【邪竜討伐作戦】chapter:2
アカネが言っていた通り、本当に討伐するべき対象がグリーフドラゴンを土台としたドラゴンゾンビだったとしたら、早急な対処が必要になってくる。
ドランが呪いを例のドラゴンから受けた場所は首都から近い訳でも無く、ゆっくり歩いて向かったり馬車で移動すると何日も掛かってしまうだろう。
そう考えたアカネが考案したのは、それよりもっと素早く移動できる方法だった。
「…あのー、アカネ様?」
「よいしょ…っとぉ! ふぅ… どうしたの?」
「もーちょっとこう…シンプルというか簡単に移動できる魔法とか無かったんですか?」
もちろん、そう言う魔法が無いわけではない。
決められた点同士を魔法陣で結び、両者間を自在に行き来出来る転移魔法がある。
だがその魔法には、大がかりな魔術陣を二か所に設置しなければならないし、魔力を常に保って居なければ魔法陣が魔力枯渇によって消滅するという非常に面倒くさい魔法なのである。
「あるにはあるんだけどー… ドランくん、そのブリックって町に転移魔法陣ってあったの?」
「て、転移魔法陣…? いやー…無かったような気が… つーかあの時は目的地に着くまでに宿借りたくらいだったしなぁ…」
片田舎と言って差し支えないような辺境にある町、それがブリックと言う名の小さな町だ。
周囲は草原や森に覆われており、トレジャーハンターや学者がよくお宝を探しに立ち寄るくらいしか物珍しい事も起きないような平穏な町である。
あまりに何も無さ過ぎて盗賊なども滅多に姿を現さないし、立地の関係から魔物や魔族が欲しがるような場所でもない。
だからアカネもそこへはほとんど足を運んだ事が無かった訳で。
「……首都からブリック… 馬車でも…3日はかかる…ぞ…?」
「そういやあの時もそんくらい掛かってたっけか… でも、そんな悠長な事してらんない…んですよね、アカネ様?」
移動時間や距離について苦言を呈するルシフとドランの横で、アカネはせっせと出発の準備を進めていた。
ただそこに準備されていくのは食料や水、医療マークの刻まれた袋などで戦いに行くというよりは救援物資の山が積まれていくばかり。
「うん、超特急で向かうから…… だいたい1時間もかからないと思うよ」
「いちっ?! いやいやどうやって… さっきからそれ何やってんですか?」
「これ? 移動の準備だよ? もうちょっと待っててね」
「……家…か…?」
首都を出るときに借りてきた荷台に積まれていた救援物資を次々と放り込んで行っているのは、納屋かと思うような小さな家のような建物だった。
これが一時間と掛からず目的地へ移動できる手段…? ルシフは首を傾げ言葉を詰まらせる。 まぁ元から無口な人だけど。
「被害も考慮して…っと、こんなもんかな」
『そろそろいいか?』
「うぉっ?! どこからっ?! アカネ様危ねぇ!」
「……ドラゴン…か…」
出発準備も終わった所で、アカネの背後にまるで最初からそこにいたかのように自然と漆黒の身体を持つドラゴンが姿を現す。
頭の中に響いてくる、青年の声がここにいる全員に聞こえた。
魔法による透明化を解除して大きな翼を広げ、アカネに話しかけているようだ。
会話がどうあれ危険と感じたルシフは己の武器に手を掛ける。
『…アカネ、どうして俺は彼に殺気を向けられているんだ? 説明したんだよな…?』
「説明? あっ…」
その顔は口よりずっと正直に語っていた。
説明するの忘れてたや、と。
『やれやれ… 念話で任せておけと言っていただろうに…』
「ごめんごめん… えっと、紹介するね? 今回私たちを運んでくれるドラゴンの、えーと…」
『名前などどうでもいいさ、呼ぶ時は好きに呼べばいい』
手短に紹介を終えると、アカネの足元へ手を差し出す。
多くは語らない竜だが、乗れと言っているようだ。
ちなみにだがアカネは彼の名前を忘れていたというよりは、どう誤魔化すかでごにょごにょとしていたらしい。
