看破
重い荷物を両手で抱え、不明瞭な地図を頼りに未知なる道を往く。裏山に入って早数十分、オイラは鬱蒼と生い茂る植物を掻き分けつつ進み、木の実を換金してくれるという狸を探していた。だが一向に見つかる気配はない。肝心の手紙を見ても、その風体や詳しい居場所について何も書かれていないのだ。ただこの裏山にいるということだけは分かっていたので、こうやって当てもなく彷徨っているという始末だ。
「どこにいるウキよ……」
そう力なく呟くと、段ボール箱を置き、その場に座り込んでしまった。五里霧中の行動は心身ともにひどく疲弊させる。依然として手掛かりという手掛かりもなく、オイラは途方に暮れていた。そしてしばらくそこでじっとしていると、内心に「帰宅」の二文字が浮かんできた。やるべきことをやらない後ろめたさはある。結果として困るのは自分だ。しかしそれを押してまで帰りたいと思わせるほどに、狸の尻尾すら掴めない。
(仕方ない、今日は諦めるウキ……)
重い荷物を抱えての登山はとんだ徒労に終わろうとしていた。遂に木の実の換金という目的を果たせぬまま、オイラは山を下りる。こんなことならカラオケに行っておくべきだった――苦虫を噛み潰したような後悔が不意に湧いて出る。でも「後悔先に立たず」という諺の通り、今日のところは運がなかったと思うに止め、再び立ち上がると、重い段ボール箱を持ち上げ、来た道をなぞるように引き返す。
(しかし重いウキねえ……)
登りの行きより重く感じるのは気持ちの問題だろう。だが中身を捨てるわけにもいかない。そうして様々に葛藤しながら、えっちらおっちら歩いていると、突然、道の向こうに人影を見とめた。これはマズい――咄嗟にそう判断するや、オイラは茂みの中に身を潜めた。実際、この状況を見られて不都合なことは何もなかった。しかし野生の勘とも言うべき第六感に従ってそうするに至った。
次第に近づいて来る人影、オイラは目を細めてそちらを窺う。姿形は人間そのもの、しかし研ぎ澄まされた嗅覚は見たままのそれを受け付けない。
(あれは……)
目前に迫る男から人ならざる雰囲気を感じ取り、思わず身構える。言い様もなく不気味な存在――オイラはその何者かに恐れ慄き、見つからないように身を屈めていると、
「誰だ!? そこに隠れているのは!」
突然、頭上から声が聞こえたかと思えば、そこには中年の男が立っていた。
「ウキッ!?」
オイラは驚きの余り、腰を抜かしてしまった。その情けない姿とは対照的に、オイラの前に立ちはだかる男は堂々とした様子でこちらを見下ろしている。
「お前さん……人間じゃないね」
(……見破られた!?)
訝し気な表情も相まって、その言葉に度肝を抜かれた。もしオイラの正体が人間にバレてしまったら、二度と猿には戻れない。だから何としてでも誤魔化し通す必要がある。そう思い、ブンブン首を横に振る。
「誤魔化したって無駄さ」
男はそう言い切り、オイラの必死な様を薄ら笑いで眺めていた。
「ち、違うウキ! オイラはれっきとした人間ウキよ!」
「むむっ……! その口調、もしや―…」
この男、かなりの切れ者らしい。オイラの山の手言葉から何かを悟った様子だった。マズい、本当にマズい――続く台詞で運命が決まる。「人生」ならぬ「猿生」の分岐点に立たされたオイラは半ば祈るような気持ちで耳を塞ぎ、そして目を閉じた――。




