表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険記は水泳からスタート  作者: 海凪
第1章 〜牡羊座クリオス編〜
1/8

ほっぽり出された海の上




「ついに、この瞬間がやってきた」


 昨年の発売日、夜が開ける前からゲーム屋に並び、ギリギリ最後の1個を勝ち取ることが出来た超人気ゲームソフト。

『Brave of constellation』通称BOC。


 ほくほく顔で帰宅した俺を待ち構えていたのは、般若の形相をした母であった。

 大学受験生がゲームを買ってくるなんて何事かと、買ってきたばかりの品を没収され、更には相当やり込んでいたBOCの前作、『Adventure of the brave』通称AOBとゲーム本体まで回収され、涙を呑んだのは昨日のことのように思い出せる。


 その後怒り狂った母を説き伏せ、合格したら返却すると言質を取り、今日まで耐えてきた。


 オンラインでプレイヤー同士のマルチプレイが主軸だったゲームが、続編でオフラインのストーリー重視なRPGになり。

 どのように進化したのか、その凄く楽しみにしていたのだ。


 それももう終わり。


 興奮で震える手を駆使して電源コードを繋ぐ。

 パッケージのフィルムをひっぺがし、ディスクを取りだして本体に挿入。

 脳波を読み取る機械を装着、ベッドに寝っ転がる。


 そして俺は、運命を変える言葉を発した。


「ブレイブ オブ コンステレーション、起動」

「コマンドを確認。起動します」


 機械音声を聞きながら、フルダイブ特有のホワイトアウトに飲み込まれていった。



 ♢♢♢



 瞼を開いてすぐ視界に入ったのは、初期設定などを行うチュートリアルルーム。

 大量の本で埋め尽くされた書斎のような空間で、タッチパネルが浮かんでいる。


 とりあえずパネルを覗き込んでみた。


 〈プレイヤー名を登録して下さい〉


 それならもう決めてある。

 伊達に1年間もお預けくらっていない。


「シャハル、っと」


 本名、天之(あまの) 駆流(かける)を文字ってアケル、それから連想したのが暁。

 暁は、古語で夜が明けるというのを意味する言葉の一種だ。


 そのまま暁でもいいんだが、ゲームの世界観に合わない為、急遽外国語を調べたというわけである。

 ちなみに使ったのはヘブライ語。


 何故って? 他の言語だと名前にするには長いからだよ! あとちょっとダサい。


「ほいほい、次々〜」


 〈アバターを作成して下さい〉


 まず性別を選択。勿論男性。


 次に等身大サイズで現れたデフォルトのアバターに手を加えていく。


 イメージするのは、BOCの前作であるAOBで使っていたアバターだ。


「身長はリアルと同じにして、肌色は……褐色だったけど今回はちょっと薄めでいくか」


 ゲーム内とリアルで身長が違うと変に感覚がズレて素早く動けなくなるから、身長を変えるプレイヤーはそうそう居ない。


「目は薄紫で銀髪……っとそういえば最近流歌が、ポニテ男子とやらにハマってたな。けど、ポニーテールは……んー」


 ポニテ男子とは、読んで字のごとくポニーテールをした男のことである。


 初めて聞いた時は忌避感を持ったが、妹に見せられたポニテ男子の画像はよく知るアニメキャラで。

 調べてみると意外に居た。


 悩んだ結果、妹にも見せてやろうかとポニーテールにしたは良いが……。


「なんか、チャラい?」


 そう、チャラかったのだ。

 高い位置で緩く結ばれたあまり長くはない髪が、ヘアゴムらしき輪からちょこんと出ており、海辺でナンパでもしていそうな姿だと思った俺はきっと正常だ。


「いっそ長髪にするか」


 そうして完成したアバターは、色白紫瞳銀髪ポニテ男子という、字面にするとヤバい容姿である。


「まぁ、アイテムで後からいくらでも変更できるし、初期アバターはこんなもんでいいだろ」


 〈ジョブを選択して下さい〉


 AOBの時はジョブ次第でステータスの伸びが変わったり、使えるスキルが増えていたが、装備出来ない武器や防具がある……なんてことは無かった。

 このBOCも同じ仕様なんだろうか?


