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~第二の錦織圭たちに贈る言葉(36)~ 『ストローク技術の進化に対応せよ(戦略・戦術編)』

作者: 目賀見勝利

           〜第二の錦織圭たちに贈る言葉(36)〜

         『ストローク技術の進化に対応せよ(戦略・戦術編)』


1. まえがき;

2021年2月の全豪オープン決勝をWOW・WOWライブ放送とNHKの録画放送のTV放送でた。ダニール・メドベーデフ選手とノバク・ジョコビッチ選手との決勝戦で、ジョコビッチ選手が7−5、6−2、6−2でメドベーデフ選手をストレートで破り優勝した。

前年の2020年11月のATPファイナルズのラウンドロビンでは、ジョコビッチ選手は3−6、3−6でメドベーデフ選手にストレート負けしていた。当然、ジョコビッチ選手はリベンジを目指しているはずと私は思い、二人の対戦がどうなるかを楽しみにしていた。

さて、二人の戦略・戦術を分析する前に、決勝戦開始前のインタビューでの二人の発言を書いておく。


メドベーデフ選手の談:正直に言って、ゾーンの入ったジョコビッチ選手はほとんどミスをしない。ダウンザラインやクロスを狙ったフォアハンド・バックハンドストロークは何処を狙ってもミスをしない。そこ(ミスをしないこと)が彼との対戦で難しいところだ。彼を倒すにはフィジカル面でもメンタル面でも5時間近く自分のベストを出し続ける必要がある。試合に勝つには、すべての瞬間でベストな判断が必要だ。それが日曜日(の決勝戦)でも必要になる。


ジョコビッチ選手の談:メドベーデフ選手は倒さないといけない相手だ。大きな大会で連勝しているし、昨シーズンをベストな形で終えた。彼はトッププレーヤー相手でも余裕で勝っている。私もロンドンでのATPファイナルズでストレート負けを喫した。

彼は多くの改良した技術を持っている。ビッグサーブやフットワークはすばらしい。弱点だったフォアハンドストロークもすごく改良されている。バックハンドストロークも相手選手にとっては返球しにくい球を打つ。攻撃的にネットの出てきては簡単にポイントを取る。


この二人の談での大きな違いは、ジョコビッチ選手の方が、相手の技術の特徴を具体的に列挙している点である。

一方のメドベーデフ選手はジョコビッチ選手の具体的技術ではなく、『ミスをしない』と云う抽象的な表現になっている。具体的にどのようショットで、どのようなミスをしないのかを述べていない。また、どのような場面で、どのようなデシジョンを下すのかを具体的に述べていない。論理的ではなく、感覚的なのである。これでは具体的なショットの練習を試合前に体得することができない。

ジョコビッチ選手はメドベーデフ選手のプレーを録画ビデオで観て、かなりの対策を考え、試合前に具体的なパターン練習を行っているなと私は感じた。たぶん、ATPファイナルズで負けた後、すぐに対策を練り始めたと思われる。

この二人の分析力の差が、全豪オープンでの戦略・戦術を決めるうえでの大きな差になったと私は考えている。『算多きは勝ち、算少なきは勝たず。いわんや、算無きに於いておや。』である。また、『善く戦う者は即ち、勝ちて後に戦う。』である。試合前に勝負は着いていたのである。


話は変わるが、私はよくゴルフトーナメントのTV番組を見る。その時にいつも思うのが、日本選手が翌日に対するコメントを求められた時、プレーに対する具体的な回答が出来ない選手が多いことである。『今日と同じように頑張ります。』と言うだけで、『(今日は何のどこが悪かったから)明日はコースに対して、何を、どのように頑張る』のかが具体的に述べることができていない。その選手は必ず翌日のスコアは悪い。今日の自分のプレーに対する分析が具体的に出来ていなのである。これでは、翌日のコースでどのような注意を具体的に行えば良いプレーが出来るのかが思い浮かばないはずである。


本論(2.贈る言葉)では決勝戦でのプレーからジョコビッチ選手の戦略・戦術を分析する。



2. 贈る言葉;

前回での贈る言葉(35)で述べたメドベーデフ選手の『進化したストローク技術』を抑えることがジョコビッチ選手にとっては第一課題である。メドベーデフ選手は胸元の高さでインパクトする『ラケットを振るスピードが速い』フォアハンドストロークでジョコビッチ選手をほんろうしてATPファイナルズでは勝利した。

