昼下がり。魔王城。
初めまして!鷽秋かおすと申します!これが初作品、初投稿です!拙い文章ですが、少しでも楽しんで下されば幸いです。感想、誤字報告、評価等々もお待ちしております。
聖剣……勇者の為の剣。抜けた者には魔王を下す力が与えられると言われる。
ある日の昼下がりのこと。
魔界の奥深くに佇む孤城。その最深部の魔王の執務室に、一人の青年が仁王立ちしていた。
無造作ながら不潔さを感じさせない髪と、色気すら覚える曲線を帯びた角。服の上からでも鍛え上げられているとすぐ分かる肉体。にも関らず暑苦しさを微塵も覚えない無駄のない所作。
それらを携え、落ち着いた燕尾服に身を包んだ彼は、男も女も関係なく虜にしてしまう美しさを、魔界随一と表されるその美貌を、苦々しげに歪めながら、眼前に、というか眼下に寝転がる『魔王』を睨み付けていた。
「おい!起きろ!」
うーん?あ、弟くん。ひさしぶりですね。昨日ぶりですか。お早う。
怒鳴られた当の魔王は立ち上がろうともせず、寝っ転がった状態のまま、いい加減というにも憚られる挨拶を返す。
「早くねえ!今何時だと思ってんだ!」
休みの日ぐらいだらだらしててもいいじゃないですかー。朝が弱いのは知ってますよねー。
「だからもう朝じゃねえんだよ!昼だ!つーか!いい加減儀式ぐらいしてこいよ糞魔王!だから風格がないだの言われんだ!」
ええーまだ昼ごはん食べてないんだから朝ですよ。私の中では。
というか糞って酷くないですか?あと儀式ってなんでしたっけ?
「歴代魔王がやったっていう、魔王になるための儀式ってやつだ!勇者のための聖剣を勇者に使われないように抜いてくるんだ!勇者の弱体化のために!言っとくが、俺一回お前にこの話伝えてるからな!」
あー。そんな話を聞いたような……。え?それ私が行くんですか!今から?いや無理無理無理。無理ですよ。
「うるせえ!まあ人間が、しかも腕に覚えがある人間が集まる所に行くんだから楽じゃねえが、別にお前が本気で抜けるなんてだれも思ってねえよ。肝試しみたいなもんだ。行って帰って来れば箔が付くんだよ。怖いとかいいから行ってこいや穀潰し!は?駄々こねてんじゃねえぞ?あ?死ぬ?今俺に殺されんのとどっちがいいんだ?別にお前が死んだって実務は俺がやってんだから問題ねえよ?大人しく死んでこい」
と弟に言われて(脅されて?)参りました。魔王です。
あのあとすぐにメイドに旅人風の衣装に着替えさせられ、今聖剣の列に並んでおります。
そうそう、ここに来て思い出したことがあります。そう言えば私は人間恐怖症でございました。対戦士以前の問題ですね。
そしてさらなる問題がございます。主に私のすぐ後ろに。そこには馬鹿みたいに強い奴が並んでます。多分勇者です。つまりは人形の悪夢です。怖くて振り返れませんが、間違いありません。一刻も早く逃げ出したいところですが、一度並んでしまった以上列から出るのは目立ってしまうでしょう。魔王だと気付かれたら完璧に死にます。後のことは弟がやってくれるとはいえ死にたくはありません。ああ、なんだか気が遠のいてきました。ぼおっとします。
兵士「次!」
ちょっとぼんやりしているうちに私の番です。嫌ですね。ばれたら兵士さんのあの槍で殺されるのでしょうか。それとも勇者さんが襲いかかってくるのでしょうか。
立て看板を読むに……制限時間は三十秒らしいです。普通は皆さん粘るでしょうから、時間一杯使わないと浮いてしまいますね。嘆息ひとつ。まず剣の柄を掴んでと、おお光が溢れてきます。流石勇者の剣、演出過多ですね。え?何です?何で兵士さんは目を見開いてるんです?何で国王が身を乗り出してるんです?何で急に周りがざわつくんです?嫌な予感がしますとにかく剣から手を離してっ!
ふう良かった。私の手は無事です。指も全部あります。ちゃんと聖剣から手が離れて良かったです。良かった。ええ、本当に良かったですよ?私の手の甲になにやら奇抜な入れ墨があって、抜けた聖剣が床に転がっていて、全員の視線が私に集まっていてさえいなければ!!!
好奇心、期待、疑惑、怒り、その他もろもろがこもった視線。
あ、むり、無理です。許容量オーバー。
そうして私は意識を手放しました。
成り行きで聖剣を抜いてしまった魔王は、いったいどうなってしまうのか!
魔王の今後に乞うご期待!
作者の当面の目標は、完結すること!