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異世界冒険記は水泳からスタート  作者: 海凪
第1章 〜牡羊座クリオス編〜
2/8

ここはどうやら異世界のようだな……

 



「っだぁー! やっと、着いた……」


 あれから泳ぎ続けること1時間。

 全然近づいてる気がしない町を目指して漸くたどり着いた俺は、港の端にある浜辺で一息着いていた。


「いやホント、AOBやり込んでてよかったわ」


 これが初めてのVRだったらパニックでデスペナルートまっしぐらになるところだ。


 どうやってたどり着いたのかって?


 スタミナを使い続けて切らすと硬直が発生して、即座に溺死判定になる。


 となれば話は簡単。

 要は、使い切る前に泳ぐのをやめればいいのだ。


 俺が行ったのは、スタミナ残量が5%になるまで泳ぎ、数秒待機して再び再開するという方法。


 現実で体力の限界近くまで泳いだ疲労は高速で回復したりしないが、そこはゲームクオリティ。

 使い切りさえしなければ残りゲージ1割切っていても、スタミナ消費行動をストップすることにより、わずか2・3秒で全回復する。


 レベルが上昇するとスタミナ最大値が増えて回復に時間がかかるが、回復力上昇のスキルとかでなんとでもなる。


「んで、ここはどこの町だ? 告知じゃ確かAOBの3千年後って話だったから、俺が知らない可能性もあるけど」


 同じ世界がベースでも、それだけ時間が経った設定なら名前が変更されていても驚かない。


「とにかく行ってみるか。門番のNPCに聞けば町の名前も分かるし」


 そうと決めたら行動は早い。

 1時間の遠泳後に走る気力は無いので大分のんびりとした足取りだが、BOCは初見プレイな訳だし、景色も堪能したいから丁度いい。


 町に着く前には服も乾く。

 その間に装備のセットをしておくか。


「システムコマンド・装備」


 これで個人パネルの装備画面が開く筈なのだが、全くの無反応。


「コマンドが変わってるのか? システムコマンド・ヘルプ」


 このコマンドで、チュートリアルルームにてきちんとサポートAIが起動していたのだから、間違っているということは無いのだが……こちらも無反応。


「システムコマンド機能がなくなったなんて、ネットのどこにも書いてなかったぞ。不具合か?」


 音声入力ができないのなら、普通に手動を試してみるしかない。


 左手を前に持ってきて、人差し指と中指を立てた刀印のようにして、真っ直ぐ下に降ろす。

 この操作は正しかったのか、半透明のメニューパネルが表示された。


 そこで俺はある事に気づき、思わず歩みが止まってしまった。


「あれ? システムタブと装備タブどこいった?」


 メニュー画面はカテゴリー事にタブが分かれており、装備セットをしたいなら装備タブを。

 アイテム確認をしたいならアイテムタブをタップすればいい……という便利仕様だ。


 今あるのを全て並べると、ステータス、ジョブ、パーティ、アイテム、マップとなる。


 AOBはこれに付け足して、装備、システム、フレンドがあった。


「システムは他のタブと統合されてる様子も無いし、また不具合かな? システムタブが無いと、ログアウトして苦情入れることすら出来ないんだけど」


 まぁ、あんまり長時間やってると家族が起こしに来る筈だし、さほど心配はしていない。

 24時間連続プレイで強制ログアウトする、ダイブ機本体の安全装置も付いているから大丈夫だ。


 装備タブはアイテムタブの方に統合されていた。


 何故システムタブが無いのかは不明だが、良く考えれば思ったより危機的状況ではなさそう。


 現状自分に出来ることもないので気を取り直し、確認作業に取り掛かる。


「まずアイテムからっと」


 所持金3000コル。

 ポーション3個。

 木刀1本。


「うん、序盤独特の寂しいアイテム欄」


『コル』はこの世界の通貨で、1コルは1円くらい。

 3000コルなんて、ギルド登録とポーション10個買えば吹っ飛ぶ。


 装備タブがあれば今着ている服の情報とかも表示されるのだが、ないものはない。


「とりあえず木刀装備してアイテムは終わりだな」


 次にステータスタブをタップする。


 《ステータス》


 名前:シャハル

 レベル:1

 ジョブ:侍 LV1

 称号:無し


 HP:100/100

 MP:20/20

 ST:50/50


 物攻:10+3

 物防:5+3

 魔攻:0

 魔防:2

 敏捷:3

 器用:2


 特殊効果:無し

 状態異常:無し


『ST』はスタミナ。

『+』は武器や防具の基礎能力。

『特殊効果』はレア装備品に付いている状態異常防止や回復力上昇等の効果のことだ。

『状態異常』は読んで字のごとく。麻痺や毒などが該当する。


 HP・MP・STだけは、100%の状態から変動すると、視界端にゲージが表示されるようになる。


「典型的な剣士系初級職のステータスだな」


 唯一魔攻が0だが、前衛系初級職は魔法を使えないので全く問題ない。


