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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第四章 リトゥ・ツィネ・アール帝国編
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第五十六話 夜会~準備~

 





 朝起きたら、桐生が隣ですやすやと寝ていた。


 酒の香りがするが、顔色は悪くないので、ストレスは発散されているようだ。



 体を起こせば、貧血でくらりと世界が回る。




「結構、飲まれたな」




 首筋に手を置けば、吸血鬼映画の被害者と同じ跡がくっきりついている。



 その気になれば傷痕を残さずに治せるのに、毎回、薄く皮が張る程度にしか治さないのは、二郎なりのポリシーなのだろうか?



 自分では見えないが生々しいであろうそれに、ため息をついて、傷口を体の中に埋めた。






 人間やめた時に一番初めに取得した技能だが、中々便利で重宝している。


 傷が治るわけではないので痛いものは痛いが、心配性な周りを誤魔化すのには丁度いい。



 魔力を使わないのも魅力的だ。






「華雪、起きてるか?」




 手探りで首の傷を隠し終わると、外から五郎に呼び掛けられる。


 桐生が寝ているので、彼女のベッドの周りに消音結界を張り、扉の近くまで行って返事をした。




「起きてるぞ」



「体、大丈夫か?

 二郎の奴に飲まれていたみたいだが」



「あー。慣れてるから、日常生活に支障はない」



「お前、もう少し二郎達に警戒心を持て」




 呆れたような声に、私は苦笑した。




「そうよー。男はみんな狼なんだからー」




 寝起きで間延びした話し方をする桐生が、ベッドの上で延びをしている。


 ふぁあ、と欠伸する彼女は、山口を入れていいわよ、と許可をしてくれた。



 私は扉を開け、五郎を招き入れた。




「よう。二日酔いとかはないのかよ」



「どれだけ飲んでも、次の日にすっきり起きれるのが、私の特技の一つよ」



「無駄の極みな特技だな。

 とりあえず、二人ともおはよう」




 彼の礼儀正しい朝の挨拶に、それぞれ、おはようと返す。




「私達に何か用でもあったのか?

 朝御飯にはまだちょっと早いと思うんだが」



「華雪が貧血で困ってないかと思って来たんだ。

 ついでに二日酔いしている桐生を笑ってやろうとも思ったんだがな」



「残念でした。

 ご覧の通り、ピンピンしているわよ」




 早朝から仲のいい桐生と五郎は、私を挟んで楽しそうだ。



 今日はいい一日になりそうだと予感していれば、ガチャリと扉が開き、二郎とルークが入ってきた。




「女の子が寝ている部屋に勝手に入ってくるのは、感心しないわよ、二郎、ルーク」



「起きているって知ってましたから」



「みんなでいたほうが安全だよ。

 今、帝国には人をバリバリ食べちゃう、飢えた殺人鬼がいるんだから」




 怖いこわい、とわざとらしく身震いするルークに、私以外が冷たい視線を送る。



 その殺人鬼なんかよりも恐ろしいルークが、そんなことを言っても滑稽なだけなのだろう。






 何事にも例外はあるが、こそこそと人間を夜な夜な襲うような奴が、ルークよりも強いということはないだろう。


 それだけの力があれば、堂々と姿を現し、手当たり次第に国を襲えばいいだけの話だ。



 それをしないということは、力がないということだ。




「飢えた殺人鬼なんかよりも、いたいけな華雪ちゃんを襲った奴の方が怖いわ」



「それもそうだな。

 この柔肌に牙を突き立てる獣のほうが怖いな」



「同意の上なので。

 それに、絶食は流石にキツいですよ」




 あははっと和やかな会話をしていれば、今度は扉をノックされる。



 帝国内に他に友人はいないはずなので、ノックしたのは城の関係者のはずだ。






 どうぞ、と入室を促せば、メイドが入ってくる。


 彼女は頭を下げて、朝早くすみません、と言ってきた。




「帝王様からの伝言です。

 今夜、夜会を開くので、それまでに準備をしておけと」



「夜会だと?

