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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第四章 リトゥ・ツィネ・アール帝国編
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第五十三話 帝国への誘い

 





「それで、そのフェアローバンドをプレゼントされたってことなのね」



「朱音からの入れ知恵のせいでな。

 せめて半額払おうとしたが、受け取ってもらえなかった」




 今、お城の中庭で私と朱音は一緒にアフタヌーンティーを楽しんでいた。



 最近はぎこちなさもなくなり、昔のように接することができている。


 それでもまだ、彼女には遠慮していると怒られるが、時間が更に経てばもっと自然になるだろう。






 五郎は二郎と共に訓練へ、屍鏡と白と桐生は楽しい書類仕事だ。



 ルークはちょくちょくどこかへ行っている。


 多分、新しい趣味でも見つけたのだろう。



 私の周りが平和なら、よそで何をしてきても構わない。



 今のところ怪我をしている様子も疲れているようなそぶりもないので、特に何をしているか聞いてなかった。




「あはは。それは無理じゃないかな。

 五郎さんにも面子ってものがあるからね」



「むぅ。まぁ、いい。

 必要になったときに返せるように取っておくか」




 膝の上のツヴァイをモフモフ可愛がりながら、二郎が用意してくれたハーブティーを飲んだ。




「フェアローバンドを受け取ったってことは、五郎さんとの仲は一歩前進したね」



「そんなことはないが、朱音は恋愛話が好きだな」




 病院というある種の箱庭で生きていたせいか、朱音はこういう人の色恋沙汰がとても好きらしい。


 というか、私と五郎に対する恋バナに食いついてくる。



 それは普段の可憐な彼女から予想ができないほどで、腹をすかせたピラニアのように迫ってきて、一度食いついたら離れないのだ。






 朱音が楽しそうならそれでいいと、ものによっては話している。


その度に自分のことのように喜ぶから、話さないという選択肢がなくなるのだ。




「先生と五郎さんが気になるだけ。他の人の恋愛話はあまり興味ないもの。

 というか、他の人達はあまり恋愛してないしね」




 確かに、と私は頷く。



 屍鏡が異性に興味を持ったところなんて見たことないし、桐生は男嫌いで知己の男以外は話すのも嫌だと言っている。


 だからといって、同性は愛でるだけの対象らしく、そっちでも話は聞いたことがない。



 色々聞いてくる朱音本人は、そういうのは今はいいと断言している。






 人ではない組にも話を聞いたが、白はそういう感性はないと本人から昔言われたし、二郎とルークはどこの誰だか知らないがずっと恋をしているらしい。


 未だにその相手が全く振り向いてくれないらしく、毎晩枕を涙で濡らしているとか何とか。



 まぁ、あの二人のことだからどこまでが本音か分からないが。






 しかし、こうして改めて考えると恋しているのが二人だけになってしまう。


 朱音が私に話をせびるのは必然だ。




「だからといって期待されても、私と彼の距離は変わってないぞ。

 むしろ遠ざかっているぐらいだ。


 あいつは訓練で忙しいし、私も私で忙しい。

 みんなで食べるご飯の時以外は、最近はあまり会わないな」




 実は、あの決闘から私と彼がいる時間は減っていた。


 何かに憑りつかれるように訓練に没頭し、それ以外にも魔法関連の本を片っ端から読み漁っている姿をよく見る。



 時折心配になってこっそり見に行っているが、彼本人に大丈夫だと言われ追い返される日々だ。



 夜は疲れたと言って、私のベッドに潜り込んですぐに寝てしまう。


 自分の部屋の方が訓練所からも図書室からも近いのに、わざわざ私の部屋にまで寝るのだ。






 腕の中に私がいないと安眠できないと疲れ切った顔で言われたので、追い返すこともせず一緒のベッドで眠っている。


 私としても彼と一緒に寝ると気持ちよく寝れるので、容認していた。



 実際、朝の目覚めは快適な上、普段よりも長く睡眠がとれるので助かってはいる。



