ダンジョンコア
目の前に浮かぶ球体。
これでどうしろと?
とりあえず球体をしげしげと眺めてみる。
大きさはボウリングの玉くらいで、色は濃い紫水晶の様で透き通っている。
そして中から淡い光が出ているのか、鈍く輝いていてとっても綺麗だ。
その綺麗さに思わず手に取ろうと、手を伸ばし触れようとした瞬間に頭の中に声が響く。
【創造主の指示により、対象個体に対しての状況説明を開始します。】
「うひゃっ!」
漏れ出した奇声とともに、ビクッとなって手を引っ込める。
「なになになに!」
突然頭の中に響く声に混乱する私をよそに、その声は淡々と続ける。
【第2016803管理世界・現地名『地球』の個体****が死亡。創造主によりダンジョンマスター候補の一人に選定されていたため、その魂を回収し記憶を消去、知識のみを保持したまま第2016804管理世界・現地名『エルトシュトルフレーレ』に肉体が再構築されました。】
「えっ?えっ?えっ?」
【これよりダンジョン及びダンジョンマスターの説明を開始します。まずd「ちょちょちょっと待って!」・・・。】
「その話長くなりますか?長くなるようならもうちょっと落ち着いた場所で出来ないかな~なんて?」
真っ暗闇のふよふよ空間に、輝く玉一つで長話とか無理。
【・・・・・・。】
「だ、駄目ですかn【『エルトシュトルフレーレ』における庶民の個室を再現します。】ひゃっ。」
お伺いを立てていたところに割り込まれ、不意に発生した重力に床におしりパンチ。
「あたた・・・。」
そこまで痛くないけど、ついと言葉を漏らしつつ辺りを見回すと、ザ異世界というような部屋になっていた。
壁も床も天井も机も椅子も全部木製、板材角材そのままって感じ。
そして机の上に玉一つ。
【それではダンジョン及びダンj「ちょちょっ質問があります!」・・・。】
シュバッと音がしそうな位の勢いで手を上げながら立ち上がりつつ声を上げる。
更に椅子を引いて座り、机の上の玉に向かって続ける。
「えっと・・。この頭に響く声はこの玉からってことでいいですか?」
【・・・玉ではありません。ダンジョンコアです。そして念話はダンジョンコアである私が発信しています。】
やっぱり声はこの玉からだったみたいだね。どうして分かったかと言うと、声に合わせて玉の中の光が強くなったり弱くなったりしていたんだよね。
そしてこの玉がダンジョンコアさんだったようです。なんでさん付けかって?そんな雰囲気がするからですね。
【ではダンj「ま、まだあります!」・・・。】
うう・・。遮った後の沈黙が痛い・・・。再三に渡る横槍に激おこぷんぷん丸でしょうか。
ダンジョンコアさんは何も言ってせんが、玉の中の光がスンって感じに弱くなってます。
激しく怒るタイプではなく、静かに怒るタイプなのでしょうか。でも聞かなければいけない事は聞かなければいけません。
「ええと・・。申し訳ないんですが、最初の頃はとても混乱していて全然頭に入っていないんですが、誰かが死亡したとか何とか世界がなにしたとか、もう一度始めからお願い出来ないかな~なんて。」
【・・・・・・・・・。】
うう・・。沈黙が痛い・・・。
【創造主の指示により、対象個体に対しての状況説明を開始します。】
「あっはい。」
【第2016803管理世界・現地名『地球』の個体****が死亡。創造主によりダンジョンマスター候補の一人に選定されていたため、その魂を回収し記憶を消去、知識のみを保持したまま第2016804管理世界・現地名『エルトシュトルフレーレ』に肉体が再構築されました。】
うおおおおっいきなりツッコミどころ満載ですよ。第201万うんちゃら管理世界?魂回収?記憶を消去、知識のみ?再構築?そしてエルトなんちゃら!