「システムコマンド・ヘルプ。ジョブの仕様はAOBの時と同じなのか?」

「イエス。Adventure of the braveとBrave of constellationのジョブ仕様は共通です」


 システムコマンドと発声すると、プレイヤー個人のタッチパネルが起動してメニュー画面が開く。

 その後にステータス、アイテム、ヘルプなどを付け足すと、タップ操作無しに直接その画面に飛ぶ。

 システムコマンド・ステータス、と言えばステータスパネルが開き、ヘルプと言えばサポートAIが起動する……といった具合だ。


 用は済んだので個人パネルを閉じ、再び初期設定パネルに向き直る。


 AOB時代は二刀流短剣使いの隠密系上級職の忍として、PvPにおいて堂々トップのプレイヤーだったが、今回はどうしようか。

 使い慣れた忍の下級職、密偵でもいいが、別のジョブでスタートしたい気持ちもある。


 BOCは自由度が高いゲームで、ジョブが大量にある。


 剣士系、槍士系、斧士系、拳士系、狂戦士系、弓士系、盾士系、隠密系、神官系、魔道士系、詩人系、生産系、テイマー系。


 系列を並べるだけでもこのようになる。


「隠密系は大器晩成型だから、序盤は魔道士系、剣士系、神官系が楽だけど」


 魔道士系はどうしたってMPに左右されるし、神官系は回復職だから火力に乏しい。

 となると剣士系なのだが、今後上級職になることを考えると即決する訳にはいかない。


 片手剣士、両手剣士、侍、細剣士が初期職で、極めるとそれぞれ、ソードマスター、グレートマスター、剣豪、レイピアマスターに変化する。


 1つのジョブを極めてマスターするとジョブチェンジができ、また初級職から。

 しかし、その際違う系統のジョブをマスターすると上級職が選択出来るようになるのだ。


 例えば、魔道士系の黒魔道士と神官系のプリーストをマスターすると、魔法攻撃と回復に優れた賢者になれる。


 このように大量のジョブをマスターする為、ある程度マスター難易度は低く設定されているのだが、序盤だけは違う。

 とある強ボスを倒さねばならないのだ。


 つまり、最初の初級職選びに失敗するとジョブチェンジが困難になる。


 AOBはオンラインだったのでマルチプレイ可能だったが、BOCはオフラインだからソロ。

 下手に後衛職を選ぶとその時点で詰むかもしれない。


 前衛職は前衛職でデメリットがあるのだが、今は置いておこう。


「となると、選ぶべきは前衛か」


 前衛は、剣、槍、斧、拳、盾、と一応狂戦士もあるが、狂戦士は特殊なので今回は省く。

 経験上、拳と盾も初期装備と攻撃手段がなかなかツラいので除外。

 残るは、剣槍斧だが、ここは好みとロマンの問題で剣を選ぶ。


 そして、更に剣士系から選ぶのだが、最も強いのは侍だ。

 日本産のゲームだからなのか、侍や詩人系の舞妓、隠密系の忍等、日本由来のジョブが少々優遇されている。


「初級職は侍で決まりだな」


 最後に入力内容をざっと確認し、決定をタップする。


「初期設定の完了を確認。新規データを作成します。………………完了。Brave of constellationへようこそ。この世界は貴方を歓迎します」


 AIの定型文を聞き流しながら目を閉じ、次に目を開いた時の光景に思いを馳せる。


 AOBは1番難易度が低い町の中心からスタートしたが、BOCはどうだろうか。

 無いだろうけど、海辺スタートとかだったらいいよな。

 VR業界で水の再現度において、特にAOBは優れていた。

 だからきっとBOCでも素晴らしい水の手触りを得られるだろう。

 まぁ、無いだろうけど。


 結局、目を開けた俺が最初に見たのは、序盤の街に相応しく賑やかな町……。


 ではなく、広大な海だった。

 これだけなら希望通りだと喜んでいただろう。

 …………足元まで海じゃなければ、な。


 支えるものも無く水中に滑り込んだ俺は、当然のように大慌てで海面に顔を出す。


「っぶは、ゲホゲホ、しょっぱ! どんな始まりだよ! 誰だこんな設定した奴! おいコラ出てこい!」


 どこぞのチンピラのようなセリフをぶちまけて一旦冷静になり、陸を探して周囲を見渡した。


「陸、陸……あったけどちっさ! ん? あれ小さいんじゃなくて遠いのか?」


 よく目を凝らしてみると、確かに遠い。


「マジか。こんなん普通に泳いだ所でスタミナ切れからの、溺死判定デスペナ……初見殺しかよ」


 デスペナルティ。

 ゲーム内でHPが0になった際、死亡として扱われ、復活時になんらかのペナルティを受けるシステム。


 AOBのデスペナは所持金半減だったが、BOCも同じとは限らない。

 装備品ランダムロストとかだったら最悪だ。

 ゲームを初めて直ぐに初期所持アイテムを失ったりしたら、それこそ詰む。

 仮に所持金半減だったとしても、少しでも多くの金が欲しい初期にデスペナなんぞ受けている場合では無い。


「仕方ない……泳ぐか」


 スタミナゲージがある限り、走ったり泳いだり、スキルを連続で出すことが出来る。

 スタミナを使う行動をしている途中でスタミナ切れすると、数秒間アバターの硬直時間が発生する。

 戦闘中にスキルの連続使用でスタミナを使い切ると、数秒間全く動けないという、致命的な隙ができてしまう。


 それを水泳に当てはめると、()()に泳いだらたどり着く前に硬直が発生し、その間に溺死判定が入る。

 そう、普通に泳いだら。


 今の状況を切り抜けられる、AOBプレイヤーならではの裏技を使い、俺は途方もない距離を進み始める。


 そんなこんなで、俺のBOCプレイはいきなり水泳からスタートした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