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(ほぼ、モデル・サクラ目線 2)


「わ…私は、千勢にございますっ!」


(あれ、何言ってるんだろう私…!清様が、前世の記憶を持っているなんて保証はないのに…)


一色湊人は、綺麗なブルーグレーの瞳を瞬かせて、しばし固まっていた。しかし、しばらくすると、フッ、とため息を吐いて懐かしそうに微笑んだ。


「そうか…千勢か…」


まるで、家族に向けるかのような優しそうな微笑みに、一瞬絆されそうになってしまう。

(やっぱり、この人も前世を覚えていた。)

だから言わずにはいられなかった。


「わちきゃ、清様が憎うてなりんせん…なぜ桜木姐さんを…」


サクラはうつむいて唇を噛み締めた。


「…お前の怒りは当然だ。俺があいつを殺したようなものだからな。でも、だからこそ、今世で彼女と再会したら、世界一、幸せにしてやりたいんだ。」


一色は、苦しそうに眉を歪める。


(この男は…本庄さんが、桜木姐さんの生まれ変わりだと、全く気づいていない…)


「私は、清様を信用していません。」


「無理もないな。」


力なく肩を竦めた一色の姿は、常に自信に溢れてみえた、前世の清様の姿とは少し違ってみえた。


「千勢、まさか、モデルの件まで取り消したいなんて―――」


「それは、ありえません。」


一色は、安堵したようにため息を吐いた。


「なぜ、急に『ウェヌスタ(うち)』のモデルを引き受けたんだ?」


「それは…」


(もちろん、一番は、桜木姐さんの役に立ちたいと思ったから…)


「千勢?」


「いえ…本庄ハナさん、あの方が用意してくださった口紅のサンプルは、とても魅力的でした。」


「…本庄か」


一色は、眉を潜めて不思議そうに首を傾げる。


「清様。もし、桜木姐さんと再会したらどうなさるおつもりですか?」


サクラは、真剣な眼差しを一色に向ける。


「もちろん、結婚する。そして必ず幸せにする。」


「…どうやって、幸せにするおつもりですか?」


「あいつの望みは全て叶えてやりたい。欲しいものは何だって与えて、彼女を死ぬまで笑顔にするんだ。そのためだったら何だってする。手始めに、俺はグループの総帥になる。彼女に見合うような国一番の男になるんだ。」


「クニ…イチバンノ…?」


(この人…何言って…)


前世の清様は、まだ自分が子供だったせいか、もう少し落ち着いてみえた。確かに自信たっぷりなところは全く変わっていないが、発言内容があまりにぶっ飛んでいる。支配階級の一族として、特殊教育を受けて育ったせいで頭がおかしくなってしまったのだろうか。


「そ…そうですか。」


でも、一色湊人は、前世のどこか策略家で冷めた印象の清様とはどこか違う…。真っ直ぐな瞳には熱が籠り、内容はともかくストレートな発言には嘘があるように思えない。

今世の一色湊人は前世の清様とはどこか違う…。いや、本当は、この熱く純粋な男気こそ精様の本質なのかもしれない。そうでなければ、前世でもそうであったように多くの人々が彼に付き従うはずがない。ヤバイ…清様と知らなければ、一色湊人という男に本気で惚れていたかもしれない。


「千勢?」


サクラは、一瞬、見惚れてしまった一色から目を逸らし、プルプルと首を振った。

(今世で姐さんには…それこそ、クニイチバン、幸せになってもらいたい。今の清様…いや、一色湊人なら…)


「早く姐さんを見つけ出せる(・・・・・・) といいですね。一色社長。」


「そう思ってくれるか。ありがとう、千勢。」


一色湊人はホッとしたように微笑んだ。

(ただ、前世とはかなり容姿が異なる「桜木花魁」に、一色社長は気づけるだろうか…そして愛せるだろうか…)


「但し、一度でも姐さんを泣かせたら、容赦はしません。」


「もちろんだ。」


一色社長の真剣な瞳からは、気迫すら感じられた。

(どんな展開になっても、わたしは姐さんをお傍でお支えしよう。前世のような悲劇はニ度と御免だ。絶対に今世は、姐さんには幸せになってもらうんだ。)

サクラは、負けじと一色湊人を見つめ返す。



「本庄先輩っ! 見て下さいよ、この写真!!」


庶雑務課の篠崎まいが、本日発売の女性週刊誌を掲げた。

そこには、真剣に見つめ合う我が社の社長・一色湊人と、今をときめくモデル・サクラのツーショット写真が載っている。


「…。」


(まさか、一色社長…千勢にまで手を出していないよね…)

恋人のような距離感の二人の写真に、顔をしかめた本庄ハナは、無言でインスタントコーヒーを啜る。


「おかしいと思ったのよぉ。サクラがウチよりはるかに大きいソピア化粧品のモデルを急に蹴るなんて。 こういうことだったのね。」


武藤かおりは、興奮気味に週刊誌の写真をマジマジと見た。


「いやぁ、しかし美男美女でお似合いだねぇ。」


下平課長は、いつものように、遠くの席からさりげなく会話に加わろうとする。


「そこがまたムカつくんスよ。何が『次世代を担う若き財界の爽やかプリンス』だか! 着任早々、ウチらのクビを切ろうとした冷血社長のくせに!」


篠崎まいは敵とみなした人間は、とことん嫌う。


「ほんと。でも一色社長は、他にも女がたくさんいるみたいだから、サクラは大丈夫かしらねぇ。」


武藤かおりも、社長に対する嫌悪感を隠さない。


「…それはマズイですね。」


ハナがぼそっと呟く。

(万が一、千勢が一色社長に惚れてしまったら…。あの男は、前世で疑似恋愛のプロだった自分でも手を焼いたほどの女たらしだ。武藤かおりの言うように、現に、今世でも女性関係の噂が絶えない。いくら吉原で修練を積んだ千勢とはいえ、泣かされてしまう可能性が高い。)


「どうした、本庄君? 渋い顔をして。」


「課長、ちょっと私、社長室に――」


ハナが自席を立ち上がった瞬間、ノックの音がして、普段はめったに誰も訪れることのない庶用務課の扉が開かれた。


「本庄さん、一緒に来てください。社長がお呼びです。」


扉の向こうには、一色湊人の秘書、片桐がにこやかな笑みを浮かべて

立っていた。

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