【新しい友達】chapter:2
ドランが覗いた窓の向こう、アカネの座っていた所で起きた異常事態に、彼はすぐさま馬車を止めさせる。
彼の怒気に怯える馬たちはあっさりブレーキをかけて道の脇へ寄るとドランは馬車を飛び下りた。
すぐに馬車の扉を開けて中へ押し掛ける。
「クソガキがぁ!! そこをどきやがれぇ!」
「んぅ… うりゅひゃぃ」
「うぐぉ!?」
(なんだこれ!うごけねぇ…そして喋れねぇ?!)
アカネの首筋に噛みつく少女は、飛びかかろうとするドランへ掌を向ける。
するとたったそれだけでドランは身体が動かなくなり馬車の中へダイブする事に。
両腕を後ろ手に縛られたような体勢になって足元に転がる。
「はぅ… ふぅ…もう、くすぐったいよぉ…」
「我慢してちょうだい 貴女の血が美味しいのがいけないのよ?あと全然血が出ないのよ貴女 あむっ」
「ふぁあ!そんなっ… ダメだよぉ」
「こぉら、大人しくしてなきゃダメよ ほら、身体の力を抜いて?」
「うぅ… こんな感じでいいの…?」
「そうよ、それでいいの もっと吸わせてちょうだいね はぁむ…」
「っっ~~…」
「……ゴクリ」
目の前で行われている光景を、ドランは直視する事が出来なかった。
固唾を呑み、後ろを向いてアカネと少女のしている事から意識を逸らす。
(落ち着け俺ー アカネ様のピンチだからって心を乱しちゃならねぇ… ここは落ち着いてこれをどう対処するか考えるんだよ… その為にも頭使った事するか…そうだ、素数を数えよう
… 1.2.3.4)
(ただ数数えてるだけじゃねーか!!)
(お前誰だよ!?)
心を落ち着かせようとするドランだが、そこへ心の中だというのにツッコミが入る。
(俺はお前の悪しき心様だ! いいかよく聞け? 今アカネ様はあのガキんちょに襲われてヘバってる 声聞いたら分かんだろそんくらい)
「はぁ…はぁ… まだするの…?」
「まだよ もうちょっと吸わせなさい」
「えぇー…わかったけど…早めに済ませてね? んぅ…」
ドランの悪しき心が言うように、アカネの声は疲れているようにも見える。
(メスガキが帰る頃にゃアカネ様は相当お疲れだろうよ 立ってられないくらいにな)
(お前どんどん言ってる事汚くなってくな)
(うるせぇ!お前の心だろうが! とにかく!そんな状態のアカネ様をお前ならどうするってんだよ)
(どうするってそんなの決まって)
(待ちなさい、そこまでです悪なる私)
(善良な信徒の俺は引っ込んでやがれ!)
(今度は白いの出てきたな。っつーか言葉使いが気持ちわりぃ)
心の中の悪い自分と善い自分に板挟みにされ、ドランの心は擦り減っていく。
(疲労困憊になったアカネ様を介抱するのには賛成しましょう ですが、そのやり方が…)
(流石に白いだけあって言う事が善良な俺だな)
(生温い)
(前言撤回)
白い自分の言い放った最後の言葉を聞いて、ドランは確信した。
一番表に出しちゃならないのは自分自身でも黒い自分でもない。
この目の前で高説振りまく善良な白い自分だ。
(白かろうが黒かろうが自分は自分。ドランという男である事に変わりありません。だからこそ分かる)
(な、何が… テメーに俺の何が分かるっていうんだ!)
(どうせ介抱したアカネ様に優しく声をかけて自分のカッコ良さを見せつけてポイントを稼ごうとか考えているのでしょう?)
