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浮世の風  作者: 金王丸
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招かれざる客


 重い荷物に背を丸め込み、枯山の獣道を一人寂しくひた歩く。オレは裏山の洞窟に棲む野良狸の兵十、持ち前の変身能力を生かして人間相手に商い事をやってきた帰り道、余りの不入りに頭を抱えていた。この寒さで外出を控えているせいなのか、または年末年始の入り用で財布の紐が固く締まっているせいなのか、その原因については諸々考えられたが、それにしても売れ行きが悪過ぎる。品揃えに関しても行商としては良い方で、中でもロベスピエールから買い取った木の実は売れ筋商品だった。しかしそれすら全くと言ってよいほどに売れていなかった。


 (どうしてだろうか……)


 オレはその木の実を健康商品と称して(決して騙しているつもりはない)、老人相手に一粒500円で売っていた。勿論、それに病気を予防する効用があるとは思えない。しかし「病は気から」という諺もある通り、口にする当人がそう思い込めば忽ちにそれは健康商品なのだ。実際、先月までは売れていたのだから何らかの効果は見られたのだろう。だが遂にそれも売れなくなり、まさに「商売上がったり」の状態だった。


 (月初めなのにこれはマズいぞ……んっ? 月初め……)


 そしてふと思い立ちて手元の現金を確認してみる。ひぃ、ふぅ、みぃ……手持ちの少なさを現認し、ゲンナリしたのも束の間、そこから今月の生活費を抜くと、ある衝撃の事実にぶち当たる。


 (マズい……これじゃ子猿の木の実を換金できねぇ……)


 他ならまだしも、木の実の換金は島の長老直々に頼まれているため、実入りの少なさを理由に断れるような案件ではなかった。しかし今月もこれまで同様、一粒100円で買い取ってしまうと、自分の生活さえ覚束なくなる。


 (困ったことになったな……)


 そう思い悩んでいる内に、棲み処の洞窟へと帰り着いた。そしてすぐさま重荷を下ろすと、帰宅途中にコンビニでくすねた廃棄の弁当を取り出し、それを今日の昼飯として食し始めた。その間、オレは迷っていた。このままここに居て明日を待つべきか、それとも再度人里に下り日の暮れるまで行商を続けるべきか、その二者択一に頭を悩ませていた。冬の寒さを思えば棲み処に留まりたいという気にもなれど、生活のことを考えればやはり働きに出るべきだろうと思わざるを得ない。そうしてしばらくの間、内心で葛藤し、どうするべきか考えた挙句、ふとある瞬間にヤツの顔が浮かんで曰く、


 『兵十さん、換金にやって来たウキ!』


 月初め、週末、そして晴れた日の昼下がり――不気味なほどにその条件は揃っていた。ヤツの来訪――即ちそれは雀の涙ほどにしか残っていない現金の流出を意味する。このままこの場に留まっていては危険だ。一刻も早くここを脱出し、人里に下りなければ「換金」の憂き目に遭う。しかも新年を迎えるに当たり、お年玉を貰っているかもしれない。そうなるとさらに多額の現金を失うことになる。


 「こうしちゃいられねぇ……!」


 オレはそう独り言ちると、弁当の残りを急いで掻き込む。そして再び行商に向かう準備を整えるや、入り口に掛けてある暖簾代わりの枯れ葉を掻き上げた。とその時―…


 「兵十さん、換金にやって来たウキ!」


 目の前にヤツの姿を捉え、冬の乾燥よりも乾いた笑い声を出してしまう。しかも肩掛けのカバンには溢れんばかりの木の実を見とめ、思わず天を仰ぐ。換金不可避なこの状況をどう切り抜けるか、オレは様々に頭を働かせ、そして遂に閃いた。



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