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異世界冒険記は水泳からスタート  作者: 海凪
第1章 〜牡羊座クリオス編〜
6/8

ランクB対Fの死闘

 



 ランクB対Fの戦い、先に攻撃を仕掛けたのは大蛇だった。


「シャアァァァアア!」


 鎌首をもたげて約1秒溜めた後、鉄砲を連射するように毒液を5・6発飛ばしてくるのを、右へ左へと避ける。


「当たんねーよ!」


 もし飛んでくるのが爆弾であれば着弾時の爆風に巻き込まれてしまうが、毒だと地面が溶けるだけなので回避はしやすい。

 何度も撃たれると地面が脆くなる上に着地場所が減り、掠っただけでも毒に侵されるので危険度はどっちもどっちだが。


 このままだと逃げ場がなくなって俺の負けになるので、反撃に出る。


「今度はこっちのターンだ」


 飛来する毒液を避けながら壁に向かって走る。

 勢い良く地面を蹴って体を45°に傾け、壁に足をつけて大蛇の近くへと疾走。

 いわゆる壁走りで駆け抜ける。


 重力に従って落下する直前、ダンッと踏み切って天井ギリギリまで跳躍。

 位置取りは完璧、大蛇の真上だ。


 ここからは運任せ。

 川辺で倒しまくったスライムの分と、振り回した木刀に運悪く当たったブラッドバットの分。

 その経験値がどれだけ溜まっているか。


 ジョブレベルが10になっていれば賭けは俺の勝ち。

 流石にそれだけで倒せる訳ではないが、新スキルを獲得できる程度にレベルアップしているなら勝算はある。


 覚悟を決め、木刀を持った右手を大きく振りかぶり、スキル名を唱えた。


「食らえ! 兜割り!!」

「シャァァッ?」


 空中でグルりと横回転し、落下時の勢いも乗った木刀が大蛇の頭部に直撃した。

 持ち上がっていた大蛇の頭が、衝撃で地面に叩きつけられる。

 それを確認しながら着地した直後、即座に後ろへ跳び、迫ってくる尾を回避。


 大蛇の頭上に見えるエネミーHPバーを見る限り、削れたHPは5%といったところか。


「クリティカルでもこの程度のダメージか。分かってはいたが強敵だな」


 新獲得スキル、兜割り。

 ターゲットの頭部に当たった場合に限り、クリティカル補正が受けられるスキル。

 クリティカルはダメージが2倍になるので少しはマシな打撃を与えられたが、これをあと20回も叩き込むのは無理がある。


 学習されるし、何より俺の体がもたない。

 応急処置はしたが、完全に毒が消えたわけではないのだ。

 具体的な症状はまだ出ていないが、HPバーの残%は徐々に減ってきている。

 長期戦は出来ない。


 次の一手を考えている間にも毒液での遠距離攻撃が止まらないので、なんとか回避してはいるがどんどん足場が消えていく。


「なんとかデカい一撃を加えないと……口内からならいけるか?」


 ちまちまHPを削っている暇は無いので、次は即死を狙いに行く。


 毒液の発射と溜めの間、約1秒に呼吸を合わせてグンッと詰め寄る。

 流石に1秒では近づききれないので、途中飛んでくる毒液は神経を総動員して回避した。

 元々の発射速度と俺の移動速度で、一体時速何kmなのかと問いたくなった程だが、一発脇腹を掠っただけであとは完全に避けきれた。


「あと、1歩っ…………あ?」


 しかし、俺の間合いまであと1歩というところで急に膝に力が入らなくなり、へたり込んでしまった。


 その隙を見逃すような大蛇ではない。

 今までで1番殺意が籠った一撃が繰り出された。


「しまっ!? っ、パリィ!…………カハッ」


 瞬き程の時間で目の前に迫ってきた尾をなんとかパリィしようと、木刀を滑り込ませて防御体勢をとったが間に合わず、ガードブレイクして壁に叩きつけられた。


 パリィは成功すればほぼ万能と言っていい防御方法だがタイミングがシビアで、少しでもズレればガードブレイクとなって武器破損や大ダメージを受ける。


「ぐっ……今のでHP9割削られたか。木刀も折れちまったし。まずいな」


 視界端に映るHPバーが赤く変わり、瀕死状態になったのを知らせている。

 手元を見れば、丁度真ん中で2つに折れた木刀。

