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浮世の風  作者: 金王丸
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猿回し


 「光陰矢の如し」という言葉の重みを実感するこの頃、気が付けば十月、残暑の足掻きもようやく収まりを見せ、暦相応の秋らしい気候に落ち着いていた。去年と同様に、体育祭、文化祭と立て続いた学校行事は二度目ということもあり、多少の新鮮味を欠いたものの、それなりに楽しめた。


 入念な準備と大盛り上がりの本番――本分である学業を放ったらかしにして過ごすことを強いられた先月は掛け値なしに忙しかったと言える。しかし半ば強制的な多忙は、恋愛における報われない自分、やり切れない想いを忘れさせてくれた。その結果、オイラはその間だけでも心の安寧を得られたのだから、丁度良かったのだと思える。


 それから程なくして実施された中間考査をどうにか乗り越えるや、遂に今年最大の行事・修学旅行を迎えるに至った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「遂に……やって来たウキー!」


 数時間のフライトを経て関東地方に降り立った一行は機内での興奮覚めやらぬまま、大型バスに乗り換えて各地を物見遊山した。その途中、まるで蟻の群れかと見紛うほどの群衆、交通量、それらを見下ろすようにそそり立つ高層ビル群を目の当たりにし、人間界でも場所によってここまで違うのかとコンクリート・ジャングルの醸す異世界感にすっかり浸り切る。


 そして何やかんやと行程を消化した一行は、修学旅行三日目の午後、奇妙な経験をすることになる「動物園」へと向かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「……それでは、解散!」


 その言葉を聞くや、制服を身に付けた一塊の学生集団は思い思いの区画へ散り散りとなった。


 「明良! オイラたちも見学するウキ!」

 「そうだな……おっ、修悟~!」

 「お前らも一緒に回ろうぜ!」


 そんな明良の呼び掛けもあって、他クラスの修悟、蟹江、犬伏を加えた五人一組で行動することになったオイラは、和気藹々とした周囲の様子とは相反するような、心の奥底からキリキリと身を強張らせる緊張感に苛まれていた。それは何故か、問うまでもない。オイラは猿なのだ。サイ、ワシ、ライオン――檻に入っているとは言え、風に乗って鼻につく猛獣の臭いに警戒心を抱かないでいられる方が不自然だろう。もし檻が壊れてしまえば……想像するだけで身震いがする。


 そういう心持ちも影響してか、オイラはか弱い哺乳類の薄い皮膚に縮こまりつつ、戦々恐々と辺りを見回しながら、それとは知らぬ他の四人に追随するような格好で園内を忍び歩いていた。やがて少し開けた広場を前にして一行は立ち止まる。


 「これ、面白そうじゃねえか!?」

 「ちょっと見ていこうぜ!」


 明良はそう言うと、中央の舞台を扇形に囲むベンチ、なだらかな勾配を持つその配席のちょうど中段へと歩み寄り、ドカッと腰掛ける。オイラたちも特段その提案に異議を呈することはなく彼の後を追う。


 (これから何が始まるウキ……)


 恐る恐る彼らの隣に腰を下ろし、キョロキョロと周りを見渡す。二、三十の観客がこの見世物に集まっているようだ。これからどんなことが起こるのだろう、オイラは一瞬冷静になり、舞台の脇に垂らされた演目を見やる。『猿回し』――その瞬間、舞台上には人間の姿、そして縄紐に自由を奪われた、まさにそれは飼い慣らされた犬のような、仲間の姿を見とめたのだった。



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