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『自称ヒロインに悪役令嬢だと罵られています。婚約者は譲りますのでもう私にかかわらないでください!』3




「ちょっと待ってください!クリスチャンの話をちゃんと聞いてください!」



サイコパス令嬢・・・マリアンネ・マラー男爵令嬢が私の前に立つと、まるで獲物を捕らえるかのような好戦的な瞳で見つめてきた。

さっさと会場を出たいのに・・・。


私はため息をつきながら手を口元に寄せた。

このまま帰ることは難しいそうだと感じたからだ。








彼女は男好きで有名人だった。


入学したその日から有力貴族にぶつかっては声をかけ・・・を繰り返していていたそうで中には、婚約者がいる者もいた。

まともな男たちは彼女にかかわりたくなく会わないように避けていたが、このクリスチャンは愚かにも見事に引っかかった。


私にとってはとても喜ばしいことだったけれども。


クリスチャンがポルスター家の嫡男でなかったことが幸いだった。


ポルスター公爵とトーレ様に証拠を持参し、詳細を話したところ(決して脅してはいない…と思う)やっと私との婚約を解消することを認めた。

うちよりも劣りはするが貴族であることが幸いだと、息子と恋人の関係を認めようと思うと言っていた。


ヴィクトリア様の圧力に2年以上も屈しなかったところは流石、陛下の弟君と思ったけれど、こちらは地獄の日々だった。

クリスチャンとマリアンネが学園でいたしているところを動画で撮影できなかったらいまだに婚約していたかもしれないと思うとぞっとする。



2年に上がるとすでにマリアンネの噂は広まっており、他の男たちがマリアンネに見向きもしなくなったからなのか、クリスチャン一本に絞ったようで、私の存在を知ったマリアンネはすれ違うたびに声をかけてくるようになった。



「ひどいですわ!レオノール様!!いくら私がクリスチャンと仲が良いからって」と言って自分でアイスコーヒーを服にかけたり、「こんなことはやめてください!レオノール様!」と言って私の前で転んだり・・・。



あまりにもひどいので、私は髪飾りに録画装置を忍ばせていた。

あくまで保険だけれど、いつか役に立つかもしれないと思って。

ちなみに卒業パーティーも録画中である。



すでに悪名が広がっていたからマリアンヌの言葉を信じる者はいなかったけれど、私はストレス三昧だった。

いくら貴族として耐えることを学んだとしても、身に覚えのないことや敵意をむき出しにされて嫌な気持ちにならないわけがない。



あの日から、ヴィクトリア様にお茶会に誘われるようになった私は、ヴィクトリア様と息抜きついでに遊びにこられるレア様に愚痴を言ってストレスを発散していた。

あのお茶会がなかったら私は半年と持たなかったかもしれない。


あっ・・・録画はレア様とヴィクトリア様の策である。














「マリアンネ様、婚約に関してはとてもデリケートな問題なのです。両家の威信にもかかわります。ですからポルスター公爵閣下にクリスチャン様が直接お聞きになっていただければと思いましたの。私からお話しすることではないですわ」



