筋肉が過剰なワケ。
世界の常識。異世界の非常識。
異世界の研究は魔界でも人間界でも行われていますが、この分野に関しては魔界の方が進んでいると言われています。空間が不安定で歪みやすく、異世界から来る人間が多いからですね。私にも何人か異世界人の友人がいます。とある学者さんが言うには、存在する異世界のうち、七割がたが既に解明されているのだとか。地球もその中に入っているのですが……。
「別に性別は普通だったと思うんですが?」
「それは残念だけど時代遅れの情報ね。最近ではLGBTQとかへの対応がスッゴく進んだからオカマもオナベも普通にうじゃうじゃいるわよ?最新の研究によるとーートランスジェンダーとはーーだからね、渋谷区と世田谷区はーーねえ!聞いてるのかしら!?」
オタクのように早口でまくし立てられる学術的な性別論。しかも至近距離から。筋肉が。はっきり言って恐怖しか感じませんでした。私は金輪際、魔法使いさんには性別の話を振らないことに決めました。もうこの人の性別は不明でいきましょう。というか魔法使いで筋肉でインテリなオタクの異世界人ってどういうことでしょうか?
とはいえ、実は、筋肉さえなければスペック自体はそれなりに納得出来るんですよね。異世界人は基本高スペックですから。地球からの異世界人は学のあるオタクも多いですし。筋肉と性別だけが理解不能です。
しかしここで魔法使いさんに筋肉の話を振ってはいけないことぐらいは分かります。二の舞は御免です。長話でうつらうつらしている勇者さんに尋ねることにしました。
「ん?ああ、あいつのあの筋肉量はストレスよ。まあ身一つで異世界から来たんだからそれくらい当然よね」
ストレス?そういうのって普通、甘いものの食べ過ぎで太ったり、髪が抜けるとかそういう形で発現する物じゃないんですか?
「そうね、食べて、太って、痩せたら、筋肉が残ったらしいわ。」
どれだけ太ったらあんな肉塊みたいになるんでしょうか?想像もつきません。というかそこまで太ったら痩せるのは大変でしょうに。
「なんか、好きな人の為なら頑張れるとかなん「この話はやめましょう」
話を遮ってしまった勇者さんには申し訳ありませんが、これからは魔法使いさんの性別に関わる話は全てシャットアウトしていくつもりです。ふと、魔法使いさんの方を振り返ると
「ーだからカクレクマノミは浪漫だけど、ちょっと物足りないのよね。ねえ?聞いてる?」
魔法使いさんは私が『もへじ』を書いて身代わりとして置いてきた枕さんに話しかけていました。あの人には私のことがどう見えているんでしょうか?ちょっと複雑な気分です。
宮廷魔術師の資格は魔術師全体の上位0,1パーセントしか出場できない『魔道大会』において、さらに五本の指に入らなければ得られません。その分、登城権など数々の特権があるのですが……。『宮廷』からもわかるように、王の下につくので、束縛を嫌って資格を蹴るのも珍しいことじゃないようです。因みに、なんで魔法使いさんは宮廷魔術師になったんですか?
「それはね……愛よ。」
あーなるほど。はい。そんな感じですね。なんとなくわかりました。……大丈夫です。いずれ皆さんもわかる時がきます。……理解できるかはともかく。