第五話 鳥の丸焼き
燻製とか塩漬け肉ってロマン感じますよね
そろそろヒロイン登場します
季節はもう春を迎えようとしている。暖かい太陽が冬に積もった雪を解かすため、てっぺんに近付いてきた昼前、俺は家の近くにある山を走っていた。
―― 徹底的に仕込んでやる
悪い顔をした父さんにそう言われて半年が過ぎた。
半年間毎日筋肉と体力作りに励んでいる。何事も基礎が大事だよね……。
そんなことを考えながら山道を走っていると、葉っぱは全て落ち、代わりに雪を枝に付けた木が
目に留まった。
よく見ると、雪と同じ真っ白な羽を身にまとった鳥が木の幹をほじくるように、くちばしでつついていた。
「今日こそ昼ご飯は鳥の丸焼きだ」
普段父さんが獲ってきた肉は全て、燻製にするか塩漬けにしている。
保存するときに油は取ってしまうから、自分で獲った肉は丸焼きにして食べたい、
俺は鳥に気が付かれないように、小さく声を出し、近くに落ちていた手ごろな石を拾った。
ここ半年肉体作りだけをしていたわけじゃない。魔力を制御する練習もしていた。最近はほとんど自由に魔力を動かせるようになった。
そこで母さんから言い渡された次の課題が、石で鳥を獲って来ると言うものだった。
それまで魔法の練習は、午後から母さん指導の元家でやっていたわけだけど、
鳥を獲るには外に出ないとだめになり、ついでということで、父さんから午後も走るように言われた。
とにかく、最初に母さんから課題を聞いた時、そんなもの当たるわけがないと思ったが、熟練の魔法使いともなれば石に込めた魔力をコントロールすることで、弾道を調整することが出来るらしい。
体内では自由に操作出来る俺でもこれがまた難しいんだ。
これまでにも何度か挑戦しているが、うまくコツが掴めず石が明後日の方向に飛んで行く。
でも今日こそは、そう思いながら先ほど拾った石に軽く魔力を集める、そしてこちらにまだ気が付いていない鳥に狙いを定めると、俺は石を投げた。
今までは石を鳥に当てる感覚でやっていたが、今回は鳥に石が引き寄せられる感覚をイメージしてやってみた。
すると、魔力によってコントロールされた石は、迷うことなく鳥の頭に当たり、コツと軽い音が聞こえると先ほどまで木をつついていた鳥が落ちてきた。
「やった!ついに成功した!」
俺は嬉々として鳥の足を掴むと家に向かって走り始めた。
最近では体力も付き息も切れなくなった、山から家までの距離を走り終え俺は、玄関の扉を勢いよく開けた。
「母さん!ついにやったよ!」
俺は先ほど獲った鳥を掲げるように母さんに見せた。
「セハン!? まさかもう魔力を完璧にコントロール出来るようになったの!?」
目を見開き口を大きく開けた母さんが俺を見ている。
「もうっていうか半年も掛かったよ、それより今日のお昼は鳥の丸焼きだね!」
俺は笑顔で母さんにそう言った。