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もし、魔王が聖剣を抜いたなら  作者: 鷽秋かおす
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勇者の本性と事情。

女勇者の話。

勇者さんはフードを取りました。

んー年は二十歳ぐらいですか。人間の歳なんて、しかも女性の歳なんて全く分かりませんが、多分そのあたりでしょう。人間界だと、嫁き遅れの部類に入るはずです。髪はショートカットで片耳にピアスをつけた「怒らせると怖いおねーさん」って感じです。顔立ちは整っているので、微笑んだら可愛らしいだろうなーとも思いますが。いや、だから何って話ですね。さっきも言いましたが、『勇者が聖剣を持っている』という時点で、勇者が年寄りだろうと幼女だろうと私の生命の危機には変わりありませんから。せいぜい、『むさ苦しいおっさんに殺されるよりマシ』程度のことです。そんなことを考える私をよそに勇者さんは話し始めます。


「私は勇者なんだ」

「生まれた時から勇者だったし、死ぬ時も多分勇者。私自身は魔王討伐には興味ないけど、皆魔王を殺したいみたいだから、じゃあことのついでに駆除しておこうかな?的なノリで。何のついでかって言うと、聖剣のついで。私、刀剣マニアなの。でもって折角勇者なんだから、聖剣もコレクトしたいなって思ってて。今日はここに来たのよ。まさか先に抜かれるとは思ってなかったけど、死ねばいいのにって思ってたけど、そういう理由なら仕方ないわね」


一般人に死ねばいいのにって言い放ったぞ。しかも面と向かって。魔王をノリで駆除とか言ってるし、目的は刀剣だし、勇者どころか危険人物じゃねえか。ん?でもそれだったら


「それなら別に」


「聖剣を私に預けて魔王討伐に行ってもらえばいいって?私も本当は本当にそうしたいんだけど。そこに事情があるの。あなたの手の甲に紋章あるでしょ?聖星紋って言うんだけど」 


私を殺す為のこの爆弾ですね?でもあんまり事情通だと、疑われそうなのでぼやかして答えます。


「一応、名前くらいは」


「そう。一般には名前すら伝わってないから情報は漏らさないように気を付けて。そしてここからもオフレコにしてほしいんだけど、それ、聖剣の主の証だから。」


んー藪蛇ぃ。この辺りが魔王クオリティですね。ていうか、主の証?


「そ、それの持ち主から十メートル以上聖剣が離れると、聖剣が持ち主の元に自動で戻るって設定になってるの。一種の安全装置ね。」


はぁ!?聞いてないですよ!?


「試しましょうか。ええっと、五秒待ってて」


勇者は聖剣を持ったままドアから出ていきました。ゆっくり五秒数えます。いち、に、さん、し、五秒。あれ?五秒はとっくに経ちましたよ?勇者さーん?


ダン!


私が勇者さんの様子を見に行こうとしたその時、ものすごい勢いでドアが開きました。風を切り裂くように飛び込んできた聖剣は、ベッドの上の私の眉間に突き刺さる寸前、三センチほど手前で止まりました。ええ、私は前屈みになったまま、時が止まるのを感じました。視線なんか外せるわけありません。釘付けです。というか……ちょっと漏らしました。魔王なのにとか言わないで下さい。誰だって同じ状況ならこうなります……いや、多分弟は微塵も動じませんね。彼の心臓はオリハルコン製ですから。


恐る恐る聖剣の柄を掴んだものの、処理に困っていると(さっきの今で手から離す度胸はありません。飛んで来そうで怖いです)勇者さんが戻ってきました。


「どう?」


「なっ、なかなか、スリリングですね」


「戦場ではかなり便利。剣を手放しても戻ってくるっていうのは。ちょっと勢いが強いけどそれは仕方ないの」


仕方ない?


「私が、頑張れば持ち逃げ出来ないかなって思いっきり掴んで走ったから」


だから、時間がかかった。と。持ち逃げ自体にはもう突っ込みませんが、勇者の力でも突破出来ないんですかこの魔法。流石に国王の魔法はランクが違いますね。私にとっては呪いそのものですが。なるほど、これがある限り、聖剣を預けて勇者に魔王城に行ってもらうことは出来ないというわけですか。

「これ、解除する方法とかは?」


「腕を切り落とせば、多分大丈夫」


物理的ぃい!そしてこいつだったらやりかねません。今も、聖剣を持っている私を今にも射殺さんような目でにらんでいます。……誰ですか勇者は聖人君子って言ったの。


とりあえず聖剣は勇者さんに預けます。彼女はいざとなれば私を殺してでも奪い取るでしょうから、渡しておいた方がまだ安全です。この際勇者に魔王が聖剣を渡すという限りない不合理には目を瞑りましょう。命あってこその物種です。物種って何の種なんでしょう?

魔王駆除〈ことのついで〉

女勇者は「人を斬るのが好き」って訳じゃなくただ純粋に刀剣が好きなだけ。好きなだけだけど、自らの欲に忠実で、脳筋気味なので、嫌いなもの、邪魔なものは叩き斬る。という生き方をしてきた。聖剣を奪った魔王が寝ている間に殺されなかったのは、ただ女勇者の機嫌が良かったから。というだけの理由。

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