「…だ、大丈夫なんスか…? そのまま食い千切られるとか…」
『それで俺に何の得がある? 急いでいるのなら乗れ』
「……」
「あ、ちょっ! わかったわかりました! ぜってー食ったりすんなよなドラ公!」
慣れた様子でドラゴンの手に乗り背に運んでもらったアカネや何も語らず竜の背に飛び乗ったルシフとは違い、ドランはこの竜に対して思うところがあるようで。
文句を言いながらも背に乗せてもらい、これにて出発の準備は完了した。
自分の背にしっかり掴まっているのを確認したドラゴンは、傍にあった小屋をまるでダンボール箱でも抱えるかのように持ち上げると空へ舞う。
彼らを見送る馬車部隊の御者たちはポカンと口を開けて彼らを見送る以外になかった。
きっと帰ってくる頃にはまた一つ、アカネの伝説が増えている事だろう。
「目的地はブリックだよ! よろしくねジー…えっと、ドラゴンくん!」
『…はぁ、了解した しっかりと掴まっているようにな 他の二人も聞いているか?』
「……承知…」
「わかってらぁ! 振り落とされたって死んでやんねーかんな」
『ならいい その分少し速度を上げさせてもらうぞ』
ある程度まで上昇して、見える限りの山より高度を上げたあたりでドラゴンは翼を大きく動かすと空を飛ぶ速度をぐんと上げた。
真下を見れば、陸路で通るはずだった街道を突き抜けて真っすぐ目的地の方角を突き進む。
これなら一時間と経たずに到着出来てしまうだろう。
「えっへへ… 久しぶりに見たなぁ、ジークくんのドラゴン形態」
『後ろの二人に聞こえるぞ?』
心配そうに自分の背中を見ると、ドランはしがみつくのに精いっぱいだしルシフは戦闘に備えてなのか眠っているらしい。
名前でバレる心配がなくなった所で、アカネが言った彼の名前を振り返ってみよう。
彼女が呼んだその名は、ドラゴンの素材を採りに行った時などに一緒にいた彼の名だ。
ではどうして人間の姿のはずの彼がドラゴンの姿をしているのか。
それはアカネを手伝う上で最も適したのがこちらの姿だったからだ。
なんならこの姿が本来の彼の姿でもある。
「大丈夫だよ、それにもしバレちゃっても二人なら秘密も守ってくれるって」
『問題ないと思いたいな』
どうして秘密にしているのかと言えば、至極簡単。
もしジークがドラゴンだとバレれば、少なくとも人として運び屋を続ける事は不可能となってしまうだろう。
人間全てがアカネのように優しく接してくれるのであれば問題なかったが、快く思わない人や竜を道具や素材とみている者もいる。
だからこそ、名前を隠す必要があった。
「大丈夫だよ ところで、今から戦いに行くドラゴンゾンビなんだけど…ジークくんの知り合いだったりはしない?」
『説明のあった不死竜だな? 残念ながら、俺の知り合いにそういったヤツはいなかったよ』
そっかぁ、と残念そうな声を上げるアカネだったが、同時に安心したとも口にする。
「だって、もしジークくんの知り合い…友達だったりしたら申し訳ないなぁって思って」
『もしそうだったとしても、ドラゴンゾンビとなってしまったなら葬ってやった方がいい。そいつにとってそれが一番の手向けになる』
そういうものかと納得しかねていたアカネだったが、人間に例えてみるとなるほどどうしてすんなりと納得が行ってしまった。
屍は屍でしかないし、それが知人なら悲しいし安らかに眠ってほしいと願うだろう。
見ず知らずの他人だったとしても、元は生きていた事を思えば歩き襲ってくる屍とするよりは葬ってやるほうがその人の為となる。
手段こそ暴力的になってしまうだろうが、きっとそれが一番手っ取り早く救ってやることにもなるのだ。
「…うん、そうだね その子の為にも、早く楽にさせてあげよう」
『それでこそアカネだ』
「アカネ様ー! 見えてきましたよー! アレが…って、なんだありゃあ!?」
