中間考査
ここ数日降り続いている雨は止む気配を見せず、本格的な梅雨の入りを感じさせる。入学して二ヶ月、気付けば六月になっていた。当初、学業や私生活、人間関係など、今までとは勝手の違う部分で苦労する面もあったが、最近になってようやく慣れてきた。そして今日は中間考査の一日目、いつもより軽いバッグを持つ一方、いつもより重く沈鬱な心持ちで登校の途に就いていた。
「あ~、こうも雨が続くと嫌になるね~」
「しかもテストなんて……全然勉強出来てないぞ」
淀んだ空気に見合う愚痴を口々に溢しながら、雨傘を三つ並べて歩み行く。僕はお世辞でもなく今日という日の到来を恐れていた。人生で初めて学力試験を受けたくないと思ったのだ。
小学校でも、中学校でも、受験の時でさえ、今まで一度もそういう感覚に陥ることはなかった。なぜならば僕自身、上手くやれるという確信の下でその全てに臨んでいたからだ。しかし今回は違う。ここは天下に名高い進学校、周りを見渡せば僕より賢い人間だらけ、その中にいて僕は凡庸な一生徒でしかないことを悟ってしまった。つまるところ、井の中の蛙が大海を知ってしまった、というわけだ。そういう事情もあり、浮かない足取りで学校に向かっていると、
「テスト楽しみウキ!」
「ええっ!?」
宇喜田の発言に声を出して驚き、咄嗟にそちらを見やる。一方の彼は自信ありげな様子で僕の視線に応える。
「オイラは稀代の天才ウキ! テストくらい余裕ウキ!」
「おいおい、マジかよ……」
「宇喜田、すげー自信だな……」
その声色、表情から察するに、その言葉は冗談でもなく、心の底からの本音であろう。僕はそれを聞き、更に狼狽えた。周りに優秀な生徒ばかりいるとは言えど、宇喜田だけには負けないだろう、いや負けてはいけないと思っていた。その気持ちを合理的に説明することは出来ない。ただ彼に対する敗北は人間としての沽券に関わる気がしてならなかったのだ。
「まあ何とかなるウキ!」
「二人とも、頑張るウキよ!」
相変わらずの雨空とは対照的な、まるで他人事のように言ってのける彼の能天気ぶりに少し苦笑いを浮かべる。そうしている間にも学校は目前に迫っていた。ここまで来たらやるしかない――僕は内心に蔓延る弱音や不安を無理矢理に押し込め、努めて前を向く。そして高校生活最初の定期試験に臨むべく、いつもと変わらぬ校門を潜った。




