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浮世の風  作者: 金王丸
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試験紙


 今でも鮮明に思い出す。季節柄にもなく額に汗を浮かべて駆け抜けた獣道、ハトローに導かれし目的の場所、大きく呼吸をするのも憚られ息を潜めて覗き込み、大木の影から捉えた彼女の姿、そして―…


 (ウキー!!!)


 それは一人で自室にいると不意にやって来る。頭を掻きむしりたくなるほどの衝動――あの日、オイラは見てしまった。大木に阻まれた視界の右半分に彼女ともう一人、オイラの知らない雄猿おとこを認めてしまったのだ。如何にもワルそうな風貌のそいつは二、三言話した後、彼女の木の実を半ば強引に奪い取るや、そそくさとその場を立ち去って行った。オイラは彼女の助太刀をするでもなく、そいつに声を掛けるでもなく、ただその一部始終を固定の監視カメラのように見つめているだけだった。やがて彼女は男の後を追い、その場はガランとした裏山の一地点と化した。しかしオイラはひたすら立ち尽くすのみ、誰もいないその場所に先程の映像を繰り返し再生し、眼前で起こっていた出来事の納得し得る解釈をあれやこれやと探していた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして時は流れ、年の瀬押し迫る師走に突入した。結局、あの男は何者だったのか――オイラの中では未だに判然としていなかった。ある時は彼を借金取りであろうと推測したり、またある時はならず者の兄弟なのではないかと想像してみたりもした。しかしその往来の根底にはやはりあの疑惑を捨て去ってはいなかった。


 (いやウキ江さんはそんなこと……)


 九割九分、オイラは彼女を信じていた。ただ残りの一分に芽生えるそれのせいで、もがき苦しみ、這い回り、オイラの心はそのもどかしさから次第に疲弊していった。終いには日々の勉強さえも手につかない有様、これではいけない――そう思い立ったオイラは島からの仕送りを前に彼女を試すことにした。


 その日、身軽なまま裏山へ行き、約束の地にて彼女と落ち合う。彼女は一ヶ月ぶりだと再会を喜んで見せるも、オイラの内心は複雑で、嬉しそうな彼女への反応も何だかぎこちなくなったように思える。そして二、三言交わした後、木の実の話になった。彼女の口ぶりから手ぶらのオイラに対する疑念が読み取れる。オイラはここぞとばかりにリトマス試験紙を彼女に浸す。すると一瞬、彼女は強張った表情を浮かべるも、すぐさま取り繕い、その提案を承諾してくれた。そのことに関しては内心ホッとするも、心のどこかでもやつく自分に気付く。その後、程なくして彼女は帰って行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 何はともあれ、オイラの浅はかな目論見は一先ず成功した。彼女は本当にオイラのことを好きでいてくれているのか――その答え合わせ、来たるべきX-DAYに向け、以前と変わらず悩みの種に水やり育てつつ、次第に近付いて来るシングルベルに心の準備をするのであった。



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