2人の童子
サァァァーーー
「雨、、、」
凛太郎は空を見上げて呟いた。
「どこか入りましょう」
ハオがきょろきょろと丁度良い建物を探す。
「亜助、あんたあの店の前にいる気持ち悪い奴何とかしといて」
ジルは顎で亜助に指示をした。
「・・ほんと人使いが荒いんだから」
亜助は¨者¨のいるほうへ小走りで向かった。
「うわ!ほんとに気持ち悪い!」
店の前にいる¨者¨はカエルのように地べたに張り付いていた。
「気持ち悪いって言うな!!」
「!!わ!何だ!」
その深緑のスライムのような¨者¨はその場に飛び上って声を出した。
スライムのような気持ち悪い皮の中から昔の中国のような格好をした子供が涙を浮かべ、顔を真っ赤にして亜助を睨んだ。
(え、何この子・・?!)
「・・ガラ?」
亜助の背後からジルの声がした。
「・・ジッ!・・ジル様ァァァ〜〜〜!!!」
天界人なのか男の子はジルの足元にしがみついて泣いた。
ジルはその子供を抱きしめた。
「随分探したよ」
まだ幼いガラという子供は緊張の糸が切れたのかわーん!と声を上げて泣いた。
ーーーーー
「さっきはカッコ悪い所を見せた。オイラは矜羯羅。ガラと呼べ。」
小さいくせに何とも偉そうなガラは亜助と凛太郎に自己紹介をした。
「・・・亜助です」
「凛太郎です」
2人もガラにそう返事をした。
ガラは2人を交互に見て
「何だか弱っちそうな奴だな」と怪訝な顔をして言った。
ーーコツン
ジルはガラに優しいげんこつをした。
「こらこら。亜助はともかく凛太郎にまで偉そうに言うんじゃないよ」
ジルに注意をされたガラは涙目になって言った。
「・・・ごめん・・凛太郎」
「気にしないで」
凛太郎は笑顔で応えた。
(僕は無視かっ!)
亜助は1人不貞腐れた。
「ガラ、、タカとは逸れたのか?」
ジルがガラに心配そうに尋ねた。
「いや、、、タカはオイラにここにいろって・・・困ってる天人や人間を助けに行った・・・もう5日目だ・・・」
「雨も降ってる。私達もしばらく此処で待つよ」
ジルの提案に黙って成り行きを聞いていたハオは
「じゃ、ここのコーヒーショップにしましょう」
るんるん、といった様子で店内へ入っていった。
「苦い!」
「ガラはこっちにしな」
自分も皆んなと同じコーヒーを飲むと言ったガラは案の定ジルにジュースを渡された。
亜助はこんがらがった頭の中を暖かいコーヒーを飲みながら整理した。
(ジルは不動明王で、ジルにお使えする矜羯羅¨ガラ¨、更にもう1人使いがガラの兄、名を制多迦といい¨タカ¨と呼ばれている、、、ややこしいな)
今彼らはその¨タカ¨を待っているということだ。
機嫌が良さそうにコーヒーメーカーを色々といじっているハオを横目に亜助はジルに聞いた。
「ハオさんは、、その、、こっちで言う何て神様?」
「あー、、アルテなんとかっていう女神だよ」
ソファーで目を閉じてくつろいでいたジルは片目だけ開けて応えた。
「・・アルテなんとか・・」
亜助は途中で寄った本屋で
【世界の神】という本をリュックに忍ばせていた。
(あった!アルテミス!ギリシャ神話に出てくる女神様なんだ!)
ハオの美しさに納得した亜助はそのページに一通り目を通した。
(・・ここに書いてあることが全部本当なら女神ってすごく恐ろしい・・・!)
亜助は不動明王のページで何か戦いの役に立つ情報がないか読んでみる。
(あ、矜羯羅と制多迦ってこっちでも名前同じだ!)
亜助は知らなかった知識に興味津々になった。
「此処で休んで明日の朝までタカを待とう」
ジルは皆んなに言った。
「・・もし帰って来なかったら、、」
ガラは涙を浮かべた。
「大丈夫だ。明日の朝になったら桜も飛ばす。ハオにも協力してもらうしお前にも笛があるだろう?」
ジルは優しくガラを宥めた。
「はい!!」
ガラはくしゃっと笑った。
ーー翌朝
昨夜の雨が嘘のようによく晴れた朝だった。
「桜頼むよ」
ジルはそう言って桜を空へと飛ばした。
ハオはあたりを見回して
「アレが丁度いいわね、ガラ、タカの匂いのついた物を何か持っていない?」
ガラはコレ、、と言って布きれをハオに渡した。
ハオは徘徊していた¨者¨に近づき、掌から出した粉をかけた。
するとその¨者¨は狼のような動物へと姿を変えた。
「この匂いを探しておいで」
ガラから預かった布切れをその狼に嗅がせながらハオは言った。匂いを嗅いだ狼は町中へ消えていった。
「ハオさん、、¨者¨を狼に変えた、、」
亜助がポツリと呟いた。
10分ほど経って
「そろそろタカを呼んでみな」
「・・うん」
ジルに言われガラは笛を取り出した。
♪♪〜♪♪♪♪〜♪♪♪〜〜
ガラの奏でる笛の音はとても優しかった。
♪♪♪〜♪♪〜♪・・・「あ!!」
ガラの視線の先には桜、狼、そして
「ただいま・・・」
凛太郎より少し大きいくらいの少年がボロボロになって立っていた。
「タカーーーーー!!!!」
ガラは涙をボロボロこぼしながらタカに駆け寄りしがみついた。
「良かったわね、タカ、薬を作るわ、手当てしましょう」
優しく言ったハオの隣で先程の狼は苦しそうに息絶えた。
(え!狼死んだよ!!)
亜助だけはそこに注目して驚いた。
「・・タカ、、人間なんて放っときゃいいのに、、」
口を尖らせてガラが言う。
「困った時はお互い様だって言っただろう?それにたくさん天界人だって助けることができたよ」
タカが避難させていた何人もの天界人を先程、桜が異空間へと運んだ。
「僕は亜助。良かったら食べて」
タカと呼ばれるとても感じの良い少年に亜助は菓子パンを渡した。
「ありがとう。亜助さん。」
パンを受け取り、タカはやはり感じの良い笑顔で応えた。
「タカ、悪いが動けそうならもう出発するよ」
「はい、ジル様。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
そう言ってタカは頭を下げた。
「気にするな。私もタカが無事で嬉しいよ」
ジルにそう言われ、タカは嬉しそうに微笑んだ。
人数が増えた一行は更に東へ向かった。