表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第四章 リトゥ・ツィネ・アール帝国編
71/88

第五十二話 フェアローバンド

 





 当初の目的であった、勇者一行を合法的に学校から放逐できた私達は、学校を辞めることにした。


 先生を勤めていた二郎とルークは、優秀過ぎるために残ってくれと最後まで屍鏡が粘っていたが、二人とも忙しいと断っていた。



 二郎はともかく、ルークは暇じゃないのかと密かに思っていたが、一人で仕事をさせるのは不安要素しかないので、屍鏡も渋々話を引っ込める。
















 そういう訳で、自由に動けるようになった私は、城下町に五郎と遊びに来ていた。



 彼が二郎の修業を耐えに耐えて、手に入れた一日の休みを、私と一緒に出掛けたいと要望されたからだ。


 ゆっくりしている方がいいんじゃないかと言ったのだが、華雪と二人きりで出掛けたいと真剣に訴えられれば、私に断る理由はなくなる。






 かくして、親子にしか見えないであろう私達は、仲良く手を繋いで大通りを歩いていた。




「今日は何を買いに来たんだ?」



「ちょっと欲しいものができてな」



「ふぅん。五郎がものを欲しがるなんて珍しいな」




 私と一緒で彼には物欲というものがあまりないと思っていた。


 それなのに何かを欲しがるなんて珍しいこともあるものだ。




「朱音に聞いてな。

 あったほうがいいらしいし、俺も欲しいって思ったんだ」



「朱音に?あいつに聞いたなら、武器とかじゃないよな」




 五郎の欲しいものが皆目検討もつかない。


 新しい武器かと思っていたが、朱音に聞いたという時点で、その選択肢はないだろう。



 彼女に聞くぐらいなら二郎や桐生に聞いた方が早い。



 となると、私の頭ではこれ以上、五郎が欲しがるものを思い浮かべられない。






 私が悩んでいる内に、目的地についたようだ。



 五郎が足を止めたのは、大通りの角にある大きなお店だった。






 磨きあげられたガラスの向こう側には、貴金属や宝石でできた装飾品が並び、太陽光を浴びてキラキラと光り輝く。


 入り口の隣に立っている看板には、~世界に一つだけの夫婦の契りの証をここで~、と書かれていた。




「えっと、店間違えてないか」



「ここで合ってる」




 彼に手を引かれて、店の中に連れていかれる。



 きらびやかな店内に気後れするものの、五郎が何を買うのかという方にますます興味が湧く。






 私達を見て、奥から出てきた初老の女性が綺麗な一礼をしてきた。




「どなた様からのご紹介でしょうか?」


「雲英屍鏡からだ。紹介状もある」




 五郎は懐から出した手紙を彼女に渡す。


 中身を見た女性は、確かに受けとりました、とこれまた丁寧に紙を折り畳み封筒に戻す。




「本日の何をお求めに来たのでしょうか」



「ここなら緋色銀と双魔石を扱っていると聞いた。

 それを使ってフェアローバンドを作ってもらいたい」




 緋色銀?双魔石?フェアローバンド?


 どれもこれも聞いたことのないもの達だ。



 私が首を傾げている間に、女性はおめでとうございます、と自分のことのように破顔する。




「まあまあ。それはお目出度いですね」



「最高級の双魔石を頼んだ。

 金貨千枚あれば充分だと聞いたが、それで足りるか?」



「ちょっと待て、五郎。

 そんな大金どこから手にいれてきた!?」



「二郎の訓練内容の中に魔物退治も含まれていてな。

 ついでに依頼を受けたりして、素材を売ったりしていたら金が貯まっていただけだ」




 五郎が見せてくれた冒険者のタグは金色になっていて、Sと目立つように印刻されている。



 いつのまにか、彼は最高ランクの冒険者になっていたようだ。


 しかも、屍鏡にお願いしたのか、登録した時の偽名ではなく、本名の山口五郎になっている。




「そんな大切なお金を使ってまで買う、双魔石って何なんだ?」



「世界に一つだけの石だ」



「双魔石は二人で魔力を注ぐと、半分に別れ、それぞれの魔力を内包した素晴らしく綺麗な石になるんですよ」




 一回奥に引っ込んで、彼女は絹に包まれた、両手に収まる程度の石を持ってきて見せてくれた。


 私には、その辺に落ちている、ただの灰色の石にしか見えないが、これが双魔石なのだろう。




「これが欲しかったのか?」



「フェアローバンドに使う石のなかでは一番らしいからな。

 朱音に三時間ぐらいこの石の魅力について聞かされた」



「確かに大人気ですよ。

 もっとも、そんなに市場に出回るものではありませんので、手に入れられる人は限られますが」



「というか、フェアローバンドってなんだ?