(それの何が)
(動けない間に拘束してどこか遠くへ二人で逃げてしまう事を考えなかったのでしょう。だから生温いと言ったのです あぁ、少し心苦しいですが拘束するのではなく切って動けなくして
私なしでは生きられないようにでもしてしまうという手も)
(…ヤベェ…俺の心にこんなのいるのかよ 白どころかドス黒い闇そのものじゃねーか…)
自分の心の内に潜む、白く見せかけたとんでもない邪心を目の当たりにしてドラン本人は、確かに自分の思考の片隅にはアカネとどこかへ逃避行してしまおうなんて考えがあったのに
気付き、そしてやがてドランは白い自分と黒い自分を見比べて、考える事をやめた。
「…んっ もう十分よ 素晴らしい程の美味だったわ、アカネ」
「お腹空いて困ってたんでしょ? それに悪い子には見えないし…だから飲ませてあげたんだよ」
吸血された噛み傷は魔力を込めた指でちょちょいと触れれば塞がったし、吸い取られた血の量も少しだから献血したようなもの。
ちょっと足りなくなった分は魔力で補ってしまえばあっと言う間に元通り。
全部元通りにするのに10秒とかからない。
「あら、ヴァンパイアの私を悪い子に見えないなんていう人間は初めて見たわ 本当に面白い子 ちょっと私の城に遊びに来なさいな」
「元から用事があって来たんだし、お邪魔させてもらうね」
「用事? 貴女が…私に?」
「朱月の湖畔の吸血鬼について調べてって」
「…そこの紙には討伐しろって書いてあるみたいだけど?」
吸血鬼の少女が指差す先にあったのは、壁に留めてあった討伐の依頼書。
見えやすい位置にあったからこそ、彼女はそれが一目で吸血鬼の討伐依頼だとわかった。
「これ? いいのいいの、押し付けられただけだから どうせ確証もないまま出した依頼だろうし」
「確証…ねぇ もしもその紙に書いてあることが真実だとしたら…貴女どうするの?」
「うん? もしそうならやっつけるけど、そんな事する子じゃないでしょ?」
「分からないわよ? 本当の私は、これまで何人吸い殺したかも覚えてないような残虐な吸血鬼かも」
「それはないない」
人を試すような事を言う少女に対し、アカネは笑って否定した。
アカネの考えでも確たる証拠にはならないだろうが、少なくとも壁に貼ってある依頼書を出して来た人たちよりは確信を持てる。
「だって、あんなに優しく血を吸う吸血鬼なんて聞いた事ないもん」
「優しっ… 本当に面白い子よね、貴女 分かったわ、私の負け…それと、私の名を貴女に預けるわ」
「名前…そういえば自己紹介まだだった! 私はアカネ。 アカネ・ユウキ」
「エリス・ブラッドムーンよ 好きに呼んでいいわよ、特別に許してあげる」
「それじゃあエリスちゃんで ところでエリスちゃん、そろそろドランくん…そこの人の拘束解いてあげてくれない?」
座席の下では、白目を向いて気絶しているドランの姿があった。
四肢の自由を奪われ喋る事すら許されず、エリスに襲われるアカネの姿を見ている事しか出来ない悔しさからだろうか、気絶する白目からは涙が流れている。
「友の頼みとあれば仕方ないわね ほら起きなさいな」
「よいしょっと」
拘束が解かれて自由の身となったドランをアカネは引き上げて座席へと寝かせる。
少しの間膝枕をして落ち着いた所でやっとドランが目を醒ました。
「…うぅ…」
「あ、やっと起きた ドランくん大丈夫?」
「あ…アカネ様…? 俺…膝枕…? もう俺今ここで死んでいいや…」
「ドランくんっ?! また寝ないで…うわっめっちゃ幸せそうな顔してるっ!? ねぇ、起きてってばー!」
アカネが揺らすがドランはそのままもう一度目を閉じる。
もう一生見せる事はないだろうってくらい幸せそうな顔をして。
「ふふっ ねえアカネ? 眠り姫は王子様のキスで目を醒ますそうよ?」
「立場逆転しちゃってるよ!? …あ、でもそっか」
ふと思いついた事があったアカネはドランへと顔を近づけていく。
本当にキスするのかと見ていたエリスだったけど、結果はもっと優しくソフトで甘い。