そしてダンジョンコアさんはまた遮られるのが嫌なのか、沈黙して私の質問を待ってくれています。
「まず、第201万うんちゃら管理世界と言うのは?」
【創造主によって管理されている世界です。】
うん、まぁそうなんだろうけどね。でもそれじゃあ何もわからないよ。
「それは地球みたいな世界が200万個以上あるってこと?」
【私が知るのは第2016804管理世界の情報のみで、対象個体の再構築の元になった魂が第2016803管理世界のものだと創造主より知らされているだけで、他の管理世界の情報は持ちません。】
なるほど、ダンジョンコアさんは第201万6千うんちゃら管理世界のことは知ってるけど、他の世界のことはその存在を含めて何も知らないってことか。
単純に考えると200万個以上の地球みたいな世界が存在するってことだけど、でも地球を世界って定義してるってことは宇宙の中の一つの天体を世界って言ってるのかな。それともあの宇宙も含めて『地球』って世界なのかな。
浮かんだ疑問をダンジョンコアさんに聞いてみたところ。
【第2016804管理世界の情報は持ちませんので回答出来ません。】
にべもないものでした。確かに他の世界のことは知らないって言ってたもんね。今のは私が悪いね。
まぁ今は世界の定義はいいか。でも管理世界ってことは管理外世界ってのもあるのかな。まぁそれも今はいいか。
「ええっと・・・あとは何だっけ。・・・あぁ私は地球で死んだ誰かの魂を元に作られてるんだっけ?」
【誰かではなく、貴女の魂を元に再構築されています。】
魂はもともと私のものだったのか。
「って言うか。魂ってあるんだ。」
【あります。】
あ、あるんだ。何か常識ですって感じでスバッと答えられるとこれ以上聞き辛い。あっちの世界では魂の存在は観測出来てなかったはずだったけど・・・、まぁいいかあるってことで。
「再構築っていうのは?」
【第2016804管理世界の環境に適合させつつも、可能な限り元の存在を再現しているそうです。】
原作に忠実にって事ですかね。まぁ記憶がないのでどんな姿だったのか分かりませんが、後で鏡をチェックですね。
記憶を消去し知識のみを保持してっていうのは、宇宙とか世界の定義とか魂の存在の有無とかを考える為の知識は出て来るのに、それをどうやって覚えたとかその時楽しかったのか辛かったのか等の思い出が全く出て来ない。これはなかなかに気持ち悪い。現状は理解した。これに関しての質問は一つだけ。
「消された記憶は戻ることはあるの?」
【記憶が戻ることはないし、戻すこともないそうです。】
なるほど、消去と言う位だから在るけど見つからないではなく、存在しないってことか。某つんつん頭の少年状態ってことだね。
そして戻す方法はあると。でもやるつもりはないと。現状気持ち悪いだけだから、まぁいいでしょう。翠玉色の髪の少女の様に不安定になるようだったら考えよう。
で、最後は・・・。
「この世界が第201万うんちゃら4管理世界の名前がエルトなんちゃら?」
我ながらうんちゃらなんちゃら要領を得ない質問にも、
【・・・この世界は第2016804管理世界で現地名は『エルトシュトルフレーレ』です。】
と、的確に答えてくれるダンジョンコアさん。出来る人です。人?玉です?
そうこれです。如何にも厨二臭溢れるこのなっがい現地名。一体どういう意味で誰が考えたのか。それを聞くと。
【意味は特にありません。単語と思われるもので区切ろうとしても類似するものはあっても一致するものはありません。考案者は創造主と言うことになっています。】
「なっている?」
【真の考案者は自称預言者の詐欺師です。ある時神の啓示を受けたと、この世界の名は『エルトシュトルフレーレ』だと、実しやかに吹聴していたところ世界に定着したようです。】
それでいいのか神様。でも地球も神様が名付けたわけじゃないから・・・、名付けてないよね?多分・・・。と言うことは別にそういうのは気にしないのかな。
【それではダンジョンの説明をしても宜しいですか?】
質問が終わったと判断したのか、ダンジョンコアさんがそう聞いてきます。
「あっその・・・、今更何ですが・・、この机の上の玉に向かって一人話しかけ続けているという構図がなんとも痛々しいかな~なんて思ったりしたり?」
またダンジョンコアさんに対して失礼なことを言っている様な気もしますが、一度気になってしまうと途端に落ち着かなくなって来るんですよね。
【・・・・・・・・・。】
またまた来ましたよ。痛い沈黙が。自分のせいなので甘んじて受けますが、辛い!
【・・・玉ではありません。ダンジョンコアです。対象個体の要望に対応する為、コミュニケーション用外部端末を生成します。】
どうやらダンジョンコアさんは玉と呼ばれるのがお嫌なようですね。訂正されます。してしてコミュニケーション用外部端末とは?
ダンジョンコアさんの言葉が終わった数瞬後、ミュイーンと音がしそうな、SFでよくありそうな足元から映像が出て来るような感じで、銀髪幼女が現れた!