 朝起きると、額にキスされてそのまま朝訓練に行ってしまいその後は三食のご飯の時以外会わない。






 久しぶりにちゃんと顔を見たのは、昨日ぐらいで、だからこそゆっくりしていて欲しかったのだが、押しきられてしまった。



 そのことをありのままに話すと、朱音は微妙な顔をする。 




「五郎さん、無理し過ぎてない?」



「やっぱり、そう思うよな。

 何に触発されたか知らないが、もっと休息をとらないと倒れそうだよな?」




 昨日こっそりと観察したが、体調は崩してないものの、若さで無理をしているようには見えた。




「うーん。男の意地やプライドっていうのがあるから、何とも言えないけど・・・・・・。


 それにしてもちょっと無理し過ぎかな。

 先生をこんなに心配させるなんて本末転倒だし。


 気持ちは分からなくもないんだけどね」




 朱音はどういう意図で五郎が動いているか分かるようだ。


 それが少しだけ羨ましい。



 どれだけ心理学に精通していても、大切な人の心境の一つも読めないようでは意味がない。






 情けないと頭を落とし、ため息をついた。




「無理はしてほしくないんだけどな。

 二郎達に男にはやるべき時があるからと言われて止められているんだ」



「とりあえず、しばらくは大丈夫だと思うよ。

 本当に駄目になったら、誰かしらどうにかしてくれるだろうし。


 何でも先生が心配しなくてもいいんだよ」




 朱音もこう言っていることだし、と自分を納得させて、彼女の言葉に大人しく頷いておいた。
















 和やかなお茶会はその後も続いたが、とある闖入者のせいで突然ぶち壊された。




「おう。楽しそうじゃねぇか。俺様も混ぜてくれ」




 現れたのはいつぞやの筋肉ダルマだ。


 その後ろには同じようなマッチョが何人かぞろぞろとついている。



 屍鏡に聞いた話だが、この男はどこぞの帝国の王をしているらしい。


 ふてぶてし過ぎる態度を取る謎が解けた。






 仮にも一国の王を邪険に扱えるわけがないので、どうぞと空いている席を勧めた。



 大きめなテーブルには六人分の席があり、私と朱音は隣同士で座っている。



 男は遠慮することなく私の隣に座ると、ジロジロと私を見てきた。




「女性の顔を凝視するのはマナー違反ではありませんか?」



「素顔見たのは初めてだからな。案外いい顔してるじゃねぇか。

 そんなに畏まった口調じゃなくていいぞ。


 あの時のように気軽に接してくれ、挑戦者A。


 お前はもうすぐ俺の正室になるんだからな。そんな奴に無礼打ちをするような奴なんかいない」




 勇者とは違った意味で、彼の脳みそもまたお花畑のようだ。



 しかし、厄介さはあんなのよりも数倍上だ。


 どういう訳か、私があの挑戦者Aだと断定している。






 あの時は様々な隠蔽魔法を掛けていたので、並大抵のことでは見破ることはできない。


 そのはずだが、彼には確信できるだけの何かがあるのだろう。



 頭は残念だが、侮れない。






 証拠はないと思われるので、すんなりと認めることはしない。



 彼の気のせいの一点張りで通させてもらう。




「挑戦者A?誰です?それ。

 私の名前はそんなんじゃないですが」



「素直に認める訳がないか。

 ますます俺様好みだぜ」




 会話のキャッチボールが成立しない。


 典型的な我が道を行く相手に、そんなものを求めること自体間違いだった。






 出会って数秒で相手をすることに疲れた私は、冷めかけの紅茶を飲み干す。


 そして、新しい紅茶を足すことはなく、「お茶が無くなったので、そろそろお茶会はお開きにします」と宣言する。



 穏便に彼と離れるための口実だ。


 それは朱音も筋肉ダルマも承知していて、それぞれ違う種類の笑みを顔に浮かべている。




「そうだね、先生。私もそろそろ仕事に戻らなきゃいけないよ」



「というわけで、お引き取り願えますか?帝王殿。

 他に大事なお話もなさそうですし」




 休日の朱音も話に合わせて、急がなければいけないような雰囲気を出している。



 素直な子だが、こういう時に空気を読める融通も持ち合わせているのだ。




「大事な話ならあるぜ。お前、俺様の国に来い」




 ないわー。と動きたくなる口を押えて、にっこりと微笑む。