 バンドってことは、ブレスレット見たいなものか?」




 そう五郎に聞けば、女性が微笑ましいものを見るような視線を向けてくる。




「あー。後で教える。

 まずは双魔石に魔力を注いで石を作るのが先だ」




 後で教えてくれるならいいか、と追求するのをやめる。



 代わりに魔力を注ぐために石に手を置いた。




「下位魔法を使うぐらいの魔力を同時に注いで頂ければ大丈夫です」




 女性の指示に従い、私と五郎は同時に石に魔力を注ぐ。



 灰色だった表面が溶けるように小さくなっていき、真ん中から二つに別れ始め、片方ずつ違う色が姿を現す。


 私の方は赤みがかった黒で、五郎の方は深翠のような色合いになる。






 最終的に一円玉ぐらいまで小さくなってしまった石は、それ以上変化することなく、それぞれの前に転がった。



 下級魔法なんてほとんど使ったことないから、魔力を入れすぎたりしてないか不安だったが、壊れてないからセーフだろう。



 店員は石を見て、感嘆のため息を溢す。




「見事な色ですね。

 長い間この仕事をしてきましたが、こんな深い色合いになる方はいませんでしたよ」



「良いものが出来上がりそうで一安心だ。


 素材はさっきも言ったが緋色銀で、デザインはこの通りに頼む」




 何かの設計図のような紙を手渡す五郎。


 店員はニコニコを笑って受け取った。




「かしこまりました。

 出来上がるまでのの間、お茶を淹れますので、少々お待ちください」




 客用の休憩スペースに通され、私達は二人掛けのソファーに並んで座る。


 出されたお茶を一口飲んで、喉を潤してから、五郎に話しかけた。




「で、結局何を作ってるんだ?」



「この世界には結婚指輪という概念がないというのは知っているか?」




 質問に質問で返される。



 彼の意図が分からないが、とりあえず聞かれたことには答えることにした。




「いや、知らなかったが」



「夫婦は通常、神殿に届け出を出すだけでいい。

 が、金に余裕のある上流階級では、左手に揃いのブレスレットをするんだ。


 俺達でいう結婚指輪のようなものだと思えばいい」



「へぇ。随分詳しいんだな、五郎は」



「その夫婦の証とされるブレスレットをフェアローバンドっていうんだ」




 ふむふむと私は五郎の知識に相槌を打つが、途中でピタリと動きを止める。



 だって、今の話を総合すると、私達は結婚指輪を作りに来たことになってしまう。




「お前が勘違いする前に言っておくが、俺とお前のだからな。

 他に女を作ったつもりもなければ、未来永劫そんな予定はない」



「え?えっ!?んんっ!?!?

