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【ドラゴンって好きですか?】chapter:2

 馬車を引っ張り山道を登る馬たち。

 普通なら馬どころか馬車ごと吹き飛ばされそうな暴風の中を、まるで風を感じず進む。

 これもお守りの効果なのだから、つくづく魔法を考え出した賢者たちには感謝しなくては。


「…見えてきたよ、ジーク君」


「ああ、予想通りと言ったところか」


 暫く進んでいると山頂に差し掛かる。

 そこに、目的地であるドーム状になったゲイルドラゴンの巣が見えてきた。

 鳥の巣が木の枝を束ねて作られているように、ゲイルドラゴンは倒木を半円状にかき集め巣を作る。

 そこへ抜け落ちた羽根や羽毛を縫い物でもするかのように絡ませ食い込ませる事によって、ゲイルドラゴンの操る嵐にすら耐え得る強固な城が完成するわけだ。

 入った事のあるジークやアカネなら分かるが、羽根や羽毛が換気の役割を兼ねている為に巣の内側はドラゴンにとっても人にとっても涼しく快適な気温が保たれている。

 まぁ、そんなドラゴンうんちくを挟んでしまったが、ジークの予想通りの展開ではあった。

 倒木で作られた巣は壊され、ゲイルドラゴンの抵抗によって消し炭にされたであろう誰ともつかない死体が転がっている。


『ゴァァァアアアアーー!!』


「あっちか」


「あ、ジーク君ちょっと待って」


 聞き覚えのある咆哮が、巣から少し離れた場所…というか森の中…から聞こえてくる。

 声のする方へ馬車を走らせようとしたジークだったが、それをアカネが目の前に立ち塞がって動きを止めた。

 どうして止めたのか、理由を聞く前にその答えは轟音と共に届く。


「っ!!」


「あ、飛び火してきた」


 何十何百もの稲妻が一か所に寄り集まり束となったかのような光が森の中から飛び出して来た。

 これはただの雷ではない。

 森の中から、しかも横向きに飛び出す雷などあってたまるものか。

 まぁ、一番ツッコミが入るであろう所は、そんな自然界の怒りそのものが飛んできたというのに飛び火呼ばわりして虫でも払うかのように手の一振りで空の彼方へ弾き飛ばしてしまうアカネの非常識っぷりだろうが。


