帰郷
眼前に島の外縁を捉える。あと少しで島に到着する。オイラは定期船の上にいて、久しぶりの帰郷に胸を震わす。思い返せば生まれ故郷を旅立ってから三ヶ月、慣れない人間生活に心休まる場面は少なかった。しかし休暇中は違う。オイラは野生に還り、猿としての日常を謳歌できるのだ。特別なことは何もいらない。本来のあるべき姿に戻り、島のみんなと暮らせたらそれでよかった。
やがて船は島の入り江に近付き、緩やかに減速したかと思えば、やっとのことで船着き場に到着した。
「到着だよ~」
船員のその言葉を聞き、オイラは船を下りる。
(遂に帰って来たウキ……)
オイラは嫌と言うほど見慣れた光景をどことなく感慨深げに眺める。島の中央にそびえる小高い山地、あの森の最深部にオイラの仲間は暮らしている。そこには確かにオイラの日常が存在しているのだ。そう思うと居ても立っても居られなくなり、急いで山に向かう。衣服が汚れるのも気にせず、靴が脱げるのも気にせず、終いには二足歩行をも放棄して、ただひたすらに一族の根拠地を目指した。
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オイラは遂に森の最深部、群れのテリトリー内に入った。稀代の天才猿・ロベスピエールの凱旋帰郷だ。しかし大手を振って歩くようなことはしない。なぜならば、オイラは未だに人間の姿、あまり目立つように歩いては、群れの猿に外敵と誤認され、攻撃される危険性があったからだ。そうしてしばらく恐る恐る歩いていると、
「何者だ!?」
突然、樹上から聞き馴染みのある声が降って来た。
(まさか……!)
オイラは咄嗟に上を見やる。するとこちらを威嚇しながら、今にも飛び掛かってきそうな雄猿の姿を見とめた。
「マラー? マラーウキか?」
「……ウキ!? その声はまさか――」
「ロベスピエール!?」
そう言うと、その雄猿は警戒を解き、樹上から下りて来た。オイラたちは互いに匂いを確認し、やがて確信に至る。彼は親友のマラー、島の青年猿を束ねるリーダー格の猿である。
「ロベスピエール! 遂に帰って来たのか!」
「マラーも元気そうで何よりウキ!」
オイラたちは久々の再会に、手を叩き、飛び跳ねながら、喜びを爆発させた。そしてひとしきり歓喜を表現した後、
「これから長老の所へ行くのか?」
「そうウキ!」
「それならオレも途中までついて行くぞ!」
こうしてオイラはマラーと共に、長老の元へと向かった。しかし山あり、谷あり、樹木ありの道中、人間のままであることが災いして、かなりの苦労を強いられたのは言うまでもない。