即ち、高く弾まない打球を打つことがジョコビッチ選手の戦術になる。そして、それを意識させて、ストロークミスを誘う事が重要である。

また、メドベーデフ選手の強力サーブの精度を悪くするには、セカンドサーブ時にリターンエースをねらい、ファーストサーブに対してプレッシャーを加える必要がある。これがジョコビッチ選手にとっての第二の課題である。

この第一、第二課題の目的は『対戦相手の心を攻めて乱す』ことである。

そこでジョコビッチ選手は戦略領域をベースラインでのストローク戦を選択した。

メドベーデフ選手の第一サービスに対してベースラインから1メートルくらいの位置でレシーブ。第二サービスではベースラインでレシーブする戦術を選んでいた。

また、ストロークは相手選手のベースライン近くに弾まないボールを打つために、コントロールを重視したスライスやフラットのストロークを打っていた。また、ストロークラリー時での返球は極力相手ベースラインの中央付近に返球し、サイドライン付近を狙った鋭角の強打を打たせないように返球していた。この試合でジョコビッチ選手はほとんどトップスピンのストロークは放っていない。

このため、メドベーデフ選手は少しづつフラストレーションが溜まり始め、膝もと高さでのインパクトでも強打してバックアウトミスやネットミスが出始め、『心』が崩れ始めた。ジョコビッチ選手がトップスピンで強打するシーンはチャンスボールが来た時だけであった。

一方、メドベーデフ選手には戦略と思えるものはなく、ジョコビッチ選手のエースをねらったコーナーへの強力サーブに対するために、レシーブ位置をベースラインから3mくらい後方に立つ戦術を取っていた。この全豪オープンで、ジョコビッチ選手は決勝以前までで100個のサービスエースを取っていたからである。

どのようなレシーブポジションをとっていても180Km/hのサーブがサービスコートのコナーに決まった時はエースになる。予測が当たったとしても、せいぜいラケットをボールに当てるだけで、イージーボールが相手コートに返り、エースを打ちこまれるのが落ちである。

むしろ、レシーブポジションがベースラインから遠いのでサーブする選手はリターンで攻撃される心配がないだけ、サーブをリラックスして打てるようになり、マイナス面の方が多い。


メドベーデフ選手の敗因は明らかに戦略なしでの戦術ミスであった。言いかえれば、先に述べたように相手選手に対するメドベーデフ選手チームの分析力の無さであった。



3.追記;勝因と敗因の技術詳細分析(戦術分析)

DVDレコーダーに録画した決勝戦の模様を動画再生し、静止、コマ送りを繰り返しながら二人の技術を確認した。

まず、ジョコビッチ選手のストロークは、強打はネットより高い打点がほとんどで、通常のストロークは相手コートでボール弾まないようにフラット気味のトプスピン、フラット、スライスをコントロールしながら打球し、相手側ベースライン付近を狙って丁寧にストロークしていた。サーブはセンター、ワイドのコーナーを適確に狙い、第一サーブはほとんどがスライスサーブで、メドベーデフ選手はひざ元から臍の高さでレシーブさせられていた。第二サーブはトップスピンでメドベーデフ選手に時々撃ち込まれていた。

また、ドロップショットはほとんどがメドベーデフ選手のバックサイドのネット際に落としていた。

そのボールを拾ったメドベーデフ選手からのダウンザラインへの返球をいともたやすくボレーロビングでエースをとった場面を見て、これはパターン練習をしたな、とすぐに感じた。

クロスへの返球も落ち着いて、メドベーデフ選手のフォアサイドベースライン近くへ打ち返しエースをとっていた。

孫子曰く、『およそ、戦いは正を以って合い、奇を以って勝つ』である。

正はストローク、奇はドロップショット。これで勝利は決まった。

時々行ったネットプレーはメドベーデフ選手を惑わす陽動作戦であった。


一方、メドベーデフ選手が勝利するには『胸元の打点のスピードストローク』でエースを多くとり、リズムに乗れるかどうかであった。しかし、ジョコビッチ選手の弾まないストローク球のため、なかなかエースショットを打つチャンスがなかった。低いひざ元のボールを強打してはサイドアウト、バックアウトを繰り返し、次第にリズムを失って行った。そして、時々胸元に来たボールを『スピードストローク』で強打するのだが、これをバックアウトさせる場面が多かった。昨年のATPファイナルで放っていた『スピードストローク』と大きく違っていた点があった。

