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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第四章 リトゥ・ツィネ・アール帝国編
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第五十八話 姫のお茶会

 





 本日午後三時に中庭にて、お茶会を開きます。


 昨夜の意味を知りたければ、可愛らしい婚約者さんと共に来てくださいね。






 上記のことが書かれた手紙を持ってきた五郎の顔は、間違いなく渋かった。


 その後ろに立っている二郎とルークも同じ顔をしている。



 そして、私と一緒に寝ていた桐生に至っては、それに加えて不機嫌だ。




「色々と言いたいことはあるが、まずは、昨夜の事とはなんだ?」




 あの馬鹿王子に手首にヒビを入れられたせいで、夜会は強制退場してしまったのだ。


 だから、その後に起こった出来事については知らない。




「お前が居なくなった後、帝王に紹介された若い方の女と話す機会があったんだ。

 そこで、帝王とあの馬鹿王子を殺さないかと誘われたんだ」



「殺人教唆か。

 王族とか家族間の関係がドロドロしてそうだからな」




 完全に独断と偏見と思い込みだが、五郎にそんなことを言ってくるような奴がいるので、そう正解から遠くないだろう。




「俺を殺人に誘ってきた理由は気になるが、そんなものに華雪を付き合わせる訳にはいかない。

 それに、調査をしないといけないからな」



「確かにそうだな。

 だが、王族直々のお誘いを拒否するのも、面倒なことを巻き起こしそうだ」




 昨夜に紹介された奴らからは、大なかれ少なかれ嫌な感じを覚えた。


 だからこそ、屍鏡に素性調査を頼んだのだ。



 そんな奴の誘いを断って、不利益になることはないだろうか?