返事こそしないが、アカネも目前に広がる異様っぷりはハッキリと見えていた。
小高い山を越えてブリックが見えてきた所で、そこはもうブリックと呼べる場所ではなくなっていたのだから。
あちこちから火の手が上がり、時折何かが爆ぜるように爆発を繰り返し、あちこちで人が倒れて動かなくなっているのが見える。
寂れた田舎町だったはずの場所は既に世界の終わりのような様相を呈していた。
「目印だった物見の塔が跡形もねぇ… これもアイツがやったってぇのか… クソがっ」
『っ… 街の手前で降りる 数えきれない魔物のせいでターゲットの魔力を追跡できない、駆除を頼めるか』
「りょうかーい さっさと終わらせちゃうよ」
「……排除…すればいいんだな…?」
「んじゃ俺もいっちょ頑張りますかぁ!」
速度を上げて街のすぐ手前まで急行する。
そこまで近づけば、どうしてあんな光景が広がっていたかの理由も見えてきた。
「うーん… まぁこのメンバーなら大丈夫かな」
「……問題発生…か?」
「うん 街のあっちこっちから魔物が沸いてるせいで魔素がすっごく濃いの」
とはいってもアカネやルシフのような勇者であれば、その上がり過ぎたレベルの恩恵により何も問題はないだろう。
ドランはと言えば、まあ苦しむ事にはなるだろうが、魔素の影響を強く受ける事はない。
ジークにもなるとドラゴンそのものなのだから痛くもかゆくもない。
「うげぇ… こっからでも匂いやがる… 鬱陶しいくらい重い死の匂いだ…」
『ここでいいか では三人とも、頼んだぞ』
「……承った…」
街に溢れる魔素が流れてこないギリギリの場所へ降りた一行は、荷物を降ろすジークを残して三人ともが街へと向かう。
つい最近までにぎわっていたであろう街の入り口は、無残に破壊されて魔物たちが徘徊していた。
露店の棚に頭を突っ込み食材を貪る獣や、何かよくわからない物を喰って悦に浸る獣人たち。
それら全てが、この街を破壊した元凶であり駆逐すべき敵だ。
「人の街を好き勝手に荒らしやがって… 許さねぇぞテメェらぁ!!」
真っ先に剣を抜いて突っ込んでいたのはドランだった。
全体の把握に意識を向けていたアカネよりも速く、街へ踏み込むタイミングを見計らっていたルシフよりも速く、その剣の切先は好き放題暴れる獣の腹を切り裂く。
不意打ちだろうが構いやしない。ドランの殺意に目も暮れずなにかよくわからないものを貪り続け隙を晒す獣が悪い。
「かかってきやがれケダモノども! 一匹残らず剣のサビにしてやるぜ!」
「ドランくん、ここ任せるね」
「っ! はいっ! くぅ~、アカネ様に任されちまったぜ! このドラン・レイジアにお任せあれってな!」
先陣を切って暴れるドランのおかげか、街の奥からも魔物の群れが続々とこっちへ向かってくる。
この魔物の群れだが、町人や兵士ならともかくドラン程の実力者なら遅れをとることもないだろう。
だからこそアカネはドランにこの群れの事を任せて街の奥へと向かった。
ルシフの方も同じく任せたらしく、アカネとは別方向へ走っていく。
「俺はここだぜ? まとめて片してやっからかかってこいよぉ!」
ドランの怒号と共に、魔物の群れとの戦いが始まった
「……」
街の奥へと向かうルシフだったが、微かに聞こえた声に足を止める。
町中から聞こえてくる爆発音のせいで聞き取りにくかったが、それは少女の泣く声だ。
「……無事…か?」
「っ?!」
無口で声の小さな彼ではあるが、こんな時くらいは大きな声も出せる。
民家の扉を開けると、部屋の隅では小さな子が頭を抱えて震えていた。
怯えた様子のその少女は、ルシフを見つけると頼りない足取りで彼の元へと歩いてきた。
「ひぐっ… お、おじさぁぁん…怖かったよぉ」
「……もう…大丈夫だ…」
助けが来て安心したのか、その少女はルシフにしがみついて離そうとしない。