優雅に微笑み、マリアンヌに背を向けると「待ってください!」と手首を掴まれた。



その様子にジニア様たちが批判するような声を上げる。

わかりやすいため息をつきたくなったけれど我慢して振り返るがマリアンネとなぜか視線が合わなかった。

声をかけようと口を開くと暖かいぬくもりと甘い香りに包まれた。




「どうしたの、レオノール。約束の時間に来ないから迎えに来たよ」

「・・・アンドレア殿下」



聞きなれた甘い声に私は顔を上げるととろけるような微笑みを向けてくれた。

その瞬間、マリアンネが私の手首を震えるほど強くつかんだ。



「・・・どういうことよ」



さきほどまでの甲高い声ではなく、恐ろしいほど低いマリアンヌの声に私は体がぴくっと動いた。

私を後ろから抱きしめていたレア様に私の緊張が伝わったらしい。

レア様がマリアンヌの手を私から引きはがした。



「いたっ!!」

「痛くはないよね。君が先ほどレノを掴んだ力の半分くらいの力加減だったのだから」



レア様の顔は笑っているけれど目は笑っていない。

本気で怒っているときの顔だ。



「レノ、馬車を待たせているんだ。そろそろ出ないと間に合わないよ」



手を差し出され、私はその手に自分の手を重ねた。



「お待たせして申し訳ございません」



そのまま二人で出て行こうとすると、マリアンネが大きな声を上げた。



「レア様!その人は私をいじめていたんです!悪役令嬢なんです!そんな人とどこに行くんですか?」



その言葉にレア様が立ち止まる。

私は恐る恐る顔を上げるとレア様からすっかり笑顔が消えてしまっていた。

でもそれは一瞬で、すぐさま私に優しく微笑み、「大丈夫」とささやき、私の頭頂部にキスをして振り返る。

周囲からは悲鳴に近い歓声が上がるが、それどころではない。

この方を怒らすととんでもなく怖いのだ。



「クリスチャン・ポルスター、君は婚約者にどんな教育をしているの?勝手に私に声をかけてよいと、しかも私を『レア』と呼んでよいと教えたの?」



レア様がマリアンネではなく、従弟にあたるクリスチャンに声をかける。

クリスチャンは明らかに動揺した様子で震えた声を上げた。



「とんでもない・・・すでにご卒業された殿下に声をかけても良いと言われない限りは声をかける事はありません。ましてや愛称で呼ぶなど・・・」



いつも高慢なクリスチャンしか見たことのなかった私は目を見張った。

どうやらクリスチャンもレア様の事は怖いらしい。



「そう・・・こんなこと私が言うのはどうかと思うけど・・・君も今は一応公爵家の者だ。婚約者はちゃんと選んだ方が良いと思うよ・・・行こうか、レノ」

「もう少しよろしいでしょうか、殿下!」



私の背中に手を添えレア様はクリスチャンにため息をつきながら「なんだい」と言った。



「そのお話だと、まるでマリアンネが僕の婚約者のように聞こえますが」

「何を言っているんだ?当たり前だろう。君がその男爵令嬢を望んだのだろう?その内、正式に発表を行うと聞いているが・・・」

「「え?」」



クリスチャンとマリアンネが同時に声を上げた。

そう、とんだ茶番だ。だからちゃんとポルスター公爵に聞けと言ったのに。



「・・・だって、レオノールとの婚約が・・・」

「半年前にすでに解消されている・・・知らなかったのか?」

「そんな・・・」



なぜか絶望的な顔をして肩をおとすクリスチャンの横でマリアンネが私をにらみつけてくる。

2人は結ばれるのだから私をにらみつける意味が分からないのだけれど。


レア様が私の耳元で囁き私は頷く。

どうせこの後周知されるのだから、今ここで話しても問題ないだろう。

レア様が全体を見渡して澄んだ通る声で言った。



「皆さん、卒業おめでとう。皆さんと1年間ではあるが一緒に学園生活を過ごしたことを嬉しく思う。本当は一時間後に用意していたのだけれど・・・」



そういって使用人に合図を送ると、一斉に豪華な食事が準備された。



「私とラスニック侯爵令嬢は本日結婚する。彼女と3年間過ごした君たちにお礼を込めて食事を用意した。今日は楽しんで帰って行って欲しい!」



始めはびっくりしていたのか静かなフロアだったけれど、ジニア様たちが手を叩いて「おめでとうございます!」と言ってくれた瞬間に、大きな歓声が上がる。



「これから結婚披露パーティーがあるので失礼する」

「・・・嘘よ・・・」



マリアンネが両手両膝をついて、まるで獣のような格好で私をにらみつけた。



「クリスチャンをクリアしたらレア様を攻略できるはずなのに!!あんたなんてただの悪役令嬢なのよ!!私がヒロインなの!!それなのに!!」



私に向かって襲い掛かろうとしたマリアンヌをレア様の騎士が取り押さえる。



「レノ、もう時間がない。あとは彼らに任せて行こう」



取り押さえられるマリアンヌを見て、私は背筋が凍った。

以前の婚約者も茫然としてこちらを見ている。

私はレア様に促されるまま、会場を出た。






次回で本編終了予定です。

さすが王子様、見事なタイミングです(笑)





【溺愛シリーズ】

・大好きなお兄様に溺愛されています。(不定期更新中)

https://ncode.syosetu.com/n9322hp/


・悪役令嬢ですが大好きな王子様に溺愛されています。(1部完結済)

https://ncode.syosetu.com/n0635gm/

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