神の力
「・・・神様が万引きしてる・・・」
亜助は目の前で人のいないコンビニでパンとストロー付きの牛乳を持ち出し、店前の地面に座って食べ始めたジルを見て唖然とした。
「誰もいない」
「そうだけど、、」
朝ごはんを食べた亜助はジルが食べ終わるのを待った。
「変だな、、誰も商品を持ち出してない、、」
亜助は人はいないがさほど荒らされてもいない店内を見渡して不思議に思った。
パン!パン!パン!!
!!
「この音ってもしかして!!」
亜助が声を出すと同時にジルは音のする方へ向かう。
その速さに当然亜助は追いつけない。
「ジル待って!」
遥か先のジルの背中に向かって叫んだ。
「ジル!!!」
立ち止まるジルの前方の人影に亜助は目を向けた。
そこには銃を向けたままの警官と、その銃口の先に倒れている妖怪のような¨者¨。
しかしジルが見つめているのは警官と¨者¨の間に血を流して蹲っている子供だった。
その子供は神側の人物だと亜助はすぐに理解した。
(体が、、透けてる、、?)
「結衣蘭・・・」
ジルはゆっくりと子供に近づいた。
「・・・ジル・・様です・・ね」
もう目が見えていないのか結衣蘭と呼ばれたその子の視点は定まっていなかった。
「こいつは結衣蘭が?」
死んでいる¨者¨についてジルが尋ねた。
「は・・い・・やっつけ・・ま・・した」
「やるね」
ジルは子供の背を支えながら頭を撫でてやる。
「ふふ、、す・・ごいで・・しょ・・」
「あぁ、、上出来だよ」
ジルの声はとても優しかった。子供は安心したようにゆっくりと目を閉じた。
「ジル、、、」
亜助は小さく声をかけた。
ジルは子供をそっと寝かせた。
子供の体には三箇所、打たれた痕があった。
ジルがゆっくり立ち上がり警官の方を向いた。
ジルが放つ怒りに亜助は全身が震え上がった。
ジルの警官を見下ろす目は全身から放つけたたましいほどの怒りとは真逆の冷淡なものだった。
警官はガクガクと震える両手で持った銃を今度はジルに向けた。
「なぜ結衣蘭を殺した」
「そ、、そいつもバケモンだろ!」
「お前は下等生物と神仏の見分けもつかないのか」
ジルの纏う空気が更に禍々しいものになっていく。
パン!パン!!
「ジル!!!」
警官はジルに向かって発砲し、亜助は思わず叫んだ。
「え、、、」
亜助が見たのはジルの纏う禍々しい空気の中に浮かんで粉々になった鉄くずのようなものだった。
「お、、お前もバケモンかよ!!」
警官は両手を地面に付けて後ずさった。
「愚かな人間よ」
ジルは警官に向かって手を振り払った。
「ぎゃああああああああああ」
粉々の鉄くずに見えたものが一斉に警官の前身にめりこんだ。
「ジル!!お願いやめて!!!」
亜助は必死でジルの腕を掴んだ。
(熱い!!)
「なぜ止める?神は人を殺さないとでも?」
ジルの表情は変わらない。
「そうじゃないけど、、、」
警官は熱い、熱いともがき苦しんでいる。
「結衣蘭はよくこっちに降りて人間を助けていた」
「わかるよ!ジルの気持ち、、!だけど、、、!」
亜助は一生懸命訴えた。
「力のない子供を、、」
「僕が、、僕が強くなるから!!」
亜助は叫んだ。
「この人も、、元は人を助ける仕事をしてたんだ、、!こんな世界になって誰が敵で誰が味方かわからないんだよ!!この人だけじゃない、、人間は皆んな弱いんだ、、、!!」
「亜助、何が言いたい」
「皆んな死にたくないんだよ、、、人間は臆病だから、、だから、、僕が、、、」
亜助は涙ながらに訴え、力の限りジルの腕を抑え続けた。
次第にジルの殺気のようなものが和らいでいった。
シュッ!!
ジルは亜助に掴まれていない方の腕で今度は内側に腕を引くと、警官にめり込んだ針のように鋭い粉を一気に引き抜いた。
「うぎゃあああああああああああ」
全身から細かい出血はしているが警官は生きている。
「しばらく地獄を見ろ」
地面にパラパラと落ちた粉からは湯気のようなものがたっていた。
ジルは振り返ると結衣蘭という子供の方へ戻り、抱き上げ目を閉じた。
「消えた、、、?」
子供はジルの腕の中で眩い光となり姿を消した。
「結衣蘭はこっちでいう¨天使¨だから」
「そうだったんだ、、、」
ジルはまだ自身の腕の中を見つめていた。
「本来天上の人間に¨死¨は存在しない」
「じゃあ、、!」
「此処は天界じゃないから」
ジルは眉間に皺を寄せた。
「こんな世界に一体誰が、、、」
「今はまだわからない。わかるのは私達よりはるかに力のある神だ」
「そんな、、、どうすれば、、」
「だから10人それぞれが波長の合う人間の元に散った」
「神様10人に人間が10人いれば、、!」
亜助の期待の言葉にジルは応えなかった。