一世一代。命乞い。
勇者…広義ではこの世界に何人かいるめっちゃ強い人間のこと。狭義では聖剣を持つ者だけを示す。
「あ、目が覚めたんですね!おはようございます」
「……おはよう。この枕は?」
真っ二つに切られた枕を見て、心底不思議そうに首をかしげる勇者。
「いや!おめーが切ったんだろ」なんて言いませんよー。と言うか言えません。殺されるのは嫌ですし、この交渉だけはなんとしてでも成功させたいですからね。私の命のために。
と言うか、この声、女性ですか?
「あ、どうやら不良品のようで。最初から半分ずつでした」
「ああ、思い出した。あんた、聖剣を抜いた人ね。私のひとつ前に並んでた」
忘れてたんですか?
「そうです、その人ですね。それでですね、ちょっとお願いがありまして」
「へえ、私もちょっとお願いがあったのよ。交換条件にしましょう」
これ、ひょっとすると最善の展開では?
多分彼女は勇者になりたかったのでしょう。
ただの勇者ではなく、聖剣に認められた、勇者に。とすれば身代わりを快く受け入れてくれるに違いないです。神様も珠には良いことしますね!
私が聖剣を抜いたのは誤作動で、私は魔王なんて倒せる筈のない非力な一般人で、どう頑張っても勇者にはなれない。ゆえに勇者にはあなたがなってほしい。どうか私の分まであのにっくき魔王を懲らしめてやってくれ!と、伝えました。懲らしめてというところに若干の保身が出てしまいましたが……
「やだ。断る。無理。」
勿論、断られるとは思ってもみません。
どうやら神様は私のことが随分とお嫌いなご様子ですね。何でですか?朝晩のお祈りも欠かしてませんし、週一でお供え物もしていましたよね?忘れてるかもしれませんが、魔界に最初の礼拝堂作ったの私ですからね?私の信仰心を試してるんですか?いい加減在庫が尽きますよ?仏の顔も三度までですからね?……私は仏ではなく、魔王ですが。
「あの、どうして断るんですか?」
「事情があってね」
「事情?」
それは私のそれより切実なんですかね?こっちは命かかってんだよ!言ってないけど!
「それは私の話を聞けばわかるわ」
えっとさ、魔王?
「はい、なんですか?」
魔王なのに神?とか、色々言いたいことあるけど
『朝晩のお祈り欠かしてない』
これ、絶対嘘だよね?そんな継続して何か出来る人間(魔王?)じゃないよね、君。
「いやいや、本当ですよ!毎日欠かさず拝んでますとも。……弟が」
それ祈ってるの弟君じゃん。魔王関係ないじゃん。
「弟君が、私の安全と健康を代わりに祈ってくれてるはずなんです!」
よくもまあ、あんな態度を取られてるのに、ぬけぬけと……。
まあ、いいか。ほら勇者の話始まりますよ。命懸かってんだから神妙に拝聴なさい。