『自称ヒロインに悪役令嬢だと罵られています。婚約者は譲りますのでもう私にかかわらないでください!』4
馬車で隣に座るレア様に私は気になっていたことを聞いてみた。
「クリスチャン様はなぜ婚約を解消したことを知らなかったのでしょうか」
「ああ・・・」
レア様が言うには、ポルスター公爵は本人から愛する人ができたから婚約を解消したいというのを待っていたという。
「あの様子だと半年間、クリスチャンからそう言った話がなかったんだろうね」
なんて愚かな人なのだろうか。すでに婚約を解消している事実を伏せておくなんて状況を考えて不利益しかないというのに。
「レノは私とのこれからだけを考えれば良いよ」
そういって、レア様はそっと私の唇にキスをした。
半年前、私と父で婚約解消の手続きを行い、国王陛下の謁見室から出ると廊下にレア様が花束を持って立っていた。
その場で私にプロポーズをしたレア様に驚いてしまったが、お父様には既に話が通っていて、あとは私の気持ちを確認するのみだったそうだ。
クリスチャンとの婚約の事もあり、お父様は私の気持ちを尊重することにしたからだと言っていた。
すでにレア様に恋心をいただいてた私がその場でお受けしたことは言うまでもない。
「しかし、優しくて聡明な君に『悪役令嬢』だなんて・・・本当に愚かな女性だったね」
レア様が私の肩に自分の頭をのせるとため息交じりに言った。
すりすりと私の首筋にすりよせるレア様は、普段は王子様然としているけれど私にだけ甘えてくる。
可愛すぎるなと思いながらレア様の頭を撫でていると、今まで感じていたマリアンネの違和感が何だったのかふと気づいてしまった。
「・・・レア様」
「なんだい?」
甘えた声で言うレア様に私は空気を壊してしまうことがわかりながら言ってみた。
「ずっとマリアンネ様に違和感があったんです」
私に乗せていた頭を上げてレア様が私の顔を見つめた。
「今思うと、芝居がかっていたところに違和感があった気がするんです」
レア様が私の唇を撫でて少し思案顔をした。
「レノを『悪役』と言っていたね」
「ええ・・・」
あの大げさな振る舞いも、行き過ぎた行動も演技だったら納得がいく気がする。
狙っていたクリスチャンの婚約者である私を悪役に見立てて演技していたとなればなんとなく納得がいく。けれど・・・。
「レア様の名前も出てきたので心配です。今度はレア様を相手にして演劇を始めるのではないかと思うと・・・」
あのクリスチャンだから喜んで譲ってあげたけれど、レア様だけは諦めることはできない。
レア様が私を引き寄せ強く抱きしめる。
私はレア様の背中に手をまわして抱きしめ返した。
「大丈夫だよ。レノは今日、名実ともに私の妻になるんだ。それにあの女性には見張りを付ける安心して」
レア様は結婚発表が行われる会場に着くまで安心させるように私の背中を撫で続けてくれた。
婚姻の書類に署名した後、私たちは会場で結婚の発表を行った。
信頼できる貴族には婚約を告げていたため、発表はスムーズに進んだ。
そして私たちの結婚のお披露目は半年後だ。
その間に色々なことがあった。
マリアンネはレア様に会おうと必死だったそうだが、それは当たり前だけれど叶わなかった。
そしてマリアンネの妊娠が発覚し、婚約を飛び越えてクリスチャンは結婚をした。
マリアンネの家に入ったので、今後かかわることはほぼないだろうと思われる。
「レア様・・・大好きです」
私は集まってくれている民衆に手を振りながら言った。
「私も、君という存在を知ってからずっと焦がれていた。これからもずっと一緒だよ」
私の手を取り、甲に口づけたあと、とろけるように微笑むレア様の姿を見た人たちから悲鳴のような歓声が上がった。
あの散々だった学園生活も、レア様との未来のための試練だったと今なら前向きに思える。
「お姉様には感謝しなくてはね」
「そうだね、相変わらず私にとっては怖い存在だけれどね」
振り向いてウィリアム様の横で微笑んでいるお姉様に手をふると、手を振り返してくれた。
マリアンネの子供がクリスチャンに似ても似つかない子だったと私たちが知ったのは数年後。
マリアンネはまた違う戯曲を執筆したようだ。
本編終了です。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
今後は不定期で番外編を作成してUP出来たらと思っています。
憧れの(?!)婚約破棄、無事に書き終えて嬉しいです。