「見慣れた最上級職のステータス画面を思い出すと、弱すぎて不安になるなぁ。早めにレベリングするか」


 お次はジョブ。

 こっちはジョブ経験値と使用可能スキル、他ジョブの獲得条件がズラズラと羅列されている。


 ジョブ経験値を溜めるとジョブレベルがMX20までアップする。

 レベル1、5、10、15、20でそれぞれスキルが獲得出来る。


 今はレベル1の侍なので、使用可能スキルは居合切りと全職共通スキルのパリィだけ。


 パーティは、一緒に行動するプレイヤーを登録しておくとモンスターを倒した時に経験値が共有されるというシステムだった。


「BOCはオフラインだし、戦闘NPCが勝手に加入してくるって感じかな? ま、そのうち分かるだろ」


 マップは世界地図が表示されるのだが、今はほぼ真っ暗。

 画面の右側に現在位置を示す点がポツンと置かれているだけ。

 基本的に、視界に入った範囲だけマップ情報として記録されるというシステムの様だ。


 1度でも立ち寄ったら、ダンジョン等の重要ポイントは自動的に名前が記録される。

 町だけは別で、NPCから地名を聞き出さなくてはならない。

 その代わり、町の名前をタップすると転移が可能になる。


 システムコマンドとシステムタブ以外は正常に動作していた。


 そうこうしている間に町に到着した。


「よし、確認終了!  思ってたより結構デカい町だな」


 城壁はなく、町内へと続く道に兵士が立っているので話しかける。


「この町の名前はなんて言うんだ?」

「あん? へレースだけど」


 へレース……ならここは牡羊座領域のクリオス国か。

 名前が変わっていないようで安心した。

 モンスターが弱く、序盤に相応しい地域だ。


 ほっと息をついていると、今度はNPCであるはずの兵士から話しかけてきた。


「にしても兄ちゃんずぶ濡れだな。どうしたんだ?」


 そういえば、まだ服が濡れている。


 ぽたぽたと水滴が落ちる程の水分はもうないが、絞れば結構水が出てきそうだ。

 それに、海水が乾いた時独特の、皮膚がベタベタして引き攣るような不快感がある。


「おかしいな。そろそろ水滴状態解除されてもいいはずなんだけど」


 水滴状態とは、水などに触ったとき、拭いたりしなければ暫く濡れたままという、よりリアルさを追求した機能の事だ。


 ちなみに、全身ずぶ濡れであっても数分すれば全て乾くのだが、またもや不具合なのか解除されていない。


「解除? 何言ってんだ?」

「濡れたら数分で水滴状態の解除判定が入って、服なんてすぐ乾くだろ? それだよ」

「あっはっは、そんなわけないだろ」


 俺の言葉に一瞬目を見開いて固まった兵士は、意味を理解したのか豪快な笑い声を上げた。


「随分と感情表現豊かなNPCだな。BOCはここまで進化してたのか」

「えぬぴー、なんだって?」

「分からないのか?」


 このNPC、どこかおかしい。


 俺との会話は、町の名前を聞くだけで終わっていたのに、自分から話しかけてきた。

 それだけならまだ凄いNPCで納得出来たが、笑い出すし、果てにはNPCが分からないという。


 そして、異様に精巧な姿。

 よく見ると顔や手のシワの1本1本まできちんと人間らしく再現されている。


 まるで、本物の人間みたいだ。

 そこで自分の手を確認してみたが、手相も確認出来た。


「なぁ、アンタ名前は?」

「人に名前聞く時は、普通自分から名乗るもんだろ」

「あ、あぁ悪かった。シャハルだ」

「そうか。俺はキースってんだ。よろしくな」


 手を差し出されたので、反射的に手を出したらガッチリと握手された。


 今の会話で1つ確信した事がある。

 キースはNPCでは無い。


 たかが門番程度のNPCに、わざわざ名前なんて普通は設定されていないし、ましてや自分から名乗れなんて言わない。

 それに、自分から触ろうとするなんて絶対に無い。

 他人に触られることを極端に忌避するプレイヤーだっているのだ。


 というか、そこまでプログラムされたAIをソフト1本に搭載するには、サポートAIが精一杯。

 全てのNPCにそこまで細かくやっていたら、容量がパンクしてしまう。


 考えられるとしたら、俺の覚え違いでBOCもオンラインで、キースはプレイヤーという可能性。

 しかも、NPCも知らないようなゲーム初心者で、尚且つ門番をやるなんていう数奇な人物だ。


 嫌な予感がしてきた。

 今俺の脳内をチラついた仮説が正しければ、次の質問にもキースは答えられない。

 ゲームに詳しくなくても、地球に住んでる現代の日本人なら、人参とかじゃがいもレベルで知ってる言葉。


「キース、VR、もしくは仮想現実って知ってるか?」

「いや、聞いたことないぞ」


 決定だ。

 こんな現象は、たびたび創作物で出てきていた。

 知っているゲームによく似た世界へと来てしまう。

 いわゆる異世界転移と言うやつ。


 自分が体験するなんて、欠片も思ってなかったけどな!


 拝啓、母さん。

 俺はどうやら、異世界に来てしまったようです。





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