それは、ジャンプしてストロークを放っていた点である。しかも、ジャンプしなくても胸元でインパクトできるボールをわざわざジャンプして打っていたのである。

ジャンプして打つ場合は身体をやや前方に飛ぶようにしなくてはいけないのに、真上に飛び上がっていたのである。しかも、膝を曲げるだけジャンプである。これでは自分の打球からの反力で体が微妙に反らされてバックアウトしてしまう。

完全に『心』が乱され、焦り、過去に体が覚えていたストロークの欠点が出てしまったようである。

第三セットはジョコビッチ選手に翻弄されっぱなしであった。若さが出てしまったと云うよりは、ジョコビッチ選手が持っている技術に対する分析が不十分であり、相手の作戦を推理し、その対策を怠ったと言える。それが敗因である。


4.あとがき;

この決勝戦を総括すると、ジョコビッチ選手が『先手を取ることに成功した』ことに尽きる。

宮本武蔵は五輪書で先手には3つの先手があると述べている。

『先の先』、『後の先』、『対対といといの先』である。

テニスでは『先の先』はサービス攻撃であり、『後の先』はレシーブ攻撃、そして、『対対の先』はストローク攻撃である。

ジョコビッチ選手はこの三つに成功した。

サービス攻撃は180Km/h程度のサーブ球をサービスコートのコーナーに打ち込めばよい。

レシーブ攻撃はクロスコートに打ち込まれたサーブ球をダウンザラインに150Km/h程度のレシーブ球で打ち込めばよい。

ストローク攻撃には二つある。ドロップショットと逆サイドへの出球アプローチショットである。この出球が有効かどうかを感じ取ってからネットへ走る能力を身に着けておくこと必須である。

先手を取ることがポイントを取ることにつながると云うことである。(2021年3月4日追記)


※ 追記1;2021年9月15日追記

   2021全米オープン男子単決勝戦をTVで見た。

   メドベージェフ選手が6-4,6-4,6-4でジョコビッチ選手に勝利し、全豪オープンの雪辱を果たした。

多分、全豪オープンでのビデをを見て、何が悪るかったかを確認し、ジョコビッチ対策を練習したと思われる。勝因はラケットを振るスピードの速さであった。これは、昨年に身に着けていた技術であり、自分を信じてプレーしただけであった。2月の全豪オープンでの負けは、第一セットをタイブレークで取られ、『心』が不安定になってしまい、第二セット、第三セットは心が乱れ、技術を正しく出せなかっただけなのである。『心』が『体』を支え、『体』が『技術』を支え、『技』が『心』を支える好循環(上昇スパイラル)に入ったメドベージェフ選手が、予測が遅れて返球ミスを繰り返して『心』を乱したジョコビッチ選手を自滅においこんだのである。

野村克也曰く『負けに不思議の負けは無し』である。




※ 追記2;2021年9月17日追記   

2021全米オープン男子単決勝戦をWOWOWオンデマンドで録画ビデオ映像を再チェックした。

まず、試合前の通路でのコメントの概略は次の通りであった。

メドベージェフ選手:過去のようなプレーでは(ジョコビッチ)に勝てない。

          100%の準備をしてきた。

          (勝てるかどうかは別にして)それをすべて出す。

 ジョコビッチ選手:(年間グランドスラムのかかった)試合を楽しみたい。

          (気持ちは)ワクワクしている。


この二人のコメントから、対戦相手について対策を充分してきたのはメドベージェフ選手かな、と思った。ジョコビッチ選手は今回の試合全体に対する自分の思いを述べたコメントになっており、

メドベージェフ選手の直近のプレーに対するコメントは全くなかった。

本稿のテーマは『対戦相手は常に進化している』のであるから『進化に対応せよ』である。

そして、試合を見て、分析して判った。ジョコビッチ選手は2021全豪オープンの時のメドベージェフ選手のプレーが脳裏に残っているだけであったことが。


メドベージェフ選手が決勝戦で見せた進化内容は次の2点あった。

1.ストロークは腰を下ろして、体を前に動かしながらインパクトしていた。

ジョコビッチ選手に自分のフォアサイドに走らされて打球するときには、セミオープンのスタンスから左足を軸足にして右足を前に振り出すようにして体を前に動かしながらボールをインパクトし、オープンスタンスの形でストロークをフィニッシュした場面が多くあった。(この打球方法はナダル選手も時々おこなっていた)

