表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険記は水泳からスタート  作者: 海凪
第1章 〜牡羊座クリオス編〜
3/8

命のタイムリミット

 



 この世界が現実だと仮説を立てた日の翌日。

 ログインしてから確実に24時間以上過ぎたが、俺が強制ログアウトすることは無かった。


 あの後、落ち着いて考えたかった俺は、キースからシャワーがある宿屋を聞き出して1泊する事にした。


 宿代は2000コルと少々お高めだったが仕方ない。

 ギルド登録費用の1000コルは残っているので良しとしよう。


「強制ログアウトに期待してたんだが、そう上手くはいかないよなぁ」


 ベッドに腰掛けた状態から、バフンと効果音付きで寝っ転がる。


「リアルの体どうなってんだろう。母さんと流歌も心配してるだろうし」


 胸に手を当てれば心臓は動いているし、頬をつねれば痛みを感じる。


 間違いなくこの体は肉体として存在しているのだが、容姿はチュートリアルルームで設定したアバターそのもの。

 よって、リアルの肉体ごとこっちに来たという可能性は無い。


「こっちの世界で死んだら帰れるかな、俺」


 一瞬そんな考えがよぎったが、ゲーム内のHP0じゃなくて、本当の意味で死ぬ可能性がある。

 そんな危険な手段をとる訳にはいかない。


「ん? こっちの世界で死んだら死ぬって……。あっちの方が死んだらどうなるんだ?」


 ガバッと起き上がって、考える人になる。

 有名なあの銅像のポーズだ。


「フルダイブ中の肉体って、植物状態に近い、よな。だとしたら……」


 こっちの世界の肉体には多分無いが。

 あっちの世界の肉体にはタイムリミットが存在する。


「植物状態の生命活動限界って、短いと2年とかだったような……。あぁ、くそ! なんでもっと勉強しなかったんだ」


 猛烈に頭を掻きむしりたくなったが、なんとか抑制した。


「あっちに戻れる可能性があるとしたら、ゲームクリアなんだけど」


 しかしここで問題が1つある。


「クリア条件がわからん……」


 前作であるAOBは、黄道十二門と呼ばれる12星座由来の聖獣を倒してレア装備品を入手したり、ギルドの依頼を受けてモンスターを討伐し、報酬を得るゲームだった。


 ストーリーも一応あったが、興味がなかったので大まかな流れしか覚えていない。


 エンドコンテンツとして魔王戦というイベントが最近追加されたらしいが、その時は既にゲーム機を没収されていた為、詳しくはわからない。


 続編のBOCは、AOBと同じ世界の3千年後という設定で、どうやら地名の変更は無いようだ。


 AOBのエンドコンテンツが魔王戦だった事を考えると、BOCのクリア条件も魔王討伐かもしれない。


「こんな事になるなら、実況動画くらい見とけばよかった。ネタバレ嫌いが災いしたな、完全に」


 攻略情報を予め調べていたら、クリア条件はもちろん、序盤にするべき行動だって分かったはずだ。


「タラレバ言っててもしょうがないか。今の仮説をまとめると、タイムリミットは最短2年くらい。ゲームクリアで戻れるかもしれない。クリア条件は魔王討伐、か」


 仮説はあくまでも仮説だが、最低限タイムリミットが存在するというのは覚えておいた方がいい。

 ゲームクリアうんぬんは、こっちで何かやってれば情報も入ってくるだろう。


 この世界にいるのは紛れもなく意志を持った人間だ。定型文しか返せないようなNPCでは無い。


「目標は2年以内のクリア条件達成ってとこかな」


 ゲームならそう難しいことでは無いだろうが、これは現実だ。

 気を引き締めてかからないと痛い目を見る。


「っうし! まずはギルド行くか!」


 頬を叩き喝を入れると同時に、勢いよく立ち上がった。




 ☆



 宿を出た俺は、現在ギルドのカウンターに来ていた。

 ちゃっかり美人の受付嬢の前に並んだ。


「ギルド登録を頼みたい」

「かしこまりました。1000コルになります」

「よっと。はい、確認して……って、どうかしたか?」


 登録金を支払う為に個人パネルを開いてお金を取り出したのだが、それを見た受付嬢が何故かガッチガチに固まっている。


「あの……今、何をなさいました?」

「何って、普通に個人パネル出しただけだろ?」

「なんですかそれは」

「え゛」


 この世界には、個人パネルが存在しないのか。