「大変光栄な申し出ですが、私はここの国に骨を埋める覚悟です。

 ですので、帝王様の国には行けません。


 他の人をお誘いください」



「そうか。

 なら、強制的にだな」




 彼は私に手紙を差し出してくる。


 言葉からして嫌な予感しかしてなかったが、それを受け取り中身を見る。






 紙には格式ばった文章で、私を謎の連続殺人犯の重要参考人として帝国に来いということが書かれていた。



 それを見た朱音はどういうこと、と筋肉ダルマに食って掛かる。


 その間に私はじっくりとその手紙を読む。




「そこに書いてある通りだ。


 俺様の国では今、謎の連続殺人が起こっていて、その重要参考人がそいつなんだよ。

 犠牲者の中にはそこそこやる奴もいてな。


 そんな奴を襲えるのは一部の奴ら・・・・・・実力的に言えば、勇者をぶっ飛ばせるぐらいの力量がある奴だったんだよ。


 だから、実際に勇者をぶっ飛ばした奴に話を聞こうと思ってな」



「そんなの理由にならない!

 彼女はずっとここにいたの!!帝王まで行って人を殺している暇なんかなかった!!」




 ギリギリと帝王を睨み付ける朱音は、いつものふんわりとした雰囲気はかなぐり捨てていた。


 こんなに怒っている彼女は見たことがない。




「何、俺も証拠もないのにいきなり牢に放り込んだりはしないさ。

 これは各国にも通達してあるから、そんな横暴なことはできないからな。


 ただ、取り調べは俺様の国でやる。

 だから、来いと言っているんだ」



「なるほど・・・・・・確かに公的な文章のようで」




 改めて見れば、いくつかの諸外国の印が押されている。


 つまり、これは、どこの国でも通じるような公式書だ。



 ただの連続殺人ごときの犯人を捕まえるにしては仰々しいが、これを発行した理由はそんなのではない。






 朱音は、昔のトラウマが蘇っているのだろう。



 私の手をぎゅうと握り、怒りでと恐怖で体を震わせている。


 落ち着かせるために彼女の背を撫でるが、それでも落ち着いてはくれないようだ。




「それで、来るのか?」



「・・・・・・行きましょう。

 その謎の連続殺人事件というのに興味が湧きました」




 筋肉ダルマも諸外国も、本当は連続殺人犯なんてどうでもいい。



 大切なのは急成長をしている屍鏡の国から、勇者を倒せる力を持った私を引き離すことだ。


 そして、自分のものにできれば筋肉ダルマにとってプラスになる。



 諸外国は屍鏡の国の足を引っ張ることができて万々歳というわけだ。






 話の裏が大体読めた私は、あえて彼の誘いに乗ることにした。



 興味などこれっぽっちも湧かなかったが、屍鏡の国への攻撃材料に私がなるのは嫌だ。




「駄目、先生!いかないでっ!!」




 朱音は必死な顔をして私を引き止める。


 その瞳には昔のトラウマが色濃く浮き出ていて、見ているだけで私の胸が苦しくなった。




 だからこそ、私は努めて優しい表情で彼女の頭を撫でる。




「朱音、落ち着け。

 何も一人で行くわけじゃない。


 それに、調査して犯人を見つけたら帰ってくるし」



「やだっ!!いつもそう言っていなくなるじゃん、先生!!」




 腕にしがみ付いて首を横に振る朱音に、私は安心できる材料を提示する。




「何も一人で行くわけじゃない。ルークと二人で行く。


 それなら安心できるだろ?」



「それは別の意味で不安になるよ!


 でも、ルークさんなら先生のことを守ってくれるし・・・・・・。

 私じゃ足手纏いになっちゃうし」



「朱音は足手まといなんかじゃない。

 お前には屍鏡の仕事のお手伝いという大事な役目があるから、連れて行かないだけだ」



「ほう。なら、仕事がない俺達は連れて行ってくれるんだな」




 声が後ろからした。


 そこにはいつの間にか、五郎が立っている。



 彼だけでなく二郎もルークも、果ては書類仕事をしている屍鏡達まで揃い踏みだった。




「行くのは私と二郎、山口とルーク。それと華雪ちゃんよ。

 それでいいわよね、クルト」



「おいおい。お前まで来るのか?災厄の魔女。

 それに得体のしれない男二人も」



「そうよ。文句があるなら、華雪ちゃんを巻き込まないで自分たちの力でどうにかすることね。

 それとも、一対一じゃないと女の一人も口説けないのかしら?


