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「素晴らしい、実に素晴らしい。公爵令嬢フローラ・アズライト、君は今回もこの学園でトップの成績を…………あれ、フローラ君はどこへ」

 

 次の日からは、いつも通りに学園に行った。

 いつも通り。

 私にとってはいつも通り。

 この学園での勉強はとても楽しいけど、いただけないことがあるとすれば表彰だ。

 学年でトップの成績を取ったらこうして全校生の前で表彰されてしまう。恥ずかしい。

 勉強は得意だから毎回毎回こうして、柱や人影に隠れながら表彰台に来て穴を生成しなくてはならない。

 いっそ、穴ごと移動できたらいいのに。


「先生、足元です。そうです、その穴。穴のなかにいるので表彰状はおとして貰えると助かります」

「ええ?は、はい、こうですか?」

「はい。ありがとうございます!」


 これがいつもの光景。

 先生が変わるとこんな風に戸惑う人ばかりだ。


「なぜ恥ずかしいがるんだ。表彰されるのは誇らしいことだろう」


 そんなことおっしゃらないで先生。

 苦手なものは苦手なんです。




 恥ずかしがりでは生きていくのが難しい。

 だから、せめてできる範囲のことはしっかりこなそうと思った。

 授業は先生の教える内容を一言一句逃さないよう板書した。

 課題も常に最高評価。

 予習復習は忘れたことない。

 勉強は穴の中でも、一人でできる。

 誰にも関わらなくてできることだから。

 同じ理由で、読書が趣味になった。放課後は図書室のどこかに必ず穴が存在する。私が本を読んでいるから。

 でもそろそろ図書館の本はあらかた読んでしまったのよね。新しいものを読みたければ買うしかないが、与えられたおこづかいには限りがあるし。





 そんなこんなである日の昼休みのこと。

 秋風が気持ちよかったので、なんとなく中庭によってみた。

 放課後、普通ならすぐ家に帰るのでひとけがなかった。

 人がいないのなら、と珍しく穴には入らずベンチに腰かける。

 見上げると群青の空に、ベンチの横に生える木の葉がかりコントラストを織り成していた。


「綺麗」

 

 そんなときだった。

 紙のようなものを見ながらこちらへ歩いてくる人がいた。

 クラスメイトだったはず。

 クラスメイトなんて覚えていないがあの銀の髪が珍しくてこの男子だけは記憶にある。

 でも、確かこの人は人気で常に人垣ができていたはず。そうでない時も必ず誰かしらには、特に女子に話しかけられていた。

 なのに今は誰一人としてそばにおらず、ぶつぶつひとりごとらしきものを唱えながら座った。それも隣に。


「この理論ならいけるかもしれない」「いや、しかしそうするとこちらの定義が破綻してしまう」「ではどうしようか」


 おそらく私がいることには気づいていない。

 良くないことと思いながらも、内容が気になってそっと覗き込んだ。

 魔法相対性理論・魔力量と魔法効率について

 論文か。その論文は作者が答えを導きだせず問題提起で終わらせたものだ。


「難しい問題よね。それね、主観的に考えると解けないのだけど、客観的に考えるとね……」

「……っ!おお!!本当だこんな思考もあったのか。そういえばずっと視点を変えようとすらしなかったな。こんなに簡単に解けるなんて」


 ものわかりがずいぶん早い。

 考えに柔軟性が足りなかっただけみたいね。そこまでいけたならあとは一日もすれば完全に解けるだろう。

 嬉しいよね。

 分かるわよ。私も始めてその論文解けたときすごく嬉しかったもの。

 これで導かれた答えを使えばこの国は発展するかもしれないって。

 まぁ、恥ずかしくて発表する勇気もなかったし、発表しても『第一王子の妃の』がついて回るだけで私にあまり得はなかった。先日は一方的に婚約破棄されてしまったし発表しなくてよかったかも。


「そうだ、これについてはあの歴史書が役立つかもしれない。さっそく図書室へ」

「それなら読み返しをしようと借りたところだわ。良ければお貸しするわよ。あと、これも」


 あったほうが分かりやすいだろう本もカバンから何冊か取り出す。

 そこで自分以外の存在をやっと認識したのだろう。こちらを振り向こうとした。

 だが、私の警戒心のほうが勝った。

 振り向く頃にはもう穴の中だ。


「えっ、穴?」


 うん。やっぱりその反応になっちゃうわよね。


「お気になさらないでください」

「分かった。ところでさっき助言をくれたのは君か」


 素直に受け入れてくれた?

 たいていの人はつっこんでくるのに。そのツッコミが恥ずかしくて嫌だったのに。

 穴よりも助言の方が気になってるみたい。


「助言というほどではございません」

「だが、それがなければ俺には一生解けなかった感謝する」

「感謝されるほどのことでは」

「それほどだよ。この知識があれば魔力が少ない人も、多い人と同じように魔法が使えるかもしれない」


 それはそうだろう。

 理論上は百倍の魔法が使えるようになるから。


「この本も借していただいてもいいだろうか」

「はい」

「本当に感謝する。ありがとう。明日には必ず返す」


 それを最後に声は聞こえなくなった。

 なんだったの?まるで嵐のようね。


星をくださると作者は飛び跳ねて喜びます!!


少しでも面白いと思ってくださった方は是非、評価ください!!

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