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見つけてくださりありがとうございます。


「公爵令嬢フローラ・アズライト。これをもって汝との婚約を破棄させていただく」


 舞踏会が始まる前。

 招待された貴族は揃ったタイミングで、彼は第一王子タジアムは私との婚約破棄を声高々に宣言した。


 おかげで目立ってしまう。恥ずかしい。

 穴があったら入りたい。

 もう、入っているけれど。

 ちなみに王子は第一とついているが王子は一人しかいない。

 この人がこの国で唯一の王子だ。


「……り、理由をお伺いしても宜しいですか」

「はっ理由だと?」


 心底おかしいという様子で鼻で笑われる。

 笑われるような発言をした覚えはないのだけど。


「まず、その光景はなんだ。お前は穴じゃないか」


 穴というのは比喩表現でも何でもない。

 事実、穴が空いているのだ。

 このきらびやかな舞踏会ホールに。ぽっかりと黒い穴が。

 王子が婚約破棄を宣言してから、視線をいつもより感じる。恥ずかしい。


 そう。私は極度の恥ずかしがり屋だ。

 どれくらいかというと、婚約者である王子にすら顔を合わせたことがないくらい。会うときは俯くか、柱の影に隠れるかしてきた。


 この性格は生まれつきで物心ついたときから、常に穴があったら入りたいと思い続けてきた。

 そしたらある日スキルを獲得したのだ。

 その名も【穴があったら入りたい】。

 私のためにあるようなスキルじゃないか。その日からよくこのスキルを使うようになった。

 特にこういう人の多い空間では。


「そんなので妃になったあと外交がこなせるわけがない。それになぜ王子がこのような姿をしなければならない。格好悪いだろう。本来はお前が出てくるべきだ。頭が低い」


 ちなみに今、王子は穴の中を覗き込みながら話している。他者の目には滑稽に写るかもしれない。

 それは私も同じ。

 『もぐら令嬢』と呼ばれてもいい。

 とにかく目立ちさえしなければ。

 こんなのだから婚約破棄は当然よね。それでも今まで結構頑張ってはきたんだけどな。

 恥ずかしい。もう目立ちたくない。

 そうだわ。婚約破棄を受け入れてしまえばいいのよ。ああ、でも待って。最低限、家の名前は傷つけないようにしないと。


「婚約破棄お受けいたします」

「物わかりのいいことだ。なら、早く王宮から出ていけ」

「その前に言いたいことは言わせていただきます」


 王子は怪訝な表情をし、眉間に眉を寄せた。


「そもそもこの婚約は私が望んだものではありませんでした」

「はぁ?急に何を言うか。父上からはお前が婚約者候補に立候補してきたと聞いている」

「そのような設定にしといてくれと頼まれました。あなたのお父上にです」


 もともと第一王子は評判が宜しくなかった。

 意地が悪いとか、勉強ができないとか、気遣いができないとか。これは評判だけでなくほんとだった。

 だから陛下に頼まれたのだ。

 『愚息だが、それでもわしの大切な息子だ。どうか婚約してあげてほしい』と。王の頼みはいわば命令。王命を無視できるだろうか。

 恥ずかしがりやな私は嫌々ながらも、しぶしぶ仕方なく受け入れた。


「だが、お前は嫌だと一言も言ってないだろう」

「王族にそんなこと言う訳がありません。そんなことのために不敬罪になりたくはなかったので」


 今になって慌て出す。

 おおかた私が悪いことにしたかったのだろう。そして、王の意向だったと知り、王命に反したことも知った。

 それは慌てるわよね。


「やっと目立たない生活に戻れますわ。それから公爵家に一切の罪はございません。ゆめゆめお忘れなきよう」

「おい!待て!!」


 呼び止める声が聞こえたが知ったこっちゃない。

 

「転移魔法発動。行き先は家まで」


 その瞬間、王宮の喧騒が聞こえなくなる。

 まるでスイッチを切ったときのよう。

 穴が残って落とし穴みたいになるって?

 そんな心配はない。私がいなくなれば消える便利な穴なのだ。


「フローラお帰りなさい。ずいぶん早かったわね」


 玄関に転移し、迎えてくれたのは母だ。

 

「ええ、まあね。婚約破棄されたの」

「まあ!!」


 公爵夫人だというのに拳を握りしめるお母さん。


「安心して。家の名に泥は塗ってないから」

「そういうことじゃなくてね」


 こめかみを押さえだした。

 何か不味いことを言ったかしら。


「でも、よかったじゃない。そんなのと別れられて。あなたならもっといい人が現れるわ」

「もうしばらくはそういうの遠慮したいわ。恥ずかしいし」


 やっと目立たなくてよくなったのだ。

 恋なんてしたら、恋ばな好きな学園の女子のエサになってしまう。

 わざわざ自分から目立って恥ずかしい思いなどしたくはない。






星をくださると作者は飛び跳ねて喜びます!!


少しでも面白いと思ってくださった方は是非、評価くださると幸いです!!

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