 つ、つまり、私は今、五郎との夫婦の証を作ったってことか!?」




 他の誰かに渡すためではなく、私と五郎のためのものだということに、更に驚く。



 今まで生きてきたなかでも五本の指に入るぐらい動揺する私に、五郎は冷静そのものの顔をして、お茶を啜る。




「そういうことだ」



「で、でも、私は昔の五郎しか愛してないと言ったはずだが!?」




 声が大きすぎたのか、口を大きな手に覆われる。



 周りに聞かれたくないのか、彼は声を潜め、耳元で囁く。




「お前は、あの帝国の王に正室にしたいって言われるほど、気に入られている。

 だから、早急に分かりやすく、見ただけで分かる証が必要だったんだ。


 Sランクの冒険者の嫁に軽々と手は出せないからな」



「え?そんなことのために」



「未婚だとバレれば、権力を使って、事実婚をさせるぐらいは容易く行えるような相手だ。

 なら、これぐらいしておかないと、俺が落ち着いて口説けないだろうが。


 指輪を嵌めた時も言ったが、受け入れるのは勿論、俺の記憶が戻ったらでいい。

 だが、着けておいてくれ」



「ううっ・・・・・・。

 なんか、色々と申し訳ない」




 私のせいで貴重な休日を装飾品店で潰させたことや、散財させたこと、あまつさえ利用するように偽装婚約までさせたことに、申し訳なさしか感じない。



 人間を利用するだけ利用して、ポイ捨てするようになった私だが、彼らに対してはまともな感性が残っているのだ。


 めったに発動しない良心というものが、胃をキリキリと痛ませる。






 五郎はそんな私を見て、気にするなと頭を撫でてくる。




「半分は今言った通りだが、それはあくまで建前だ。

 本音としては、この世界の奴らにも分かるように、俺の女だと見せつけたかっただけだ」



「ご、五郎!?」




 甘い甘い、砂糖菓子なんかよりも甘ったるい口説き文句が、耳に流し込まれた。



 ぴやっと反射的に逃げようとするが、がっしりと掴まれ腰をいて、逃げられない。




「俺だって不安なんだよ。

 華雪の周りにはうろちょろしている邪魔者が多いから、いくらお前が一途に昔の俺を愛してくれてるからって、強引に奪われないとは限らない。


 記憶を取り戻してもお前が傍にいないんじゃ意味ないからな」



「分かった、分かったからっ」




 高校生に出せないようなセクシーボイスで耳をやられ、私は顔を真っ赤にする。



 こいつ、本当に記憶ないんだよな?


 つい一年ほど前まで、ただの高校生だったんだよな?


 この色気とか口説き文句とか、どこで覚えてくるんだ!?






 私が慌てる様子がおかしいのか、くつくつと笑う五郎に、不満だと頬を膨らませて抗議する。


 すまん、と謝ってくれるが、まだ笑っている。






 そうこうしている間に、バンドが出来上がったらしい。


 さっきの女性店員が、一対の緋色銀というもので、作られたバンドを持ってきた。




「大変お待たせいたしました。

 こちらが注文されました、フェアローバンドになります。


 設計図通りに作ったつもりですが、なにか不備などがあれば、遠慮なくお申し付け下さいませ」



「ほら、華雪。左手首を出してみろ」




 おずおずと差し出すと、そこに小さい方のフェアローバンドを付けられる。



 中心にはさっき魔力を注いだ双魔石が、加工された状態で鎮座しており、角度によって蒼にも翠にも色を変え、見ていて飽きない。


 その両隣には小ぶりのルビーが嵌め込まれているし、それらを飾り立てる彫りが入っており、それもまた石をよく見せるのに一役買っていた。



 土台の緋色銀というのも、石に呼応するように光に反射して、熱された金属にも見える、不思議なものだ。






 私は装飾品に詳しくはないし、審美眼もあるわけではないが、お高いものというのは分かった。




「いかがでしょうか?」



「設計図通りだし、サイズも丁度だ。問題ない。


 会計を頼む」



「緋色銀を使い、双魔石を嵌めましたので、合計で金貨千二百枚となります。

 オーダーメイド代は雲英様からのご紹介ですので、サービスさせていただきます」



「それは有難いな」




 五郎はアイテムボックスから、重そうな布の袋を取り出した。


 中からジャラジャラと金貨が出てくる。



 彼は十枚ずつ積み上げて、足りなくなればまた袋を出して追加した。



 きっちりと百二十個分を積み上げて、残りはアイテムボックスに戻した。






 どれだけ金を持っているかは知らないが、まだまだ余裕がありそうな様子に、私ももっと頑張って稼がないとなぁ、と気を引き締める。



 学園のゴタゴタで、商業組合への納品がストップしていたのだ。


 そうなると、当然、学生していたときに収入はない。



 その前にそれなりに稼いではいたが、五郎を見ていると私も負けていられないという気持ちになる。




「丁度頂きます。

 またのご来店、心よりお待ちしておりますね」



「今度は華雪に似合うような装飾品を見るのも悪くないな。


 ピアスとかどうだ?俺が穴を開けたい」



「欲望が漏れてるぞ、五郎」




 自分に素直なのは悪くないが、時と場合と相手を考えてくれ。



 ぺしぺしと叩いてそう抗議すれば、店員は、また来る日もそうは遠くなさそうですね、と微笑んだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