 ちょっと所ではなく予想外だった。

 これからは人がいる所では開かないようにしないとな。


「すまない、今のは忘れてくれ」


 戸惑いを隠せない受付嬢だったが、すぐに順応して通常業務に戻ってくれた。

 非常に助かる。


「は、はぁ……。かしこまりました。では改めて。こちらの紙に必要事項を記入してください。代筆は必要ですか?」

「いや、大丈夫」


 名前、年齢、得意武器を記入し終了。

 提出した紙を、受付嬢がサッと確認する。


「……ありがとうございます。こちらの水晶に触れて頂けますか?」


 差し出された水晶は透き通っていて、15cm程の球体。

 指示通り触れてみると、一瞬光ってすぐに収まった。


「登録完了です。こちらがギルドカードになります。ギルドに関する説明はあちらのテーブルにある冊子をご確認ください」


「わかった、確認してみるよ。ありがとう」


 早速テーブルに備え付けられた椅子に座り、説明書を開く。


「ふむ、最初はルールからか」


 《基本ルール》

 ・ギルド所属員同士の争いは禁止。もし発生した場合は、ギルド訓練場にて監視官のもと決闘すること。

 ・クエストにおいて誤魔化しをしないこと。

 ・ギルド員の指示に従うこと


 以上の3つのようだ。


 至って当たり前のことが書いてある。

 強いていえば、もし日本で決闘なんてしたら逮捕されるってことくらいだが、ここは異世界なので関係ない。

 特に不明点も無いので次のページへ。


 《ギルドランク》

 ・上からS・A・B・C・D・E・Fとあり、それぞれそのランクのモンスターを単独討伐することでランクをあげることが出来る。

 ・尚、S・A・Bは別途試験がある。


 なるほどね。AOBと同じならFはゴブリンやスライム。Aならドラゴンの通常種などがそれに当たる。


 《ギルドカード》

 ・ランクによって色か材質が割り当てられており、Bから上はコーティング材質がそれぞれ違う。

 ・コーティングされているのが、Sのプラチナ、Aの金、Bの銀。

 ・カードの枠が色つきなのが、Cの黒、Dの赤、Eの青、Fの黄色。


 俺のカードは黄色なので、ランクはFの様だ。

 登録したてなので当然だが。


「AOBにはカードなんて無かったけど、身分証みたいなもんなんだろうな」


 ・モンスターを倒した際に所持していると、討伐情報が記録される。

 ・紛失した場合は厳しい罰則と罰金がある。

 ・魔力を流すと登録内容が光る。本人の魔力にしか反応しない。


「ゲームだったら討伐したら勝手にクエストクリア扱いになるけど、現実だと何らかの証明が必要ってわけだな」


 紛失に対する罰則も当たり前だろう。じゃないと売ったりするやつが居そうだ。


「魔力を流す? そんなのどうやってやるんだよ」


 魔力とは恐らくMPの事なんだろうが、操作方法なんてわからない。

 AOBによらず、ゲームの魔法なんて魔法名を言えば勝手に発動するので、意識したことなんて無い。


「イメージでなんとかなるか……?」


 カードを右手に持って目を閉じ、何かを込めるイメージに全力を注ぐ。


「ん? きたか?」


 目を閉じて集中すること1分。

 手がぽわぽわと暖まってきたと思ったら、ギルドカードが光った。


「光るまで長すぎるけど、初めてならこんなもんだろ。あとは要練習、だな」


 《クエスト》

 ・クエストボードから依頼書を選択し、受付嬢に渡して受理されると開始されるが、自分より上のランクは受けることが出来ない。

 ・クエスト失敗は罰金がある。

 ・恒常討伐クエストは受注の必要が無く、ギルドカードの討伐記録で報酬獲得可能。


「概ね納得できる内容だな」


 次のページをめくろうとしたら、もう裏表紙だった。


「これで終わりか。んじゃクエストボードでも見に行くかな」


 冊子をパタンと閉じてテーブルの上に置き、クエストボードに向かう。


 ザッと流し読みした所、EやFの依頼が殆どだった。


「ん、恒常クエストにゴブリンとスライム討伐があるな。感覚試しとレベリングに丁度いいし、適当に狩って来るか」


 出現場所は、ゴブスラ共に南の森との事だ。

 恒常クエストなので受注の必要は無い。


 目的地が決まったので、さっさとギルドを出た。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