 彼女の旦那は見ているこっちが鳥肌立つほど、見せびらかすように熱烈に口説くわ。

 わざわざ貴方のテリトリーに行ってあげるって言ってるんだから、譲歩しなさい」




 そうじゃなかったら、この話はなかったことにと桐生が言うと、筋肉ダルマはそれでいいとため息をつく。




「だが、桐生にも二郎にも五郎にもそれぞれやることがあるだろ・・・・・・。

 ルークも忙しいなら無理に付き合わせようとは思ってなかったし」




 朱音を納得させるために言ったことだ。


 必ず守るとは言ってない。



 隣で朱音が泣きながらぷっくり膨れているが、最初から私は一人で行くつもりだったのだ。


 誰かを巻き込んだりするつもりはない。




「だと思ってたよ。割り込んで良かった」




 屍鏡は声音だけは、にこやかさを装いながらも、私の後ろに立って、頭を撫でてくる。


 その手つきはいつもよりも乱暴で、怒っていることが伺えた。




「公式の文書を撤回させるのに、悪いけど少し時間をもらうよ。

 すぐに迎えに行くから、待っててね」



「何だ?撤回させる気かよ、仮面王」



「当たり前でしょ。

 実力行使で行かせなくてもいいぐらいだけど、それをやると華雪ちゃんが気にするからしないだけだよ」



 彼らはピリピリとしているが、それ以上に二郎とルークがビリビリしている。




「書類仕事が嫌いなお前ができるのか?」



「僕だってやるときはやるんだよ。


 華雪ちゃん達は僕の国の事なんか忘れて好きにするといいよ。


 これをやったら迷惑がかかるんじゃないかとか考えて行動しなくていいから。

 帝国が更地になっても僕には影響ないしね」




 だから、僕を待ってる間に自分のやりたいようにやってきなよ、と屍鏡は私の背中を押してくれた。


 少し見ない間に本当に立派になったものだ。




「旅行の準備しないとな。

 二郎とルークはそのままでいいとして、俺や桐生は準備がいる。それは華雪もだろ。


 部屋に戻って、二時間後にここに集合な」




 当たり前のようについていくことを決める五郎に、少しは考えろと頭を抱えながら呻く。



 話を聞いていれば、どんな扱いされるか予想できるだろうに。


 それを旅行と言い切る彼は、最近更に神経が図太くなってきた。



 いいことだと言い切れないが、悪いことではない。






 当事者の私達を置いて、サクサクと話が進んでしまう。



 五郎は勝手に宣言すると、私を抱き上げて自分の部屋に戻ってしまった。
















 部屋に戻ると、五郎は自分のベッドに私を降ろし、荷造りをするためにクローゼットをゴソゴソし始める。


 私は準備らしい準備もないので、彼の後ろ姿を見ながらゴロゴロした。




「なあ、分かっていると思うが、ただの旅行じゃないんだぞ?

 お尋ね者になるかどうかの瀬戸際だ。


 それなのに、どうしてそんなに平常心でいられるんだ?」




 どうせ付いてくるなと言っても、絶対についてくるから、そこの無駄な問答は省く。



 それよりも気になったのは、犯罪者扱いをされるというのに平常心でいることだった。


 私はそういうのに慣れているが、一般的な生活を送ってきたはずの五郎が、これだけ落ち着いていると逆に不気味だ。




「屍鏡が好き勝手してきていいって言ったんだ。

 お前に濡れ衣を被せるようなら、あの二人が帝国を更地にするだろ?」



「私が本当に殺しているかもしれないぞ?

 謎ってついているぐらい不明なことが多い事件だ。


 人ではない力を使えば、いくらでも捜査を混乱させることができる」



「華雪がもし人を殺そうとするなら、証拠なんて残さないだろ。

 もっと上手くやる」




 変なところで信用されているのか、今回の件は冤罪だときっぱり言い切る五郎。


 殺すなら証拠を残さないなんて、お墨付きまでもらってしまった。



 本当に私のことを分かってくれているようで嬉しい。




「まぁ、今回のは思いっきり関係ないからな。

 あっちに行ったら、絶対に一人で行動しないこと。


 約束してくれ、五郎」



「お前がふらふらと一人でどこかに行かない限り、俺は一緒にいる。

 俺を一人にしたくなかったら、お前が行動を共にしろ」



「分かった。できる限り、一緒に行動しよう」




 あっちでもよろしくと、私はベッドから起き上がって言った。






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