「ゲイルドラゴン…いや、アグリアのサンダーボルトか… しかもあの威力、白角並だったろうに…」


「ふ~っ え、何か言った?」


 ゲイルドラゴン・アグリア。これから会いに行くはずだったゲイルドラゴンである。

 そのアグリアが、ここまで暴れているのを見たことが無い。

 ちなみに白角と言うのは、先程の稲妻の束、サンダーボルトを放つ際の角の色から来ている。

 ゲイルドラゴンの角は元々黒曜石のように黒く輝くものなのだが、その実態は避雷針にして電磁砲。

 身体で発生させた電気を角へ集約する時、角が蓄電量に伴い色を黒から白へと変化させていく。

 白角と呼ぶその状態は、落雷よりもずっと強力な威力を持っている…はずだった。

 まあ、アカネからしたらそれらの強力な攻撃も「その程度」で済ませてしまうのだろう。

 今もこうして弾いた手についた、飛ばされてきたのであろう煤を払い落していた。


「いや、何も おい待った」


「ぐぅ」


「巣より暴れる親を鎮めるのが先だ 行こう」


 ちょっと目を離すとすぐコレだ。

 止めていなければきっと巣で母親の暴れっぷりに萎縮した雛や子供のゲイルドラゴンたちは成す術無くアカネにモフられてしまうだろう。

 まぁ、敵意や危険がある訳ではないからか、ここの雛や子供はアカネとだいぶ仲がいい。

 でもそれはまた後で。

 今は森で暴れている母親を止める事が最優先。

 また飛び火してこられてもかなわないから。

 それにジークは彼女に注意しておかなければならない点を見つけた。



「く…くっそぉぉ!」


『グルオォォ!!』


「どひゃーっ!」


 森に入ってみれば、やはりアグリアの姿があった。

 ゲイルドラゴン特有の、羽根と羽毛で出来た翼とエメラルドのように艶やかな鱗、尾や胸、肩や首を覆う無数の羽毛。

 長い首と、更に長い尾が鞭を打つように振られいったりきたり。かなり怒っているようだった。

 そして彼女が暴れている理由も、彼女が襲っている野盗、いやハンターに答えを見出した。


「…なるほど、あれはアグリアも怒り心頭な訳だ」


 アグリアから逃げるハンターは、白く大きな楕円状の石みたいな何かを抱えていた。

 誰が見たって、それがゲイルドラゴンの卵だというのは見て分かる。

 ゲイルドラゴンの卵は、その採取難度の高さと希少価値から非常に高値で取引されている訳なのだ。

 どれくらいの値段かって? 卵を抱えているハンターで例えるなら、クエストが成功すれば老後くらいまでは遊んで暮らせるような値段になるだろう。


「アカネ、賊はアグリアのタマゴを盗もうとしている。 くれぐれも割るなよ?」


「はぁい」


 ここで追加ミッションを発生させる。

 今までは馬車の護衛としてアカネを連れていたが、目標を増やそう。

 増やす内容は、タマゴを賊から取り返す事。

 アカネとしても願ったりな内容だろう。


「えーっと… これでいっか」


「何度も言うが、タマゴは割るなよ?」


「わかってるーって もし割ったらアグリアの巣の下に埋めてもいいよ」


 アカネは適当にいくつかの石を拾い上げる。

 特段珍しい石と言うわけではない、その辺に転がっているただの石ころだ。

 それで何をするかと思えば…


「1,2,3,4…っと!」


 軽く投げた石は、まるで銃弾のような速度ですっ飛んで行き、ハンターの両足、そして地面を貫く。

 いきなりのダメージにハンターがタマゴを落としてしまいそうになるが…


「はい、おわりっ!」


 アカネが手をパンと叩くと、地面に突き刺さった石とハンターの足に刺さった石が光りハンターを空中へと浮遊させる。

 これもついでにと言わんばかりに、ハンターの動きがタマゴを抱えたまま硬直した。

 それもこれもアカネの思惑通りである。

 本当に魔法ってすっごく便利。


「アグリア、怒りを鎮めてくれ ジークが会いに来たぞ」


 動きの止まったハンターをアグリアが潰してしまわない内に、ジークがアグリアとハンターの間へ走る。