相当怖かったのだろう、四肢は震えて声も枯れて、涙も止まらないようだ。
「……俺が来た…安心して」
「えへへっ、おいしそう……あぁむっ!」
生存者かと思ったが、どうやら違うらしい。
街中に充満した魔素の影響を受けた人間がどうなるかはまちまちだが、その中に魔人へ変貌するというものがある。
その特徴は様々だが、目の形が山羊目に変貌するのが分かりやすいだろう。
ルシフの足に噛みついたこの少女も、前髪で隠れていたがその下の眼は山羊のように不気味な瞳が輝いていた。
この状態になった人間はもう人ではなく「レッサーデビル」というれっきとした魔物として知られる。
人を襲い、その肉を喰らい己の力を強くしていく、そんな悪魔として。
「はぐっ…? あぐっ… あれぇ?おっかしぃなぁ ねえおじ」
「……だから言っただろう… もう大丈夫だと…」
「っっっー…」
少女は確かにルシフの足に噛みついた。
その肉を喰らい、自分の力とするために。 だが相手が悪すぎた。
牙と呼べるほど鋭くなったはずの歯は、ルシフの足には刺さりすらしなかったのだから。
どうしてと考える間もなくルシフは少女の頭に軽く手を乗せる。
ただそうしただけで、少女は急に白目を向いて倒れ伏す。
「……せめて姿はそのままに…安らかに眠れ」
もうその少女が動き出す事はない。
ルシフの手によって絶命したのだから。
どうしてそうなったかと言えば、これもルシフの技の一つだからとしか言えない。
白目をむく少女の目をそっと閉じてやり、その場に寝かせて手を組ませる。
「……そうか… お前たちも…一緒に行ってやってくれ…」
室内の暗がりでよく見えていなかったが、部屋の奥には大量の死体…いや、死体のほんの一部がバラ撒かれていた。
きっとこの少女に喰われ死んでいった子供たちだろう。
彼ら彼女らが一体どんな気持ちでこの少女に喰われて行ったかは想像に難くない。
けれどどうかこの可哀そうな少女を導いてやって欲しい。
そんな祈りを込めて、ルシフは少女を血の池となっていた奥の部屋の真ん中に寝かせる。
「……急がなくては…な…」
そしてルシフはこの家を後にした。
あの少女がどうなったのか、知ることもないだろう。
魔物となっていたなら、腐食より先に魔素へ還るだろうし、人間のままだったら魔素へ還るより先に腐食して朽ちていく。
どちらにせよ、もうここに苦しむ者は誰も居なくなった。
「……アカネは…どんな気持ちでいる…だろうか…」
さっきの少女のような、魔素に浸食を受けたのが街でたった一人だけとは考えにくい。
他にも同じような事になっている人が居ると考える方が妥当だろう。
もしもそんな人たちに出会っていたら、アカネはどんな顔をするだろうか。
「ごめんね、苦しいよね 今楽にしてあげるからね」
「うあぁぁぁ ぁっ!」
涙を流しながらも、魔素に苦しむ人々を一瞬でも早く救う為に立ち向かっていた。
街の中心部へ向かったアカネが遭遇したのは、朽ちた体で動き回る、言ってしまえばゾンビだ。
人の死体や怨念が、漂う魔素と結びついて死体に定着する事でゾンビは立ち上がり周囲を歩き回る。
中心にもなると人が多いからなのか、そもそも集まっていたのか、大量の歩く死体が生きたアカネに襲い掛かってきた。
「うーん、これでいっか 頑張ったね、後はお姉ちゃんに任せなさい」
きっと家族を守っていたのだろう。
木の枝を握りしめたまま倒れ息絶えていた少年から木の枝を借りたアカネは、それに力を込める。
力を振るう事ではなく、誰かを助ける為に。
「………よっ! っと」
「あぁぁ
\ぁぁ…」
「あらら… 流石に普通の木の枝ならこんなもんか」
魔力を込めて光を放つ木の枝を、水平にして横に一薙ぎ。
すると発せられた斬撃は水面を伝う波紋のように広がっていき、周囲を歩き回るゾンビたちを切り裂いては消滅させていく。
建物をも貫通して突き進む斬撃だったが、流石に武器がただの木の枝では持たなかったらしい。