 こんな事件が起こっている最中に?」




 不謹慎だと怒っている訳ではない。


 が、人が忙しい時に仕事を増やすな、とは思う。



 拒否権はないらしく、伝えるだけ伝えたメイドは出ていってしまう。




「夜会、ねぇ。

 急に言われてもドレスやタキシードなんて手に入らないわよ」



「どうせ、上の奴等が準備できない私を見て、嘲笑うための会だろ」




 昔、医者をやっていた時に、こんなことが嫌というほどあったので、ゲンナリとする。






 私の服は、見た目がこれなので、公の場に出るときはオーダーメイドのものを着ていた。


 子供に合わせたものだと可愛らしすぎて似合わないし、大人のものは悔しいことに背丈が合わない。





 今からじゃ、どう考えても間に合わないという事実に、頭を抱えた。



 最悪、高校の制服でどうにかするか、と悩んでいると、二郎がドレスならありますよ、と言ってくる。




「え?」



「華雪さんのドレスならありますって。

 私達のタキシードもありますし、ないのは桐生さんの分だけですね」



「どうして私だけ仲間外れなのよ」




 いや、それ以前にどうして私のドレスがあるのかが、不思議だ。


 二郎達の分があるのは、理由まで予想がついているのでいいとして、私のものまである理由が皆目検討つかない。



 彼はにっこりと、いつもの笑みを浮かべ、




「華雪さんに着てほしい服を、暇を見つけては作っていますので」



「うわっ。

 自分の作ったもので囲いたいっていう男の欲は、汚すぎて引くわ」



「だって、自分の作ったもので形作られ、その身を包んでいると思うとゾクゾクしません?」




 そう言い切った次の瞬間には、二郎の姿は消えていた。


 さっきまで彼が立っていた所に、鎖と銃弾、投げナイフまで突き刺さっていた。



 敵襲かと思って身構えたが、やったのは二郎と私以外の三人だ。




「華雪ちゃん、そんなド変態の近くにいると汚されちゃうわよ!」



「そうだぞ、華雪!

 お前はもう少し危機感ってものを持たないと、頭からパックリいかれるからな!!」



「それは五郎もだよね。

 というか、二郎を犯人に仕立て上げて殺した方が早くない?」



「全く、当たったら痛いじゃ済まないですよ」




 こいつらの小競り合いを挟まないと会話ができない癖は、帝国という異国でも安定して発動するらしい。


 暇な時はそれなりに楽しめるのだが、今は少し時間がない。



 手をパンパンと叩いて、小競り合い終了の合図を出した。




「はいはい。それまで。

 桐生以外の正装はあるということでいいんだな、二郎」



「その通りです」



「なら、ちゃっちゃと桐生のドレスと装飾品を買って、夜会のマナーについて勉強するぞ。

 やることは多いんだから、時間をあまり無駄にしないように」



「華雪ちゃんがそう言うなら、そうするわ。

 とにもかくにも、買い物をしないとね」




 遊んでいる暇はないということを汲んでくれて、それぞれ行動を開始してくれる。



 朝飯は二郎が用意してくれ、それを食べてから、町へと足を進めた。
















 活気は屍鏡の町には負けてなかった。


 怪奇事件が多発しているはずなのに、顔が暗いということもない。



 それも気になったが、それよりも道行く人の貧富の差が激しいのと、鎖をつけて歩かされている奴が気になった。






 あれがお約束の奴隷というものだろうか?



 鎖をつけて歩かされている人間は、皆一様に眼に絶望が浮かんでいる。


 全てに絶望し、されるがままの、動く人形のようなそれら。






 私は見慣れてしまったから平然としていたが、五郎は不愉快そうに顔を歪めた。




「ああいうのは俺には理解できないな」



「えー?

 男って奴隷ものが好きなんじゃないの!?

