 この人の話し方、服装からするに貴族だろうけど、そんなセールスマンみたいに自分を宣伝しちゃっていいのかしら。


「約束は守る男だ」


 それは疑ってない。

 本だってさきほど返された。


「パートナーになってくれるならこの手をとって欲しい」


 差し出された手はとても大きく、たくましく見える。


「私、意気地のない『もぐら令嬢』ですよ?」

「意気地のない人間にあの論文は読めん。本文は辞書並みに長いだろう。自信を持て」

「どうしてあなたは放っておいてくれないのですか!!」

「君がこんなところで終わるのは勿体ないから」


 いつか、変わらないといけないなら。

 今がいいチャンスじゃないか。

 握手するつもりで手を握った。すると、勢いよく引っ張りあげられた。

 何をなさるのか。私は穴にいたけど根菜類ではないのだから。


「ごめん!はじめから引っ張るつもりだったんだけど」

「握手かと思って」

「すまない」


 しゅんとなるのを見てこっちが申し訳なくなった。


「なんだ全然もぐらなんかじゃないじゃないか」

 

 まっすぐ見られて恥ずかしい。後ろ髪をもってきて顔を隠す。

 それを掻き分ける大きな手が近づいてきた。


「隠さないでよ。もったいない」


 ボサボサになった髪を整えてくれた。

 その手が気持ちよくて。

 喉を撫でて貰うときの猫はこんな感覚なのだろう。

 なんだか……恥ずかしい。


「じゃあ約束ね。不安にならなくて大丈夫。俺がついてる」


 恥ずかしい。

 けれど、同時にほっとしたというか。

 

 








星をくださると作者は飛び跳ねて喜びます!!


少しでも面白いと思ってくださった方は是非、評価ください!!

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