 今にも振るわれようとしていた腕は、しかしジークが割って入った事でピタリと止まった。


「…止まったか… そうだ、それとこれはキミへの罰だ 受け取ってくれ」


『ッッッッッ?!?!』


 ジークの目の前で止められた手へ、ジークはそっと触れる。

 するとその手からは魔法陣が発生してアグリアの身体を地面へ押し潰した。


『グガッ!! グガァァッ!!』


「全く… アカネが居なかったら自分の巣を消し炭にしていたぞ?」


 最初、アカネが軽く弾き飛ばしてみせた電撃。

 あれがもしアカネに弾き飛ばされていなかったら、その後ろにあったアグリアの巣やそこで怯えていた雛はただでは済まなかっただろう。

 それがジークは我慢ならなかった。

 意識の大部分を怒りに任せ暴れるのはまあいい、ある意味ではドラゴンの本懐とも言えるだろう。

 だが、それが自分の家の玄関先で、しかも自分の家や子供たちを自らの手で危険に晒すなど、魔物最強角のドラゴンとして恥ずべき行為。

 ジークにとってそれは見ていられない程に愚かだった。

 知り合いなら猶更、こうして罰を与えなければ。


「反省はできたか?」


『……』


「ならばよし、帰って物々交換と行こう アカネの希望にも沿ってやるように」


 怒りを収め…と言うより萎縮してしまって怒りが消えた…アグリアを連れて彼女の巣へと戻りに行く。

 さっきのハンターはと言えば、子供が風船を持って歩くかのようにアカネが浮遊魔法で浮かべたまま固定されていた。

 治癒魔法で貫いた足を治癒してすっかり傷もなくなってはいるが拘束は解かない。

 ぶっちゃけた話、アカネからするとただタマゴを持っていて欲しかっただけなのだが、このハンターの処遇はもう決まっている。


「…お、俺はどうなっちまうんだ…」


「ん、何か言った?」


「自分の将来の心配なら大丈夫だ、ここで殺すより密猟者を突き出す方がいくらか建設的と言うものだからな」


 人は人の法で裁かれてくれというわけである。

 別にここでドラゴンのエサになってくれても構わない。

 ゲイルドラゴンは雑食性で結構なんでも食べる。

 肉だけでなく骨もスナック感覚で食べられるなんてのは良く聞く話。


「わ、わかった! 大人しく捕まる! だからエサだけは勘弁してくれ!」


「はいはい、大丈夫だって あ、そこにタマゴ降ろしてくれる?」


「へ、へいっ!」


 巣のほぼ中心あたりに並べられた卵たち。

 一個あきらかに無くなったんだなって位置へ、ハンターはタマゴを戻した。

 現実で言うならダチョウのような大きさのタマゴだ、こっそりくすねるなんて芸当出来る筈もなく。

 ハンターは素直に巣へタマゴを戻してくれた。


「にしても…アンタら一体何者なんだ… ドラゴン飼い慣らしてるようだが…」


「別に飼い慣らしている訳では…ん? なんだ、お前余所者なのか」


「どこから来たかは教えねえ」


 彼なりの抵抗なのだろうが、ジークもアカネも、このハンターがどこからやって来たかなんて興味も何も無い。

 強いて言うなら然るべき場所へ送る際にどこから来たかが分からなくてちょっと困るくらいだ。

 ぶっちゃけどこだっていい。


「まあ余所者でも「竜の勇者」という単語くらい聞いた事はあるだろう」


「世界五指の実力者の一人…生きる伝説、だっけか? なんでそんな話が」


「私がどうかした?」


 もうすっかりハンターの事になんて興味を無くしていたアカネは、アグリアの子供たちに囲まれてモフモフの波に飲まれていた。

 ドラゴンの子供たちと無邪気に遊び、羽毛の翼でもみくちゃにされてキャッキャと笑うアカネ。

 その姿は、少女以外の何物でもない。


「……は? いやいやお嬢さんの事じゃなくて」


「アカネ、自己紹介が必要なようだ 練習しておくか?」


「あ、うんちょっと待って またモフらせてね」


 子供ドラゴンたちと遊んでいたのを中断したアカネはジークの所へと戻ってきた。