「華雪ちゃんのいう事も一理あるわ。

 調査は私達三人でするから、一緒に行くといいわ」



「行かなくてもいい気がするが、行かないといけない気もする。

 ・・・・・・悪いが、頼んだ」



「華雪さんが謝ることはありません。

 その男も最近は力をつけてきましたので、ただの人間相手なら問題ないでしょう。


 華雪さんは怪我をされていますので、今日一日は彼に全てを任せておけばいいですよ」



「二郎がかなり頑張って交渉術とか仕込んでいたからね。

 そっちの方面でも頼りになると思うよ」




 二郎とルークの後押しに、私は行く決意を固めた。


 物凄く気が進まないが、五郎と一緒ならどんなところでも楽しくなる。




「エスコートを任せてもいいか?五郎」



「喜んで。

 華雪をエスコートするために頑張って覚えたんだからな」




 五郎は私の前に跪き、恭しく怪我してない方の手を取り、唇を落とした。


 あまりこういうことをしないので、私は思わず見惚れてしまった。






 彼はフッと笑い、今度はそれぞれの指先に唇を落とす。


 慈しむようなその行為を止めることはできないが、代わりに顔を赤くすることも止められない。




「イチャイチャするなら、他の場所にしてよね」



「華雪さん、私達はそろそろ行ってきますので、何かありましたらツヴァイ通じてお申し付けください」




 二郎も五郎に対抗したのか、彼を退かせると同じように行動した。



 同じ顔なのに、二郎がすると違和感がない。


 雰囲気の問題なのか、何故か自然に見えてしまうのだ。



 折角、私の手の届く範囲に頭があったので、撫ででおいた。




「華雪、ボクもボクも!」




 ルークは頭だけを差し出してきた。


 断る理由もないので、普通に撫でる。




「そこの華雪ちゃんに甘えている人外二人、さっさと行くわよ」




 渋々と動き始める二人を引きずる勢いで、桐生は部屋を後にした。
















 それからゆっくりと支度したりして、約束の三時になった。



 昨夜と同じようにドレスに身を包み、指定された場所に向かう。






 中庭と名付けられたそこは庭園になっており、色とりどりの花が咲き、自然のいい香りが鼻孔をくすぐる。


 視覚と嗅覚を楽しませてくれる場所の中央に、件の姫君がいた。



 その前にはテーブルが置かれており、三人分のカップと軽食の類が並べられている。




「本日は私のお茶会にようこそ。

 歓迎いたしますわ、五郎様、華雪様」



「お招きいただき、ありがとうございます」




 表面上こそ和やかにお茶会が始まった。



 メイドなどにお茶の準備をさせるのが一般的だが、彼女は自分で用意している。


 カップに赤色の液体が注がれ、花とは別のフルーティーな香りが漂った。




「どうぞ召し上がれ。

 帝国産のフルーツティーです。


 お好みで花の砂糖菓子を入れてみてください。

 また違う味わいになって美味しいですよ」




 置かれたカップを手に取り、まずは香りを楽しむ。


 それから、カップを傾け―――――。






 ガッシャ―――――ン!!



 私の手からカップが弾き飛ばされた。



 やったのは五郎だ。






 憤怒の形相を浮かべた彼は、その表情に見合う低い声で、姫君に問いかける。




「華雪の飲み物に毒を盛るなんて、どういう了見だ」



「お気づきになったのですね。

 昨夜は気づかなかったようだったので、今日も気づかないかと思いましたわ」




 コロコロと笑う彼女は一般人には可愛らしく見えるだろう。


 しかし、私には狂ったようにしか見えなかった。






 五郎も同じような気持ち悪さを感じたのだろう。



 刀を抜き、姫君の首筋に当てた。



 いきなり殺さないのは、まだ聞くべきことがあるからだろう。




「理由を言え。

 そうしたら、楽に殺してやる」



「まぁ、怖いわ。

 婚約者さんに血を見せるおつもりですか?」



「できるだけ見せたくないが、躊躇して華雪が傷つくぐらいなら殺す」




 冷え冷えした空気が場を支配した。



 昔と比べても遜色のない殺気に、懐かしさと戸惑いが混ぜ合わさって、何とも言えない気持ちになる。




「本当に愛していらっしやいますのね、婚約者さんのことを」



「当たり前だろ。

 俺は彼女以外を愛しいと思ったことはないぜ」




 カタカタと五郎の刀が震える。


 首筋に軽く触れているのか、女の白い首筋から血を一筋垂れた。



 しかし、彼女は顔色を変えない。




「お話するので、刀を降ろしていただけませんか。

 このようなものを突き付けられていては恐ろしくて、口が上手く回りませんわ」



「その割にペラペラ喋っていたけどな。


 まぁ、いい。

 刀を納めてやるが、妙な真似をしたら、今度こそお前の首を斬り飛ばす」




 五郎はひとまず刀をしまい、話を聞くようだ。



 落ち着いて席に座れば、彼は先ほどとは様変わりし、心配そうな顔をして私を見た。




「火傷してないか!?

 咄嗟に飛ばしてしまったから、そこまで丁寧にできなかったんだ」



「してない。

 お茶も飲むフリをするつもりだったから、毒も飲んでない」




 そう言えば、彼はほっとしたようだ。


 心底良かったという顔をし、ギュッと抱きしめてきた。




「お前を守ると豪語したのに、早速破ったかと思った」



「そんなもの、あいつらの冗談だから気にしなくていいんだぞ。

 私だって自分の身ぐらいは守れるんだし」




 日々訓練をしているおかげで、亀の足のような速度で成長していた。


 めちゃくちゃ頑張って工夫すれば、人間を殺すことも不可能ではないこともない。




「片手にヒビ入っている時ぐらい、大人しく守られていてくれ。

 今日だけでいいから、な?」



「む、むぅ。

 五郎がそういうなら・・・・・・」




 本当にヤバくなったら手を出せばいいんだし・・・・・・。


 彼のやりたいことは基本的に何でもさせてあげたい。



 そのような思いから、今回は首を縦に振った。




「お話してよろしいかしら」



「早くしろ」




 あまりの変わり身の早さに、流石の姫君も顔を引きつらせている。



 気を取り直したようにゴホンと咳払いをし、彼女は再びニコリと微笑んだ。




「昨夜、五郎様にはお話しましたが、私は帝王と長男のセンドを殺してもらいたいのですわ」



「理由は?

