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2.決意


「いい加減になさって下さい! お嬢様」


 可哀そうに思う気持ちをグッと(こら)え、あえて指導するよう答えるジャニスティ。すると、彼女の落ち着いたような声が返ってきた。


「ジャニス」


「はい、アメジスト様」


 ご理解いただけたのかと、彼はホッと胸を撫でおろしていた。しかしその思いも束の間。座り込んでその子を抱いている彼女は、傘をさす彼の顔を見上げる。頬を伝う涙は雨と合わさり、ぽろぽろと流れる。


 そして、ある決意が伝えられた。


「――連れて帰ります」


「は? お嬢様……今なんと?」


 ジャニスティはその言葉に驚き体の力が抜ける。きっとこれは何かの間違いだと、自分の耳を疑った。


「ジャニス、見て見ぬふりなんて私には出来ないのです。こんな冷たく淋しい路地で一人、助けを待ち信じて頑張っていたであろうこの子を置いて行くだなんて! 絶対……絶対に連れて帰ります!」


「あぁ……はぁ……」


 ジャニスティは返す言葉もない状態に陥る。そして改めて辺りを見渡した。


 そこはいつもであればとまる事なく通り過ぎるような高い建物ばかりが並ぶ、人気(ひとけ)のない場所。その物陰に身を隠すように、目立たぬ暗い路地にその子は倒れていた。


(随分目立たぬ所に。しかしお嬢様は走る馬車からよく気付かれたものだ)


 ほんの数分前に、馬車からボーっと雨粒を見つめていたアメジストが、無意識に「とめて」と叫んだあの瞬間。彼女には何かが奥で光ったように見えていた。痛みと共に心を射抜かれるような想い。気付けば勝手に身体が動き、倒れているその子を見つけたのだ。


 しばらく黙っていたジャニスティは、ふと我に返る。そして心を鬼にし、自分のやるべき仕事を果たすかのように繰り返した。


「どうかご理解を、今回ばかりは無理です。その願いはお受け致しかねます」


 彼の言葉にも先程より厳しさが増す。それでもめげずにアメジストは強く感情的に話し続け、互いに熱が入る。


「助けられる命が目の前にあるのです! それともジャニスは私が同じような状況になっていたら、見捨てるというの?!」


「何を馬鹿な、そのような事は決してあり得ない! 命に代えても貴女(あなた)様の事は必ず、このジャニスがお護りいたします」


 あまりにもショックなその発言。さすがの彼も語調を強めたが、しかし。彼女は最後にまた大きな衝撃をジャニスティに与える。


「でしたらもうお分かりでしょう。()()()()()は皆同じですわ」


 この言葉は、ジャニスティの心に激しく突き刺さるのであった。


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