たった一度振っただけで木の枝は粉々に砕け散ってしまった。
「さてと… このへんでいいかな」
ゾンビを消滅させながら、やってきたのは街の中心地。
円形広場と中心の噴水がキレイな名所だったようだが、今となっては欠片しか残らなかった人の身体の一部と血の海が散見される死の広場となっていた。
きっとここも避難場所になっていたのだろう。
それが魔素に犯された人たちの魔物化によって内側から食い破られた、といった流れだろうか。
ともあれ、その中心に立ったアカネはその中心である噴水の前に立つと、背負っていた巨大で歪な剣を構える。
「イメージするのは最強の顎… なんでも噛み砕く強靭な…ドラゴンのアゴ!」
アカネが唱えると、剣が放つオーラが濃くなっていき形を成していく。
それは紛れもなくドラゴンの頭部だった。
「さぁアギト、ごはんの時間だよーっ! お腹いっぱい食べちゃいな!」
アカネが叫ぶと、呼応するようにドラゴンの頭は周囲の魔素を吸い込み始める。
周囲から吸い寄せているからか、その勢いは徐々に強くなっていきアカネを中心として嵐のように風が吹き荒れ始めた。
すべてはアギトが魔素を吸い込んでいるだけで起こっているものだ。
空気中を漂う、触れるだけで人体に悪影響を及ぼす程の濃さの魔素を、掃除機か何かのように際限なく飲み込んでいく。
「…ねえジークくん、ドラゴンゾンビの居場所分かりそう?」
『アカネか 邪魔な部分を掃除したおかげでいくらか見えるようになってきた…んだが、少し困った事になったぞ』
今ここにジークが居るわけではないが、念話で話しているのだから距離なんて関係ない。
王城からジークと待ち合わせていた王都近郊までの移動中に話していたのも、こうやって説明していたからだ。
それはそうと、困った事と言うからには彼の見えている範囲で何か異変が起こったのだろう。
「困った事?」
『ターゲットの反応が接近してきている 少し派手にやりすぎたらしい このままではこの街が戦場になるぞ』
「うげぇっ! ホントだ!」
魔素を吸い上げた事によってクリアになったその向こう。
アカネたちが来たのとは逆方向にある小高い山の向こうからは目に見えて濁った色をした魔素の奔流が顔を覗かせている。
悪魔や魔族のそれとはひとまわりも違うその魔力を持つのなんて誰なのかは容易に見当が付く。
本人だって顔を出してきたのだから、見間違うハズもない。
「…予想通りだったね」
「正直、ドラゴン違いだったらいいのになんて思ってたッスけど、マジでしたね…」
「……相手にとって…不足なし…!」
魔素を吸い上げていたアカネを目印にして、それぞれの対処に当たっていた三人が合流を果たす。
どうやら二人ともこれといって目立った怪我などはないようだ。
これならば、ドラゴンゾンビとの戦いに万全の状態で挑むことが出来そうである。
「二人とも、おつかれさま このまま当初の予定通り、ドラゴンゾンビの討伐に動くよ 準備はいい?」
「さっさと楽にさせてやりましょう!」
「……問題…無い…」
互いに視線を向け合い、タイミングを合わせる。
山の向こうで吠えるドラゴンゾンビに向かって、三人一緒に歩きだす。
もうこれ以上、このブリックの街を滅茶苦茶にさせない為に。
かつて倒した因縁のドラゴンを、今度こそ完全に葬り去る為に。
あった事のない竜との、新たな出会いと思い出を獲得する為に。
「………」
彼らが歩いていくのを、見ている人の気配があった。
それはアカネが魔素を取り除いた事によって苦しみから解放された街の住人たち。
病み上がりのような状態でも、三人の勇士を見送るその視線は希望に満ちていただろう。
のちに彼らは語る。竜の勇者と星の勇者がこの街を守り抜いたのだと。
次回、【邪竜討伐作戦】chapter:3へと続く
長らく執筆出来ていませんでしたが、再び書いていこうと思います