 国家転覆でも企んでいるのか?」




 飲み物に口をつけずに、五郎は間髪入れずに聞き返した。




「半分はそうだとも言えるかもしれませんね。

 最終的には私が王座に座りますので」



「私利私欲のために他人に殺人を犯させるような奴が、上に立つなんて、ゾッとする話だな」



「私利私欲・・・・・・。

 そう取られても仕方ありませんね。


 ですが、帝国の民が生き残るにはこれしかないのです」



「どういうことだ」




 私もちょっと気になってきた。


 ここまで言い切るのなら、ただのお家騒動では片付かなそうだ。




「最初からお話しましょう」




 彼女は紅茶に花の砂糖菓子を入れ、それを飲み下した。


 それから、ゆっくりと話し始める。




「時に五郎様、華雪様、異世界から来られた貴方方は、この世界で禁じられていることは知っていますか?」




 私達が異世界から来たのは、帝王にでも聞いているのだろう。


 特に驚きもせずに、彼女の問いに答えた。




「国ならともかく、世界になると知らないな」



「華雪が知らないことを俺が知っている訳ないだろう」



「お二人とも知らないのですね。

 正解は死者蘇生と神の創造です」




 これは驚いた。


 どちらも私がしたことあることではないか。



 この世界でやっていたならば、ダブルでアウトだったな。






 下らないことを考えていれば、五郎が心配そうに私を見てくる。


 前に話したことを思い出して、気にしているのだろう。



 本当に私に甘すぎる奴だ。






 大丈夫だと示すために、彼の腕を軽く叩けば、頷いて姫君の方に向き直った。




「神の創造はともかく、死者蘇生はそこまで悪いことか?

 誰にでも大切な人ともう一度会いたいと思ったことぐらいあるだろ」



「五郎様。

 死者蘇生には莫大な犠牲が必要なのですわ。

 神の創造もまたしかり」



「その言い方だと、まるで誰かやったことがあるみたいだな」




 結構色々と魔法書や歴史書を読み漁ったが、そんなものを読んだ記憶はなかった。


 勿論、屍鏡の所の蔵書を全部読んだわけではないので、読んでない中にあったのかもしれないが、目ぼしいものは読み終えているはずだ。






 書物に残せない程の悲劇でも起こったのだろうか?


 だとするならば、何故彼女は知っているような口ぶりなのだろうか?




「華雪様のおっしゃる通り、その馬鹿げたことをした方がいましたわ。

 それがこの帝国の前の国であった、オプファー・ジ・リーベ帝国の最初の帝王にして最後の帝王ですの」



「お前らはその帝国の血を引いていて、口伝でそのことが伝わっているということか」



「大当たりです、華雪様。

 その方は神を創造し、それを生贄に最愛の人を生き返らせようとしたのですわ」




 それなら書物に残ってないことも納得できる。


 帝国程の力があるのならば、仮に本にされたとしても破棄させることぐらい簡単だ。




「結果は?