2.ジョコビッチ選手のドロップショットに素早くは反応していた。(予測が早くできていた)


いずれも、全豪オープンでの敗因となった技術を修正したのである。

1.は打球の威力を増すだけではなく、ジョコビッチ選手の勢いある打球に押し負けないので、ネットしにくくなる。

2.では、ジョコビッチ選手のドロップショットをいち早く予測し、すべてボールに届いていた。


上の2点に対してのジョコビッチ選手の対応は次の通りである。

1.ストローク戦では自分の方がミスが多くなるのを感じ取り、ネットプレーに活路を見出そうとした。ジョコビッチ選手がサーブアンドボレーなどのネットダッシュをした回数は47本であり、31本がポイントにつながった。

2.ドロップショットは拾われるのを見越して、自分もネットに詰める準備をしていたが、ポイントになったのは半分くらいであったと思う。

1.2.合計のアンフォースエラーは38本であった。


一方、メドベージェフ選手もジョコビッチ選手の威力あるストロークやボレーのため31本のエラーをした。また、サービスエースは16本でジョコビッチ選手の6本を上回った。


ジョコビッチ選手の敗因は、相手選手の事前分析を怠ったことであろう。

自分の特徴であるストローク戦を放棄し、急遽ネットプレーに戦術変更したため、自分のリズムを見失い、『心』が乱れてしまった。自分のラケットを床にたたきつけて破壊し、警告を受けている。


孫氏曰く『算多きは勝ち、算少なきは勝たず、況や算無きに於いておや』である。




追記3:2021年11月9日【2021年11月8日のATP1000パリ大会決勝の敗因を考察】

    ジョコビッチ選手がメドベージェフ選手に4-6、6-3、6-3で勝った。この試合、全米オープンの時と同じような試合展開であったが、ジョコビッチ選手は怒りを抑え、自分のストロークのリズムをしっかりキープして打球をしていた。メドベージェフ選手も自分のリズムで第一セット、第二セットをプレーをしていた。しかしながら、疲れが出始めた第三セットはサービスブレークを2回とられた。

    何故にブレークを許したのか。

    敗因は何だったのか。私の分析を述べる。

    敗因は、メドベージェフ選手のサーブレシーブ技術に欠点があるからである。何故にサーブレシーブ技術の欠点がサービスブレークされることに結びついたのか。

    それは心理面への影響からである。この試合、ジョコビッチ選手は全米オープンの時と同じようにネットダッシュを頻繁に行っていた。特にサーブアンドボレーの回数は全米オープンの時より多かった。サーブアンドボレーをされた時のメドベージェフ選手のリターンは全部浮き球になって、ボレーを簡単に決められていた。メドベージェフ選手のレシーブは待機位置でインパクトしていたのである。

    贈る言葉(8)『サーブレシーブは一歩前に突っ込んで打て』ができていなかった。このため、ジョコビッチ選手の気のこもったサービス球の威力に押され、返球は浮き球になっていた。このことを感じていたメドベージェフ選手の心に『不安』が起きていたというよりも、ジョコビッチ選手のサービスをブレークしないと勝てない最終セットになって、メドベージェフ選手は気持ちが揺らぎ始め、疲れの影響でプレーの精度が落ち始めた。

    この試合、両選手の高度なストローク戦は互角であったが、ジョコビッチ選手のサーブアンドボレーに対するがメドベージェフ選手のレシーブ返球が弱かったのが勝敗を決めたと謂える。


     『心は身体を支え、身体は技術を支え、技術は心を支える』である。



  

          『諸君の健闘を祈る』

        目賀見勝利より第二の錦織圭たちへ

           2021年2月24日

           2021年2月28日追記

           2021年3月4日追記

           2021年9月15日追記

           2021年9月17日追記

           2021年11月9日追記


参考文献; 孫氏の兵法   安藤亮著  日本文芸社  昭和55年8月 発行

 


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