1
見つけてくださりありがとうございます。
「公爵令嬢フローラ・アズライト。これをもって汝との婚約を破棄させていただく」
舞踏会が始まる前。
招待された貴族は揃ったタイミングで、彼は第一王子タジアムは私との婚約破棄を声高々に宣言した。
おかげで目立ってしまう。恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
もう、入っているけれど。
ちなみに王子は第一とついているが王子は一人しかいない。
この人がこの国で唯一の王子だ。
「……り、理由をお伺いしても宜しいですか」
「はっ理由だと?」
心底おかしいという様子で鼻で笑われる。
笑われるような発言をした覚えはないのだけど。
「まず、その光景はなんだ。お前は穴じゃないか」
穴というのは比喩表現でも何でもない。
事実、穴が空いているのだ。
このきらびやかな舞踏会ホールに。ぽっかりと黒い穴が。
王子が婚約破棄を宣言してから、視線をいつもより感じる。恥ずかしい。
そう。私は極度の恥ずかしがり屋だ。
どれくらいかというと、婚約者である王子にすら顔を合わせたことがないくらい。会うときは俯くか、柱の影に隠れるかしてきた。
この性格は生まれつきで物心ついたときから、常に穴があったら入りたいと思い続けてきた。
そしたらある日スキルを獲得したのだ。
その名も【穴があったら入りたい】。
私のためにあるようなスキルじゃないか。その日からよくこのスキルを使うようになった。
特にこういう人の多い空間では。
「そんなので妃になったあと外交がこなせるわけがない。それになぜ王子がこのような姿をしなければならない。格好悪いだろう。本来はお前が出てくるべきだ。頭が低い」
ちなみに今、王子は穴の中を覗き込みながら話している。他者の目には滑稽に写るかもしれない。
それは私も同じ。
『もぐら令嬢』と呼ばれてもいい。
とにかく目立ちさえしなければ。
こんなのだから婚約破棄は当然よね。それでも今まで結構頑張ってはきたんだけどな。
恥ずかしい。もう目立ちたくない。
そうだわ。婚約破棄を受け入れてしまえばいいのよ。ああ、でも待って。最低限、家の名前は傷つけないようにしないと。
「婚約破棄お受けいたします」
「物わかりのいいことだ。なら、早く王宮から出ていけ」
「その前に言いたいことは言わせていただきます」
王子は怪訝な表情をし、眉間に眉を寄せた。
「そもそもこの婚約は私が望んだものではありませんでした」
「はぁ?急に何を言うか。父上からはお前が婚約者候補に立候補してきたと聞いている」
「そのような設定にしといてくれと頼まれました。あなたのお父上にです」
もともと第一王子は評判が宜しくなかった。
意地が悪いとか、勉強ができないとか、気遣いができないとか。これは評判だけでなくほんとだった。
だから陛下に頼まれたのだ。
『愚息だが、それでもわしの大切な息子だ。どうか婚約してあげてほしい』と。王の頼みはいわば命令。王命を無視できるだろうか。
恥ずかしがりやな私は嫌々ながらも、しぶしぶ仕方なく受け入れた。
「だが、お前は嫌だと一言も言ってないだろう」
「王族にそんなこと言う訳がありません。そんなことのために不敬罪になりたくはなかったので」
今になって慌て出す。
おおかた私が悪いことにしたかったのだろう。そして、王の意向だったと知り、王命に反したことも知った。
それは慌てるわよね。
「やっと目立たない生活に戻れますわ。それから公爵家に一切の罪はございません。ゆめゆめお忘れなきよう」
「おい!待て!!」
呼び止める声が聞こえたが知ったこっちゃない。
「転移魔法発動。行き先は家まで」
その瞬間、王宮の喧騒が聞こえなくなる。
まるでスイッチを切ったときのよう。
穴が残って落とし穴みたいになるって?
そんな心配はない。私がいなくなれば消える便利な穴なのだ。
「フローラお帰りなさい。ずいぶん早かったわね」
玄関に転移し、迎えてくれたのは母だ。
「ええ、まあね。婚約破棄されたの」
「まあ!!」
公爵夫人だというのに拳を握りしめるお母さん。
「安心して。家の名に泥は塗ってないから」
「そういうことじゃなくてね」
こめかみを押さえだした。
何か不味いことを言ったかしら。
「でも、よかったじゃない。そんなのと別れられて。あなたならもっといい人が現れるわ」
「もうしばらくはそういうの遠慮したいわ。恥ずかしいし」
やっと目立たなくてよくなったのだ。
恋なんてしたら、恋ばな好きな学園の女子のエサになってしまう。
わざわざ自分から目立って恥ずかしい思いなどしたくはない。
星をくださると作者は飛び跳ねて喜びます!!
少しでも面白いと思ってくださった方は是非、評価くださると幸いです!!