 ちょっと羽毛が張り付いたままだったが、そんな事など気にせずアカネは自己紹介を始める。


「コホン… 信仰国家エンゼリアが筆頭勇者、アカネ・ユウキです」


「………え? 何? えっ?」


 ハンターは自分の耳と目を疑った。

 確かに、彼の住む場所にも「竜の勇者伝説」という話は存在した。

 つい最近、人間どころか国王、魔王にだって無理だろうってくらいの戦績を上げる、常勝無敗・完全勝利をもたらす勇者が居る。

 そんな噂話が。

 眉唾物にしか聞こえないだろうその伝説の張本人が、ついさっき目の前で子供のドラゴンと戯れていたわけで。


「信じられないって顔をしてるな」


「えー、これでもれっきとした勇者だもん! ねぇアグリア!」


『wwwww』


 アグリアに同意を求めたアカネだったが、アグリアは先刻までの怒りなどどこへやら、大きく吼えるように笑っていた。

 その笑顔はうまく言い表せないが、母親そのものだ。

 草生える。でも草は生えてはこない。


「まぁ魔物と戯れる勇者なんてそうは居ないだろうからな」


「あ、ジークくんまで!」


「何なんだ一体…」


 目の前に生きた伝説が居る事を、ハンターは直視出来ないでいた。

 どこからどう見たって、剣士としては未熟そうな20にも満たない女の子だ。

 それが伝説に名高い竜の勇者だと言う。

 確かに背負う大きな剣はただならぬ雰囲気を纏っているが、それを背負う少女本人にはまるで闘気が感じられない。

 さっきだって雛や子供とはいえドラゴンの群れに突っ込んで、戦っているのかと思えば単にモフモフに包まれに行っているだけ。

 あれでは毛の長い大型犬に絡みに行っている子供にしか見えないだろう。


「信じられないといった顔をしているが、これが現実だ」


「あはぁ~、しあわせ~… もっかいモフらせて~」


 見ればアカネはまた雛ドラゴンたちの所でもみくちゃにされていた。

 自分とほぼ同じくらいの雛ドラゴンたちの羽毛を全身で感じ取り撫で回す。

 指先から伝わるふわふわとした感覚の中に身を埋め、アカネの表情は至福のものへと変わる。

 ドラゴンたちはといえば、別に嫌がっている訳では無いらしく、むしろ気持ち良さそうな声を上げていた。


「…そうだ、丁度いい 抜け落ちた羽毛と食料の交換をしようと思っていたんだが、何分一人だと往復回数が多い。 手伝ってくれないか?」


「あ、はいっ! お安いご用で!」


 こんな連中に刃向うなんて命がいくつあっても足りはしない。

 そう悟ったハンターはすっかりアカネやジークの言う事を聞いて働く事しか出来ないようになっていた。

 逃げる事も出来たかも知れないが、ハンター自身がそれこそ愚策だという事を知っている。

 ここを逃げ出した所で辺り一帯は山と森だ。

 そこに住む魔物たちを一人で撃退できるほどの腕前を彼は持ってはいなかった。

 ジークの指示に従って手伝いと言う名の労働に従事している方がよっぽど安全だと彼は理解していたのだ。


「助かる、早速だが巣の外に待たせた馬車からタルを持って来て欲しい こっちはアグリア…この巣の主と商談してるから何かあったら教えてくれ」


「へいっ!」


 ジークの指示でハンターは馬車へと向かう。

 それで後はジークが残った。

 アカネと遊んでいる子供たちを見守るアグリアとの交渉の為、彼もそちらへ向かう。


「…あ、やっときたー」


「アカネ…? その羽毛の山は一体…?」


「あーうん、毛繕いしてたらどんどん抜けて…」


 まあ換毛期だしそこそこの量があるだろうとは思っていたが、これはもしかすると。

 ある予想がジークの頭を過ぎる。

 ちらっと視線をアグリアへ向けてみれば、どこか安心したような顔をしていた。


「……あまり手入れをしないのは身体に悪影響が出るぞ」


『っ?!?!』


 さっきだって盗賊に卵を盗まれたり、餌を取りに行った番のオスが帰って来なかったりでストレスが溜まっていたのかもしれないが、そんなの関係なくジークとしてはあまりよろしいとは言えなかった。