 嫌って言えない子に色々するのが、いいんでしょ?」



「俺は両想いのラブイチャものにしか興味がないんでな。

 なぁ、華雪」




 私に話を振るな。



 五郎とは真逆に、二郎やルークは興味深々だ。




「奴隷、ですか。

 お金を積めば好きなものが手には入るのは魅力的ですね」



「ボクみたいなのにとっては、人間を所有するのは珍しい話じゃないけど、人間が人間を所有するのは、何とも滑稽な話だね」



「欲しいなら、二人で行ってきてもいいが?」




 私には必要ないが、彼らには必要なのかもしれない。






 殺して楽しんでも良し、美味しく食べても良し、愛でても良し、なのが人間だ。


 どこからか浚ってきてもいいが、この厳戒態勢の中、人をどうこうするのは難しい。






 特に二郎はご飯として人間が必要だ。


 私があげると言ったが、それだけでは足りないかもしれないし、他の味も飲みたくなるだろう。



 一番好きなのは白米だけど、たまにはパンも食べたくなるよね、というあれだ。






 私の提案に、しかし、二郎達は首を横に振る。




「いえ。特に人間を連れてなくても困りませんし」



「女の子が欲しくなれば、簡単に釣ることもできるしね」



「お前らなら、入れ食い状態だもんな」




 お金を掛けなくても、それなりのグレードの女の子が、彼らは釣れる。


 私が男だったら、イケメン爆発しろと思っていたが、女なので、余計なトラブルを持ってくる顔面には同情しかない。




「黙っていれば、顔だけはいいからね、二郎達は」



「その言葉、そっくりそのまま返しますよ、桐生さん」



「あっ、ここだな。

 高級店だから、目立っていいな」




 本日二度目のバチバチに、仲裁するのも面倒になり、店についたこともあってスルーした。



 五郎に連れていってもらったのと同じぐらい高級感を演出している店は、何回行っても慣れるものではないし、こんな堅苦しい所に慣れたくもない。






 店内に入れば、ドレスが所狭しと吊るされていた。



 桐生は店員に絡まれるよりも早く、適当にドレスを手に取り、そして決めてしまった。




「これにするわ」



「え?ちゃんと考えた方がいいぞ?

 確かに桐生は綺麗だから、何を着ても似合うけど、もっと似合うのがあるかもしれないじゃないか」



「っ!本当に華雪ちゃんは上手ね!!


 じゃあ、華雪ちゃんが選んでくれないかしら。

 センスいいし、私は華雪ちゃんが選んでくれたものが着たいわ」




 顔を赤くして、もじもじとする桐生に、私は悩む。



 即決したにしては悪くないチョイスなのに、口を挟んでしまったのが、悪かったかもしれない。


 だが、折角買うなら、彼女に一番似合う良いものを選んでほしいのも事実だ。






 桐生は私がセンスがいいと言っていたが、正直、自分のセンスに自信はない。



 二郎達も何かというと、私に物を選ばせたがるが、絶対に彼らのセンスのほうがいい。


 それはこまめに渡されてたプレゼントに、如実に表れていた。






 しかし、華雪ちゃんお願い、と可愛らしくお願いしてくる桐生に、断るという選択肢はなかった。




「が、頑張って選んでみるが、趣味に合わないようなら言うんだぞ」



「分かったわ」




 色とりどりの布の間を掻き分けるように進む。



 足を露出するようなドレスはここでは好まれてないらしく、ロングドレスしかない。






 桐生はスタイルがいいから、マーメイドラインのドレスが似合うだろう。



 種類が決まれば、サイズを合わせ、色と多少の装飾で更に吟味をしていく。






 最終的に店員に表には出てない在庫まで引っ張り出してもらい、私的に最高の一着を決めた。



 彼女に試着してもらい、着心地を確かめてもらう。


 試着室から出てきた彼女は、月並みな表現だが、まるで女神のように美しかった。




「私がいうのもあれだが、とても似合ってる」



「うふふ。このドレス、とても嬉しいわ。

 大切にするね、華雪ちゃん」




 孔雀緑色のドレスに身を包んだ桐生は、彼女を見慣れている五郎達も、感嘆のため息を出すほどだ。




「本当に顔だけはいいな」



「マーメイドラインのドレスなんて、余程体つきに自信がないと着れないものですが、桐生さんなら問題ないですね」



「これで中身がまともなら、是非とも一夜の相手をお願いしたいんだけどねぇ」



「貴方達は綺麗に着飾った女一人を満足に誉められないのかしら。

 そんなのだから、好きな女を口説けずにグズグズするのよ」




 両腰に手を当てて怒る桐生に、苦笑して顔を見合わせる三人が面白過ぎて、こっそりと笑ってしまった。


 まるで、奥様と従者の図みたいで、面白かったのだ。




「痛いところを突きますね」



「口説いても気づいてくれないだけだし。

 他の女なら目を合わせただけで、イチコロだっていうのに!」




 それは魔術を使っただけだろ。



 怖いのでツッコミは心の中だけで入れておく。




「ふんっ。男なら、当たって砕けるぐらいしなさい!


 あっ、これお会計で」




 大人数で騒いでいるから、悪目立ちしてしまっている。


 桐生が綺麗なのが、それを助長させた。






 苦情を言うために近づいてきた店員に、桐生は会計を頼み、お店からのお小言を回避した。



 お金は何故か二郎が払い、夜会という名の戦場に行くための、戦装束を整える。






 後は、夜会までの間にマナーを叩き込み、準備をしておくだけだ。



 面倒事の塊でしかない夜会に、行かなければならない不幸に襲われたと思ったが、桐生の綺麗な姿を見れるなら、悪くないなとも思ってしまった。






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