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豪華なレストランの細い通路を抜けた個室で、一色社長はニッコリと愛おしそうな笑顔を本庄ハナに向けた。

背後には、海外出張で購入したのか、プレゼントが山ほど積まれている。


「来てくれてありがとう、会いたかった。ハナ…いや、本庄君」


「はぁ…社長は空港からこちらに直行したと伺いました。さぞやお疲れのところでしょうに…」


「いや、君の顔をみたら疲れも全て吹っ飛んだよ。君に会うために仕事に励んでいたようなものだ。前世でも今世でも、君は僕の全てだ。」


ブッ…


ハナは思わずスープを思わず吐き出す。

(こんなストレートなセリフを清様が言うなんて…)

前世の清様はもう少しクールな印象だった。顔を上げてまじまじと彼の顔を見ると、相変わらずニコニコと幸せそうにこちらを見ている。


「『星の数ほど男はあれど 月と見るのは主ばかり』…何て今世では言いませんよ」


ハナが面倒くさそうに言うと、社長は一瞬目を見開いて嬉しそうにケタケタと笑った。


「もちろん、今世では一切まどろっこしい駆け引きはなしだ。」


ハナの素が見られて嬉しいとばかりに一色社長は上機嫌だ。


「あの、社長!」

(前世では他の妓楼にも馴染みの花魁がいた清様をつなぎ止めようと必死だったけど、今世でこの人は別に上客でも何でもない)

意を決してハナが顔を上げた瞬間、部屋の外で待機していた秘書の片桐が入ってきた。


「ちょうど良かった、ゆう!」


ハナはとびきりの営業スマイルで片桐の名前を呼んで彼の腕を引き寄せる。


「私たち、付き合うことにしました!」


「は?」


一瞬、ピシッと空気が割れるほどの恐ろしい空気が漂う。


「わかった。じゃあ、俺とも付き合ってくれ。」


「は?!何言ってるんですか?」


「前世でもライバルは山ほどいたんだ。一人で済めば容易いものだ。ハナ、今世では絶対に俺を選ばせてやる。」


自信たっぷりの笑顔で一色社長は立ち上がって、ハナの左手のペアリングを外して、某有名ブランドの特注リングをはめた。


「社長、何ですかこれは?!」


「湊人と呼んでくれ、ハナ。片桐だけズルいぞ。」


「社長、僕たちは真剣に付き合ってるんです。前世のようなお遊びの恋愛ではないんですよ。」


「お遊びだと?」


社長はジロリ、と秘書の片桐を睨む。


「違いますか?どちらにせよ社長は、ハナさんににふさわしくない。あなたのせいで桜木花魁は―――」


「もうやめて!!」


社長に掴みかかろうとする片桐を制してハナが二人の間に入った。


「私は今が一番幸せなんです。どこでも自分の好きなところへ行けて、好きなものを見て、着て、食べて…前世から比べれば夢のような人生です。私の時間は誰にもあげたくない。だからどうか放っておいて下さい。」


ハナは社長がはめたリングを外して、深々と頭を下げた。


「本庄さん…」


「ハナ…そうか。俺は君が幸せなら構わない。」


(社長、わかってくれた…?)

しばらくの沈黙が3人を包む。


「…じゃあ、この後、君の好きな芸人『ライスボールマン』のチケットを取ってあるんだが、どうする?」


「え?!だって今日は、札幌でのライブですよ?」


「あぁ。これからプライベートジェットで向かおうかと思ってたんだがな。せっかくなのに残念だ。」


「なっ…」


ハナが顔を上げると、社長は悪魔のような笑みを浮かべている。


「どうする?」


「うっ…行きます。」

(今回は、彼ら初の単独ライブを地元からスタートするのだ。どうしても行きたかったが、仕事の締め切り日の関係で泣く泣く断念したのだ…)


「そうか。よかった。君の喜びは僕の喜びだ、嬉しいよハナ。じゃあ行こうか。」


「ま、待って本庄さんッ!」


「あぁ、遅くまでご苦労だった片桐。もう帰っていいぞ。」


社長は笑顔で片桐の肩を叩いて、胸ポケットにチップとハナが最初にはめていたペアリングを入れた。


「ごめんなさい、片桐さん…」

(うぅッ…社長の誘惑に負けてしまった…でも推しの芸人は、今世での生きがい、私の命なのだ…)


スゴスゴと社長の後に続き、隠し通路の扉を出た瞬間、薄暗い路地裏に男たちの怒号が響いた。


「おい!!おっさん利子の分はどうした―?!」


「3日も待ったんだぞ?!ふざけんな、コラ!!」


あれはーーーーーー


「課長ー?!」


数人の男に囲まれて、胸ぐらを掴まれていたのは、庶用務課の元窓際族(死語)、下平課長だった。

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