野外活動
バスの車窓から見える景色は退屈なほど緑一色で、時折縦揺れを起こす車体に道路事情の悪さを感じる。僕たちのクラス一行は林間合宿を行うべく、山間の民宿へと向かっていた。まだ知り合って間もないこともあり、みんな手探り状態で会話している中、
「明良、林間合宿ウキよ~!」
「そうだな! 楽しみだぜ!」
この二人だけは違った。下宿で寝起きを共にする彼ら二人だけ、まるで小学生の遠足に行くかの如く盛り上がっていたのだ。僕たちは何の縁があってか、三人とも同じクラスになった。だから当然行き来のバスも同じである。相変わらず騒いでいる彼らを傍に見て、かえって微笑ましさすら感じながら、間近に迫る目的地への到着を待った。
「これから一泊二日の林間合宿だが~…」
民宿に到着するや、一同に集められ、先生から注意事項を言い渡される。その間、みんな体育座りで聞いているのだが、宇喜田だけお尻を浮かせて座っていた。僕は横目にその姿を見ながら、
(やっぱり……そうだよな……)
内心に封印していたはずの疑念を呼び起こしてしまった。頭の中で勝手にイメージを重ね合わせ、思わず吹き出しそうになる。その格好、いくらなんでも様になり過ぎていた。すると次の瞬間、
「宇喜田! ちゃんと体操座りせんかっ!」
「まるで猿みたいだぞ!」
巡回していた先生からそう注意されると、彼はニホンザルの尻のように赤面した。そしてぎこちなく居直ると、身を屈め小さくなった。
(意外と打たれ弱いのかな)
僕はそう思うに止め、怒られないようにと前を向いた。やがて諸注意は終わり、一泊二日の林間合宿が幕を開けた。何事もなく過ごしたい――ただそればかりを祈り、次の行程である「フィールドワーク」に赴いた。
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「修悟、見るウキ! 辺り一面、森ウキよ!」
「水を得た魚」とはよく言うが、隣にいるのはまさに「森を得た猿」だった。五人一組で行動するフィールドワークは下宿の三人に、蟹江、犬伏というメンバーを加えて行われる。各組に渡された地図を頼りに、様々な試練をこなしながら進む。そして早くゴールへと辿り着いた組から順番に今夜の夕食が決まる、と言った具合だ。だから負けられない。
「お~い、宇喜田! 待てよ~!」
ウキウキとした足取りで先を行く宇喜田、僕たちは彼の後を追うように深い森の中へと入って行った。やがてある程度進んだ所で分岐点を迎える。
「地図によると―…」
僕たちは地図を見ながら行路を探る。そして進む方向を決めるや、
「あれっ? 宇喜田は?」
その言葉に一同、辺りを見回す。いない、いない、いない―…宇喜田の姿はどこにもなかった。
「まさか……迷子?」
山間部における迷子は実質的に「遭難」だ。とてつもなく面倒なことになったぞ……直感的にそう悟る。突然の緊急事態に、先生の控える麓まで引き返そうとも考えたが、取り敢えず彼の名前を叫ぶ。
「お~い、宇喜田~! どこだ~!」
みんなでその名前を繰り返す。しかし全く反応のないまま、ひとしきり呼び終えると、
「どうしよう……あいつ、マジでいなくなったぞ……」
「このままじゃ夕飯も貧相なものになっちまう……」
本当は突っ込むべきところだったが、今はその余裕もなかった。このままこの場に留まり彼を探すべきか、大人しく下山するべきか――僕たち一行は難しい判断を求められていた。