「ドランくん、キミが居ないと私、困っちゃうなぁ…?」
「アカネ様を困らせるたぁいい度胸だ!出てきやがれ!」
耳に優しく囁いてみると、ドランはぐわっと目を見開いて飛び起きた。
周囲を見回してみて、怪しいと思った要因はただひとつ。
「おぁ!さっきのクソガキ!? テメェか!」
「アカネ、私は貴女を困らせてるの?」
「ううん? 困ってないよ? それよりドランくん、馬車出して」
「は? は、はい… アカネ様の指示なら…」
アカネの言う事なら疑問を持っていても従ってしまう。
それがドランだった。
素直に御者台に戻って馬へ指示を出す。
「その間にお話しでもしましょうか」
「いいね! ドラゴンの知り合いとか居ない?!」
「開口一番でそれ? 貴女って本当にドラゴン好きなのね うっすらドラゴンの匂いがするのにも合点がいったわ」
「え、こっちじゃなくて、私から?」
アカネが指差すのは彼女のメイン武器であるドラゴンズアギト。
形がどう見たって龍から作りましたって感じの形状をしているからドラゴンの匂いだってするだろう。
だけどエリスは首を横に振る。
「いいえ、匂いがするのは貴女から ドラゴンとの混血児かしら」
「え…父さんも母さんも人間だけど…」
「だったら、ドラゴンの匂いが染み付くくらい一緒にいたか…ドラゴンを好きになる星の元に生まれたのかしらね」
「……?」
エリスの言っている事の意味が理解出来ず、アカネは首を捻る。
分からないと言いたげな顔をするアカネの表情を見たエリスは面白そうにクスリと笑った。
だんだん理解が追い付いてきた所でアカネの表情が急にパッと明るくなる。
「よく分かんないけど、ドラゴンが大好きなのはホントだよ!」
「それはもう十分なくらい伝わってくるわよ」
「えっへへ…」
「アカネ様のデレスマイル、ごちそうさまっす」
覗き窓から見えるアカネの心底嬉しそうな笑顔を見ているだけでドランも幸せな気分になっていた。
自分がドラゴンの事を好きだと理解してくれているのが嬉しいアカネの表情もどんどん柔らかくなっていく。
最初からホットケーキかなってくらい柔らかかったのが、今となっては綿菓子レベル。
もちもちというかふわふわというか、これでもかと言う程に嬉しそうな顔をしていた。
暫くそんな状態が続いていたが、流石に鬱陶しくなってきたらしくエリスはアカネの顔を揉み始める。
「全く… 貴女本当にあの大きな剣の使い手なの? こんなにだらしない顔をして…」
「んにゅむにゅえぅお~」
「なんて言ってるのよ」
「そんな事言われてもー って言ってた」
もみくちゃにしてくるエリスの腕を掴んで離すアカネの何気ない所作だけでエリスは理解する。
これだけの腕力があれば、壁に掛けられたあの大剣を振るう事など造作もないだろう。
「なるほどね 貴女、すごい鍛えてるみたいじゃない」
「えっ? そうかな」
「普通ならこんな女の子らしい細腕からこんな力が出せるなんて思いもしないわよ」
「あー。エリス アカネ様の腕力は企業秘密的なヤツだから教えてやれねーぞ?」
「あらそうなの? ところでアカネ、この人急に馴れ馴れしくなったのだけれど、これってどういう事なの?」
さっきまでの対応と全然違うドランを壁越しに指差してエリスは問う。
荒れ狂う猛牛みたいに暴れそうだった初対面の時と違い、今はもう自分と対等な立場の誰かと話すような感じで会話に混ざって来た。
「あぁ、ドラン君って私が友達と認めた人は自分と同列だって心の中で決めつけちゃうみたいなんだよね」
「友達…? …あっはははは!」
「エリスちゃんどうしたの?」
「あぁ、ごめんなさいね 人間に友達と思われた事なんて初めてだったものだから…」
「寂しい奴だな、お前」
「ドラン君!?」
心無い一言がポロリと出てしまったドランをアカネが叱るよりも早く、彼の足に小さなコウモリが一匹噛み付いて次の瞬間には霧散した。
ただしそのコウモリの役割は血を吸い取る事ではない。
痛覚を刺激する事にある。
