大道芸
「喫茶店やってま~す! 寄って行って下さ~い!」
僕は首元から段ボールで作った看板をぶら下げ、教室の外で客を呼び込む。校内は人で溢れ返っており、廊下を進むのも一苦労、と言った具合にひどく混雑していた。僕は止めどなく流れる人波に揉まれながら、合わせて被る気疲れを内に溜め込み、必死で宣伝活動を行っていた。
しかし悪いことばかりではない。予想外の客足は僕のクラスで運営している「喫茶店」にも向いており、売上も快調に伸びていた。このまま行けば黒字どころか、打ち上げ代をも稼げる可能性すら見えてきた。そう思うと、俄然やる気にさせられる。
やがて僕は呼び込みを他の人に任せ、教室内に戻る。すると、真面目に働いているクラスメイトを余所に、他校の女子と騒がしく談笑する明良と類人を見つけた。
「あいつら……」
注意せねば―…そう思うや、僕はまっしぐらに彼らの元へと向かい、少し荒っぽく言い放つ。
「おい、お前ら! 仕事しろよっ!」
「おっ! 修悟じゃねえか! お疲れ~!」
明良は僕の注意をあっさり受け流すと、再び談笑の輪に入った。僕は見逃さなかった。元の体勢に向き直る際の、邪魔するなと言わんばかりに手を払う仕草に思わずムッとした。
「おいっ! なんだその態度は!」
僕は彼の肩を荒々しく掴むと、無理矢理こちらへと向き直させた。
「なんだよ……ちゃんと接客してるぞ!」
「ちょっと見てな」
怒ったように言い捨てると、類人と二人で何か芸らしきことをし始めた。奇妙な動作を繰り出す類人を後ろで操る明良、幼き日に動物園で見た光景を想起させるノスタルジックな大道芸、これを見た周囲は忽ち笑いに包まれる。
(これはまさか……)
「ショートコント! 猿回し!」
やはりそうだった。見た瞬間にピンと来て、尚且つ面白い。それはなぜか、猿回し師の明良の所為ではない。芸の中心である猿を演じる類人の一挙手一投足が即興芸だとは思えないほど洗練されていたためである。彼らはただ談笑しているだけではなく、これを含めた一発芸で来客を楽しませていたのだ。そう考えると、上辺だけを見てサボっていると決めつけたことを申し訳なく思う。
「明良、さっきはごめん……そのまま頑張ってくれ」
「分かればいいんだよ!」
そう言って笑顔を見せた明良は再び歓談の場に戻って行った。それからというものの、二人はあちらこちらで接客し、場を盛り上げることに貢献していた。それを傍目で見ていた僕の脳裏には「適材適所」という言葉が浮かぶ。とにかく来客の対応は彼らに任せよう――そう思い、再び教室の外で呼び込みをしようとしたその時、
「ここは一年生の喫茶店かしら?」
僕は思わず息を飲んだ。容姿端麗、明眸皓歯を体現している美人女子高生の出現に狼狽え、取り乱す。そして彼女の透き通るような肌の白さに目をパチクリさせつつ、その輝きに眩む現実感をどうにか手繰り寄せながら、
「あっ……そっ、そうです」
「はっきり答えなさいよ!」
両脇を固める取り巻きの四人に詰られながら、彼女ら一行を教室内へと導き入れる。一般の女子高生とはまるで違う。凛とした佇まいから溢れる品位、漂う風格、隠すことの出来ない出自の良さ……彼女を取り巻くその全てが特別に思われた。
(とんでもない客が来たぞ……)
波乱の予感する「招かれざる客」の来訪――この難儀な局面に際し、喫茶店専属の大道芸人はいかに接するのか、僕は当事者でありながら我関せずの態度で、事の趨勢を静観することにした。




