死んでしまいます。
弟君、助けて!
「はあ?馬鹿なの?何で勇者の隣でのうのうと寝てられる訳?ちゃんと神経と脳みそ繋がってる?魔王は危機察知能力も強化されてる筈なんだけど?」
それについてはやむにやまれぬ事情がございまして……あと助けて。
「だいたい本当に抜く奴があるか!しかも勇者に聖剣とられやがって!相手を強化してどうすんだ!ああ?そんなに余裕綽々なんか!?このスットコ魔王がっ!」
面目次第もございません……ねえ助けて。
「助けて、ねえ?」
ええ、このままでは死んでしまいます。大事なことなので二度言います。死んでしまいます。冗談抜きで此処より危険な場所はありません。魔王城に住む私が保証します。危険度は王宮の方が上です。きっと此処がラスダンです。
「勿論、助けないけど?」
ああ!ありがとう!いつも罵倒されてばっかだから弟君は私のことが本当に嫌いなんじゃないかってちょっと不安だったんだ!でも助けないでくれるんだったらその不安は杞憂だっ、え?今、なんておっしゃいました?
「助けないよ?だってあんた助けるメリットないじゃん。あんた今現在ただの穀潰しだし。あんたが置いてった実務で忙しいんだよね、俺。そんで勇者と戦えとか。ははっ。ないない。」
私、魔王ですよー?魔界で一番偉いんですよー?私が死んだらまた魔界荒れちゃいますよー?ていうか、それ以前に私達、家族ですよねぇ!?
「家族だね?それが何か?愛してるし大事だけど」
はい!?だけど!?逆接!?愛してるなら助けてよ!?
「あんたを助ける訳にいかない理由はもうひとつある。それさえなければ助ける選択肢もあったんだが」
理由?もしかして私が頼りなくて、使えない魔王だからですか?
「それはいつものことだろ。そうじゃねえ。あんたの手の甲にある入れ墨。そいつが問題だ。そいつは聖星紋って言ってな?効果はまあ色々あるんだが、勇者をサポートするための紋章だって話だ」
それが聖剣を抜いた私に付いた。と。でもそれは……
「ああ、歓迎すべき話だ。聖星紋の回収は間違いなく勇者の戦力低下に繋がるからな。なくても化物には変わりないが、あるよりは十倍マシだよ」
だったら!
「ここで質問だ。いや、問題か。魔王がもし格上と戦って、勝たなくっちゃならなくなった時、どうする?」
は?え?それは……毒とか爆弾とか使ったり、不意打ちとかをしますかね?勇者にはたぶんどれも通用しませんけど……これこの話に関係あります?
「それが大ありなのさ。そしてあんたの解答は実に完璧だ。流石魔道学校を首席で卒業しただけあるな。それがそのまま答えだよ」
はい?どうゆうこと?
「あんたの手の甲のそれは、国王が直々にこしらえた、毒入りの爆弾なのさ。不意打ち用のね。えげつないことを考えるよ。勇者には害意はないから警戒もできない。爆風と毒は魔王城みたいな密閉空間では確殺コンボ。あんたが言ったように勇者には効かないからノーリスクハイリターンだ。要するにあんたは今日、ぐうたらの、使えない魔王から、勤勉に、使われる爆弾へと、ジョブチェンジしたって訳さ」
魔王→ジョブチェンジ→爆弾。