 辛うじて立ち上がれたが、毒が回ってきて動きの鈍い体。


「動きすぎちまったかな……。だけど、この状態だからこそできる攻撃がある。かかって来いケイブサーペント! 次で最後だ!!」

「キシャアァァァ!」


 大蛇がニョロニョロと向かってくると同時、俺は折れた木刀を両手に持って駆け出した。


「10m、7、6、5……ここだ!」


 距離を数え、計算したタイミングで()()同時に左右の木刀を大蛇の口内に向かって放つ。

 後に放たれた柄の方が、先に放たれた切っ先に追突して加速させた。

 AOBで二刀流短剣を極めた俺だからこそできる離れ業。

 スピードを増した切っ先が、狙い通り大蛇の口内に突き刺さる。


「キィィィァァ!!」


 これで倒れてくれると思ったのだが、俺の推測は甘かったようだ。

 怒り狂った大蛇が、俺を丸呑みしようと大口を開けて飛びかかってきた。


「嘘だろ!? くそ!」


 牙に噛まれたらそれこそ一巻の終わりなので、まず刺さった木刀を手がかりに上顎を抑え、次に片足で下顎を抑えた。


 口を1回閉じなければ大蛇は毒液を飛ばせない。

 俺の体力が尽きて噛み殺されるのが先か、木刀が大蛇の脳天を貫くのが先か、という勝負になった。


「う、らあぁぁぁぁああ!! くたばれ!」

「キィシャアァァァ! アァ……」


 激闘の末、勝利の女神が微笑んだのは俺だった。


 大蛇が力を失ってドサリと地面に倒れる。

 確実に大蛇のHPが全損したのを確認して、俺もズルズルと座り込んだ。


「か、勝った……」


 凄まじい死闘だったが、いつまでも勝利の余韻に浸ってはいられない。

 個人パネルを手動操作で呼び出してポーションを取り出し、3本ガブ飲みする。

 残り3%まで減っていた俺のHPバーが63%まで回復した。


「結構ギリギリだったな……さて、ここ出なきゃ転移もできない。休憩はここまでだ」


 ポーションの空き瓶とケイブサーペントの死体をアイテム欄に収納し、既にガクガクな体に鞭打って立ち上がる。

 その時、ぐにゃりと視界が歪んだ。


「こりゃ本格的に、まずいな……。時間を掛けすぎた、っというか動きすぎた」


 町に戻って討伐報酬を受け取り、道具屋でポイズンポーションを買うまでこの体はもってくれるだろうか。


 一抹の不安を抱えながら、最奥の空間を出た。



 ☆



「は、はぁ……はっ、は……ぁ」


 個人パネルのマップ詳細で洞窟の地図を見て道を確認しながら、来る時にブラッドバットの群れと遭遇したあたりまで来た。

 この時には完全に毒が周り切り、頭痛・吐気・発熱・息切れ・目眩・痺れ等、様々な症状が引き起こされていて、いつ倒れてもおかしくない状態だった。


「ここ、らへ……ん……いない……の、か……?」


 足音を潜める余裕もなく、ザリザリと砂利を踏み締めて歩いているのだが、襲ってくる気配がない。

 多分、ケイブサーペントを恐れて逃げたのだろう。

 そう結論づけた俺は、壁に手をつきながら少しずつ歩を進めた。


「あと、すこし……」


 でこぼこした地面に悪戦苦闘して漸く洞窟を出られた時、空はもう茜色に染まっていた。


 入ってきた時はおやつ時。

 行きで30分、大蛇戦で30分、出てくるのに1時間。

 約2時間の出来事だったというのに、やけに濃密だった。


 ぐにゃぐにゃの視界はもう頼れず、大体の記憶の位置で世界マップを提示してへレースの町を選択し、転移ボタンを押した。


 ふわりとした風に包まれて体が浮き、久しぶりの転移の感覚が訪れる。

 しかし、1度体重を支えることを放棄した筋肉は転移後の着地に耐えられず、膝から崩れ落ちた。


(このままだと地面にキスする羽目になるなぁ、漫画みたいに)


 受身を取る力もなくて相応の痛みを覚悟したが、それに襲われることはなかった。


「おい、おぃどうした! シャハル! 何があった! おい! 返事しろ!」


(あぁ、キースが受け止めてくれたのか。そうだ、何があったか伝えないと)


「ケイブ……サーペント…………」


 それだけだが言葉を絞り出し、俺の意識は暗闇に落ちた。




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