今ドランが感じている痛みは、例えるならタンスの角に小指を思いっきりぶつけた時のような痛みだろうか。
静かで地味で、でも物凄く痛い。
「っっ~~~~!!」
「なんかドラン君の声にならないような悲鳴が聞こえるんだけど…」
「まあ大丈夫でしょう 人の事を貶した罰よ それに、貴女が乗っている以上事故を起こしたりはしないでしょう」
エリスの言う通り、ドランは痛みを食い縛りながらも馬たちから目を離しはしなかった。
まぁ心の中ではあのガキ殺してやるとか思ってたかもしれないが。
「それにしても、友達ねぇ… 吸血鬼を友達にしたいだなんてホントに変わってるわね、貴女」
「よく言われるよ ドラゴン大好きなんて変わってるなって」
「それもあるのでしょうけれど… 一番は貴女のその性格かしらね」
「性格?」
アカネの明るく振る舞い誰とでも自分のペースで接するその性格を、エリスは評価した。
他の誰かに注意を引っ張られる事こそあるものの、自分のペースへすぐに整えるその性格を。
「自覚が無いの? まぁいいわ、そろそろ着くんじゃないかしら?」
「いや、まだ掛かるんだが」
「そう? やっぱり空と地面じゃだいぶ速さが違うのね …そうね、アカネの事も知れたし、今度は私についても色々と教えて行きましょうか」
「いいの? エリスちゃんありがとう」
それから暫くは、エリスについてや吸血鬼についての豆知識が次々と教えられていく。
一般的には出回る事が無いような知識がポンポンと出てきて、驚いているのは騎士であるドランくらいのものだった。
アカネからすればきっとそれは「驚くほどの脅威」という訳ではないのだろう。
「へぇ、吸血鬼って普通に鏡に映るんだ 教会の教えとかだと吸血鬼は変わり果てた自分の姿を見たくないから鏡に映らない身体になった、って言ってたけど」
「理由が滅茶苦茶ね… 確かに、鏡に映らなくなるようにする術はあるわよ? でもアレ準備や術式が複雑で面倒なのよ 私はアカネに触れられるでしょ?なら鏡にも普通に映るわ ほら、窓にもちゃんと私の姿が映って見えるでしょ?」
「だね よく考えたら鏡に映らないのって不便そうだし ほら、髪結うのとか手間掛かりそうでしょ?」
窓にはしっかりエリスの姿が映し出されている。
鏡じゃないが、確かに映っている訳で。
「それじゃ、家には招かれないと入れないって言うのは?」
「招かれても無いのに入るなんて不法侵入じゃない?」
「ぶふっ!」
「確かにね? 教会だと確か…「人の住む家にはそれぞれうっすらと結界があって、吸血鬼はそれを嫌って入らない」だったっけ」
エリスの言う事ももっともだった。
確かに、招かれても居ない家に勝手に入り込むなんて不法侵入以外の何物でもない。
そのへん魔界の貴族とも呼ばれる吸血鬼にとってはプライドを汚す許し難い行為の一つなのだろうか。
「じゃあじゃあ、十字架が苦手っていうのは?」
「仲間にはそういうのもいるかもしれないわね?十字架掲げた人間共に酷い仕打ちを受けたとか、そういうトラウマを持ってるとかね」
「エリスは? はい、十字架」
アカネは荷物をまとめたカバンに引っかけてあった十字架のネックレスをエリスへと渡す。
けれどファンタジーみたいにジュッと焼けたり煙が出たりなんて事はない。
「へぇ、良い金を使ってるのね?」
「何ともない感じ?」
「そりゃそうよ 生憎私、神様がどうとか言ってる人間に負けるほど弱くはないの。それに神様とか信じてないし」
「アカネ様と俺の前で言うかよそういうの…」
そうぼやくドランだったが、彼本人がエリスの強さはよく分かっていた。
さっきまで完全に動きを封じられていたからこそ、強くは言えない。
「そっかぁ…」
神様を信じているアカネからしたら、エリスの無神論は自分とは真逆の考え方だ。
だからこそ、残念とは思いつつも話題をすぐに次へと移す。
ぶっちゃけこんないちいち暗くなんてなってられない程、アカネは興味に満ち溢れていたのだ。
