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浮世の風  作者: 金王丸
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再会


 「……ふぅ……やっと着いたウキ……」


 オイラはやっとの思いで森の最深部にある長老の棲み処へと辿り着いた。


 「オレは外で待ってる。行ってきな」


 マラーは扉の方に向けて顎をクイッとしてみせた。その動作に促されるよう、オイラはおずおずと進み出て、木製の重厚な扉と対峙する。この中に長老がいる――そう思うだけで何となく緊張し、不安に襲われる。それはなぜか、理由は明確、勉学の面で期待されていたほどの成果を挙げられていない後ろめたさの所為である。オイラはそのことを長老や学者らに詰められはしないか、心配で堪らなかった。しかしこの扉を叩かないことには何も始まらない。そして次の瞬間、「案ずるより産むが易し」という諺の通り、思い切って運命の扉を叩く。


 「入って来るウキ」


 オイラは中にいる学者の声を聞くと、恐る恐る扉を開けた。


 「おお! ロベスピエール! ロベスピエールが帰って来たぞ!」


 棲み処に入るや否や、学者とその助手、使用人に至るまで、そこに居合わせた長老以外の全員がこちらを向き、オイラの帰郷を歓迎した。てっきりなじられると思っていたオイラは全く意外な反応に驚きの色を隠せない。


 「ささっ、こっちに座れ!」


 学者の一人にそう促されると、オイラは黙ってそれに従った。そして場の落ち着きを待ってから、


 「ロベスピエール!」


 長老の厳めしい声が周囲に轟く。オイラはまだ怒られるかも分からないのに、勝手にそうと決めつけてすくみ上がってしまう。正面に長老の姿を捉える眼差しもどこか覚束ない。そして続く言葉が自分にとって都合の良いものであるように願いながら耳を傾けていると、


 「その姿じゃ落ち着かないだろう」


 そう言ってオイラの額に手を伸ばすや、何かを呟き、ひたすら念じる。するとみるみる内に身体が変化し、やがて元の姿に戻ってしまった。


 「ウキ!? 元に戻ったウキ! やったウキー!」


 オイラは元の跳躍力でピョンピョンと飛び跳ね、喜びを爆発させる。そして自慢の尻尾を縦に横に振って見せ、猿に戻ったという感覚を確かめた。


 「長旅ご苦労だった」

 「無事に戻って来られたことだし、今晩はバナナのご馳走ぞ」

 「楽しみにしておけ」

 「本当ウキか!? 嬉しいウキ!」


 相変わらず飛んだり跳ねたりして喜ぶオイラを見て、長老の口元が不意に綻ぶ。結局、何一つ怒られることはなかった。途中、人間界での生活ぶりを一言、二言話す場面もあったが、そこはどうにか誤魔化しつつ、肝心の成績や進路について触れられないように努めた。そして長老との対面を終えるや、


 「ロベスピエール! ちょっと学童に寄って行かないか?」

 「みんなの勉強を見てやって欲しいんだ」


 学者の一人に呼び止められ、学童へと誘われる。オイラは長旅の疲れから少し休みたくもあったが、断るのもまた野暮だと思い、その誘いを受け入れることにした。


 「そうと決まれば早速行こう!」


 そう言われ、長老の棲み処を後にすると、学童のある別の樹木を目指して駆け出した。その道中、猿特有の軽快な手捌き・足捌きで進むオイラは猿としてのアイデンティティを取り戻せたような気分になった。人間ではない、猿としてのオイラは確かに存在する――それだけで嬉しかった。稀代の天才猿・ロベスピエールは帰って来た。そして今この時、後進に教えを授けるべく、彼らの待つ学童に向かっていた。



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