 どうせ周りを巻き込んで成功しなかったのだろうが」




 そんな簡単に死者蘇生ができるのならば、私があんなに必死になって狂った知識を頭に叩き込まなくても良かった。


 犠牲だけで人が生き返るのなら、私なぞ三日でお役御免だ。



 そうではなかったから、あの場所に長くいたのに。






 姫君は一つ頷き、話を続ける。




「その通りですわ。

 だからこそ、前の帝国は滅び、今の帝国が生まれましたの」



「あの帝王と馬鹿王子がその禁術を研究しているってことか?」




 今までの話を五郎なりに頭の中で纏めたらしい。



 私もそう考えていた。


 でなければ、こんな話をわざわざするわけがない。




「禁術を研究しているのは帝王だけですわ。

 愚兄は彼に任せれば、政治ができないので滅ぶと予想しただけですわ」



「それは昨日の華雪にした仕打ちを見ていれば分かる」




 私もそれは分かる気がする。



 人前で一応国賓である私の手首を折ろうとするような奴だ。


 政治とかいう、まどろっこしいものとは無縁の存在なのだろう。




「昨夜はあの馬鹿のせいで怪我をさせてごめんなさいね、華雪様。

 まさか、あそこまで馬鹿とは思いませんでしたの」



「構わない。

 私も折られてもいいと思ってろくに抵抗しなかったからな」



「そこは折られたら困ると思って、抵抗して欲しい所だったけどな」




 自分が折られたかのように苦痛に顔を歪める。




「まぁ、治るならいいじゃないか。


 で、帝王は神を創りたいのか?

 それとも、誰か生き返らせたいのか・・・・・・」



「後者ですわ。

 夜な夜な死者蘇生を試みているようですが、誰を蘇らせたいのかも知らないのです」



「どこで行われているんだ?」




 真偽のほどはともかく、どんな些細なものでもいいから情報が欲しい。


 その後で精査して、使えるものだけを繋ぎ合わせればいい。




「分かりませんわ」



「なんだと?

 じゃあ、何故お前が帝王のが死者蘇生を試みていることを知っているんだ?」




 五郎は疑わしそうに彼女を見た。




「それは、彼本人から話されたからですわ」



「はぁ?帝王本人が話した!?」




 訳が分からない。



 彼女の言う通りだとすれば、自分が大罪を犯していることを告白しているということだ。


 そんなことしても、帝王側にメリットはない。




「どうして帝王はお前に話したんだ?」



「分かりませんわ。


 ただ、これだけは言えますの。

 帝国は滅びへの道をひた走っていると」




 首に刀を突きつけられた時にも恐怖の色など見えなかった彼女が、初めて普通の人間のように体を震わせる。


 自分が死ぬことよりも帝国が滅びることが怖い、ただの女がそこにはいた。




「話は分かった」



「ではっ!」



「だが、俺が殺すかどうかは別の話だ。


 俺の中心は華雪で、死者が蘇ろうが、その代償が帝国であろうが関係ない。

 そうなる前に屍鏡の国に帰ればいいだけの話だ」




 彼の考えは正しい。



 関係ないといいきれる国のために命を張ることができるなんて、英雄症候群にかかっている脳みそお花畑の勇者一行ぐらいだ。


 後は、哀れで可憐なお姫様を助けたい奇特な人物か。






 生憎、五郎はどちらでもない。



 冷たい人間ではないし、大切なものになら命を賭けられるが、どうでもいいものにまでそこまでの熱意は見

 せられない。


 そして、この国は彼の中ではどうでもいい部類だ。




「そん、な・・・・・・。

 貴男なら、貴男ならっ、他の方達とは違って、この国を、帝国を救って下さると、思っていたのにっ!!」



「その根拠がどこからきているか知らないが、俺はお前らなんぞどうでもいい。


 ・・・・・・時間の無駄だったな、華雪。

 お前を危険に晒して得た情報がこれだけじゃ、二郎達に怒られる」



「い、いや、私は別に問題ない」




 ただ、今にも死にそうな、顔面蒼白の姫君が気になっただけだ。






 魂が抜けたような女に目もくれずに、五郎は席を立つ。


 そして、私を軽々と抱き上げると中庭を後にした。






 強引に切り上げる形となってしまったが、それでいいと後から桐生達に言われるし、ずっと五郎に抱きしめられていたらどうでも良くなってしまった。



 こうして、後味の悪いお茶会は幕を閉じた。






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