「えっとそれじゃ… あ、日光に身体を晒すと灰になって消えるってホント?」
「それも迷信ね 日光浴が好きな子とかも居るわよ? 教会の方だとどんな理由で伝わってるのよ?」
「えっとね、ヴァンパイアとは突き詰めればアンデットの一種だから、地に眠る者たち同様日光に弱い だったかな」
「そこからして間違いよ なんであんな腐乱死体と一緒にされなきゃいけないのよ、失礼な」
「あー、やっぱお前ら吸血鬼ってアンデットって訳じゃねーのか」
エリスの答え合わせに反応を示したのは、ドランだった。
彼も身体に宿した不死性を考えると人間より吸血鬼などの不死な存在に近いからかもしれない。
「死ぬことも老いる事もないからアンデット、なんて考え方してたのかしらね」
「おう分かってんじゃねーか 恐れる事なかれ、不死なりし者それ即ち死に最も近き者なり ってな?」
「聖オルセンの章?」
「ええ 俺、この一説結構好きなんですよ 自分もちょっと丈夫なだけの人間なんだって思わせてくれるみたいで」
自分を慰めてくれるようなその一文を、ドランは心に深く刻み込んでいた。
アカネも教会に携わる人物だったからこそ、彼が言った一文だけでどこの事を言っているのかはすぐに分かる。
人の命について語る文章の多い、命の脆さと強さと尊さを綴った章が聖オルセンの章だ。
「死に最も近き者、ねぇ…」
「ごめんね、エリスちゃん的にはちょっと不服だったかもだけど」
「別に? 言ったでしょ?私神様とか信じてないから だからそんな聖書の教えを聞いたって何とも思わないわよ 興味は持ったけどね?」
「興味?」
「面白い教えを説く教義もあったもんだわって意味よ さぁ、まだ聞きたい事があるんじゃない?」
「あっ! それじゃあえっとね…」
そこからも、ゆっくりと進む馬車の中でアカネはエリスを質問攻めにしていった。
吸血鬼はニンニクに弱いというのは? 強い匂いが嫌いな人も居るがエリスは香ばしい料理とかは好きだ。
心臓に杭を刺さなければ死なない? 心臓刺されたら誰だって死ぬ。
銀の武器が特に有効? 銀じゃなくたって斬られたら痛いし血だって流す。
「なんつーか…聞けば聞くほど…」
「うん… 人間みたいだね」
「貴女たちの教えだと吸血鬼ってどんな存在だったのよホント…」
「どんなって… なかなか死なないし人は襲うし眷属増やすしの百害あって一利なしな連中だな」
「ものすごい曲解してるわね… 考えた人は吸血鬼に親でも殺されたのかしら」
自分の種族についてめちゃくちゃに言われて、エリスの顔には苦笑いが浮かぶ。
そしてエリスの言う例えも、世界が世界なら全然普通に有り得る出来事だろうと簡単に思い浮かべられてしまうから困りものである。
「そういう事は書いてなかったと思うけど… あ、お城見えてきた?」
「そのようね ようこそ、アカネとその従者 私の城へ」
窓から覗くと、目の前には湖と、その先の丘にある城が見えた。
あの城こそがアカネの目的地でありエリスの住む城である。
「客人、それも人間の客なんて久しぶりだから片付けに時間が掛かりそうだわ」
「手伝おうか? 私こう見えて得意なんだよ?」
「いいえ結構よ 客に汚れた部屋や廊下を見せたくないのが本質なんだから …よし、大丈夫そうね このままの早さなら城に着く頃には掃除も終わってるでしょう」
「どれどれー?」
窓から身を乗り出したアカネは、城の方を凝視する。
その瞳に魔力を乗せて、視力を何段階も一気に強化して即席の望遠鏡のようにした。
すると、城の城壁や廊下をせかせかと掃除するスケルトン…生物の骨に魔力を通すだけで生み出せる即席のゴーレムのような下級モンスター。レベルは5~10程度…が、何体も清掃に駆り出されているのが見える。
「あー、確かにスケルトンがいっぱい」
「見えるの? あの距離で?」
「うん 魔力も使い方次第って事だよ」
「アカネ様なら当然ですよね 俺にゃ無理だが」
と、まぁそんな事を話しながら三人は城へと向かう。
この先、あの城でどんな困難が待ち受けているかも知らず。
続く