いのちの名前
1人用 朗読台本です。
セリフとナレーションに訳て3人で読んでも面白いかもしれません
「やあ ぼくは ピコル きみの ともだち さ」
雪の降る 寒い夜
ピコルが目を覚ますと
真っ暗闇で何も見えません
「あれ…ぼくは…だれだっけ」
体も動かず、自分が誰なのか
思い出せないのです
街の片隅に 落ちていたピコルを
道行く人達は 蹴り飛ばしてもしらんふり
「いたい…いたいよ」
誰もピコルに気づいてくれません
誰もピコルの声を聞いてくれません
そんな中、1人のおじいさんが
ピコルを拾い上げたのです
「やめて いたいのは もう嫌だよ」
ピコルは一生懸命、声をあげました
ですが、手も 足も 目も無いピコルは
逃げる事も もがく事も出来ませんでした
「こわいよ…こわいよ」
震える事しか出来ないピコルに
おじいさんは、優しい声で語りかけました
「なんじゃ…人形か…ずいぶん壊れておるのう…どれ家で直してあげよう」
そう言うと、おじいさんは家へと
ピコルを連れて帰ったのでした
家につくと、暖炉に火をつけ、お湯を沸かし
汚れたピコルの体を、拭いてやりました
「これで良し…あとは、体の修理じゃな」
おじいさんは、慣れた手つきで
部屋にあった道具を使い
ピコルに、小さな腕を付けました
そして、次に足を
木 出できた手足は、ほんのり暖かくて
おじいさんの優しさが詰まっていました
「てと…あしだ…ぼくの てとあし…」
目は見えなくても
ピコルはおじいさんが、優しい人だというのが
すぐにわかりました
「あとは…目じゃな」
おじいさんは、自分の洋服のボタンを取り
ピコルの目の代わりに、縫い付けてやりました
「わぁ…みえる みえるよ おじいさん ぼく みえるよ」
ピコルは大喜びで あたりをきょろきょろ
おじいさんは、嬉しそうにピコルの頭を撫でました
「お前さんは、今日からわしの子になるんじゃよ…そうじゃな…お前さんの名前はピコル…太陽のピコルじゃ」
ピコルは、生まれて初めて
名前を呼んでもらえました
「ぼくは…ピコル…ぼくは、ピコル!」
それからの、おじいさんとの生活は
毎日が楽しくて
嬉しくて…ドキドキの連続でした
リビングの、暖炉の傍にある棚が
ピコルの、お気に入りの場所でした
そこからは、おじいさんの姿がよく見えるからです
一年が過ぎ
二年が過ぎ
おじいさんとピコルが出会って
丁度5年が経ちました
「ごほっごほ…ふぅ。年かのう…まだ…まだ…やらね…ば…ならん…の…に…」
おじいさんは工房で倒れました
そして、そのまま亡くなってしまったのです
「おじいさん、きょうはおそいなぁ」
何も知らないピコルは、おじいさんを待ちます
「まだかなぁ、まだかなぁ、はやくおじいさんにあいたいなあ」
何日も 何日も
ピコルはおじいさんが帰って来るのを待ち続けました
おじいさんが居なくなってから
1年がすぎ
2年が過ぎ
おじいさんと一緒に過ごした日々の
何倍もの年月が経ちました
「おじいさん…」
おじいさんの居なくなった家は
ボロボロになり
壁には穴が空き すきま風がびゅーびゅーふいています
ピコルは冷たい床に横たわっていました
周りは沢山のゴミだらけ
大好きだったおじいさんも、もういません
「さみしいよ…独りは嫌だよ…おじいさん…」
ボタンの目からは、糸がはみ出していて
まるで 涙を流しているようでした
「おじいさんに、あいたいよ」
ひとりぼっちの部屋で ピコルは呟きました
直ぐに取れてしまう小さな腕は 折れ
大きかった足も、片方が何処かへ行ってしまいました
木でできた体は、あまつゆに晒され
腐って…ボロボロと崩れていきます
ボタンの目は もう 何も見えません
「おじいさん…僕も…おじいさんみたいに…
暖かい…人間に…なりたかっ…た…な…」
ピコルの体は 崩れ 風に飛ばされ、空へと登っていきました
「ピコル こっちじゃよ」
「おじいさん…おじいさんの声だ…」
空の上で おじいさんは
ずっと 待っていたのです
「やっと会えたな…ピコル」
「うん…おじいさん…うん」
空に登ったピコルの体は
硬い木でできた体でも
直ぐにとれちゃう腕でも
ボタンで出来た目でもありません
ピコルはおじいさんと同じ
人間の姿になれたのです
「わぁ、おじいさんと一緒の体だぁ」
「そうじゃな、さぁピコル そろそろ行こう」
「うん、おじいさん、もう1人にしないでね」
「ああ、これからはずっと一緒じゃよ」
おじいさんとピコルは
手を繋いで
天国へと登って行きました
「やあ、ぼくの名前は ピコル おじいさんと同じ人間だよ」
聖夜に起きた
奇跡の物語
おしまい
ありがとうございました