 自分だけじゃなくまだ幼い子供の方まで世話を怠っていたのだとしたら猶更である。

 別に毛繕いだけが体調に直結すると言う訳ではないにしても、ツッコミを入れるべきかもしれない、なんて考えていた。

 その横でアグリアはと言えば、気付いていなかったとでも言うように目が行ったり来たり。

 じっと見てると変な冷や汗とか出ていそう。


「はぁ… 子供の、それも羽毛の辺りと言うのはデリケートなものだ、気を付けるように」


『~~~』


 ジークの注意を受けてアグリアも堪えたのかぶんぶんと首を振っていた。

 さっきみたいに地面へ押し付けられるようなお仕置きがイヤなのか、子供たちのケアに気を付けようと誓ったのか、それとも両方か。

 叱っている側のジークからしたら両方な方がありがたい。


「アカネ、そろそろか?」


「もうちょっと待ってー? この子の毛並整えてるからー」


「分かった 全部終わったら教えてくれ」


「はーい! ふふふーん、キミももっふもふだよねー、やわらかーい」


 雛ドラゴンの羽毛に手を突っ込んでわしゃわしゃとして、乱雑に整えていく。

 一見すると羽根を毟っているようにも見えてしまうが、あれぐらい力を込めていかないとドラゴンの羽毛というのは引き抜けないのだ。

 雛ですらアカネと同じか少し小さいくらいの身体で空を飛ぼうと言うのだから、身体の丈夫さは並大抵のものではない。

 そして、そんなドラゴンの翼の付け根というのは筋肉が集まっている場所である訳で。


「ほぉら、こりこり~」


『くるるる~♪』


 羽根の付け根にあたる場所を摘まんでぐりぐりとしてやると、とても気持ち良さそうな声を上げて顔をアカネにすりつけてくる。

 因みに同じ事をアグリアのような大人にやる場合、マッサージする場所が身体の成長と共に大きくなっている為、威力を弱めた魔法をぶつけた方がいい。

 指や拳で押しても効果が無いほどには堅くなるからだ。

 例えばゲイルドラゴンには雷の魔法なんかがよく効くだろうか。

 もとから電気を扱う事には長けた種族なので、感電のしようがない。

 その割には雷の魔法による刺激がドラゴンの身体に程よい刺激を届けてくれる。


「気持ち良さそうだな」


「旦那、運んできましたぜ」


「ああ、助かる 休んでいてくれ」


「へいっ」


 馬車にあった荷物から、交換に用いる分の者は全部運んできてくれたようだ。

 やはりハンターという職業は体力面では十分に使えるらしい。

 まぁジークは手伝ってくれればそれで良かった訳だが。


「さて、商談と行こうか…」


「はぁあ~、しあわせぇ~」


「……ドラゴンに囲まれてトリップしてる少女と、ドラゴン相手に商談始めちまう男… なんだこれ」


 巣の入り口の端で休憩していたハンターは、巣の中で寛ぐ二人を見ていてそう思った。

 というか、そう思うしかない。

 しかもドラゴンに囲まれてトリップしている方は世界五指に入る実力者と来た。

 本当にそうだったとして、そんな彼女と対等に話しドラゴンに教育的指導を叩きこむあの青年は一体何者なのか。

 謎は尽きないのに時間だけは過ぎて行く。



「……ではまた、次の換毛期の終わりに来るとしよう アカネ、そろそろ帰ろうか」


「はいはーい」


 物々交換が終わり、荷物を馬車へ積み込んだのでジーク達は岐路に着く。

 アグリアの怒りも収まっているからか、外へ出ても強風が吹いていたりする事は無かった。

 ハンターは馬車に乗って帰り道の間は動かないよう言われたが、その帰り道にその理由を理解する。


「っ?!! ぎ、ギガントビートルロード?!」


 馬車の風防を捲って後方の確認をしていたハンターが見たのは、馬車よりも大きいんじゃないかという程の巨体を持つ昆虫型モンスター。

 形状を説明するなら、現実に存在するヘラクレスオオカブトを百倍程に拡大した上で悪魔のような牙だらけの頭部を追加したような姿、とでも言おうか。

 通常であれば、見つけた際は自分が見つからないよう慎重に逃げる事が推奨されている程度には強い相手だ。

 少なくともハンターが一人で立ち向かった場合、食い殺されるのは明らかだろう。


「冗談じゃねぇ、あんなのに見つかって勝てる訳」


「アカネ」


「はーい でりゃっ!」


 馬車の外を歩いていたアカネが、ジークの指示を受けて背中の剣を取り、そのままビートルへ一撃。

 それだけで、ビートルの角は折れ、頭部は砕けて動かなくなった。

 剣のめり込み具合から言って即死は間違いないだろう。


「い、一撃…」


「ジークくーん! 折った角持って帰らない? 確かこの角って高く売れたよね」


「それは」


「そりゃ勿論! 角もそうですが甲殻もかなりの値段になりますよ」


 それはいい事を聞いたと喜んだアカネは、あっという間にビートルの解体を済ませてしまうと次々に馬車へと積み込んで行く。

 下山の時間が少し伸びてしまっては居たが、ジークがそれを止める事は無かった。

 儲けられるならというのもあっただろうが、何より喜ぶアカネの表情が悪くは無かったから。


「旦那、もしかして…」


「ん?」


「先は長そうですけど、俺は応援しますぜ」


ハンターが何を言っているのか分からなかったジークだが、とりあえず早々に下山して街へと帰ってくる事が出来た。

兵士たちへ、密漁を働いたハンターを引き渡して、モンスターの素材を換金していつもの場所へと帰っていく。

そんな日常をこれからも繰り返していくのだろう。

ちなみに、ジークがハンターの言っていた事について気付く事はまるでない。


続く

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