第五十一.五話 試合観戦
華雪が戦っている姿を見るのはこれで数回目だが、ゆっくり観戦するのは初めてだ。
そして、今日の試合を見ていて改めて思った。
「本当に無駄に戦闘能力が高いな、あいつ」
今回使っている得物は槍だ。
彼女自身の身の丈の二倍もある長い武器を振り回している。
その動きは無駄も隙もなく、まるで手の延長のように自然と使えていた。
現代日本で槍を使う機会なんかないに等しい。
彼女は一体どこで学んだのだろうか?
「おい、桐生。華雪が槍を使えるようになったのはいつだ?」
隣で一緒に観戦していた桐生に聞く。
一般の観客席に席を取った俺と桐生は、屍鏡たちとは別の場所にいた。
二郎とルークは解説係として、面白がって屍鏡と一緒に実況席に座っている。
朱音と白も屍鏡についているので、ここにいるのは俺達二人だけだ。
「知らないわ。華雪ちゃんが槍を使えるなんて初めて知ったし」
「ほう。お前でも知らないことがあるんだな」
記憶が無い俺とは違い、記憶を引き継いでいる桐生でも分からないことがあるらしい。
純粋に驚いただけだが、彼女はそれを馬鹿にされたと取ったのか、むっつりと不機嫌な面をして腕を組んだ。
「私が華雪ちゃんと行動していたのは三周目までよ。
その後のことは知らないわ」
「三周目?」
「初めて華雪ちゃんと会ったのを一周目とするなら、死んで次に気が付いた時を二周目、また死んだら三周目って呼んでいるのよ。
今が何周目か忘れたけれど、華雪ちゃんとはずいぶん会ってなかったわ。
その間にあったことは知らない。
あの人はそういうことを言うタイプじゃないし、聞いたとしても答えてくれないわよ。
だから、知らないわ」
槍の扱い方も、三周目から今の間で身につけた技量の一つというわけか。
何をどうしたら槍の使い方が身に着くかなんて不明だが、そこはそれなりの理由があって学んだのだろう。
意味のない行動をするような奴じゃない。
「槍に刀にナイフか。他にも色んな武器使えそうだな。
というか、昔の俺はあんなに多種多様の武器を使える華雪を守るなんて言うほど強かったのか。驚きだな」
昔の自分がいったいどういう奴なのか興味が尽きない。
二郎とルークに邪魔されながらも、超絶ド級に鈍い華雪と結婚し、警察署内で一番と言われるほど強かった。
そして、恋愛童貞を拗らせたストーカー野郎という情報もある。
行動自体はあまり変わらないと全員に言われているが、どう頑張ってもそんな奴と一緒の言動をできるわけがない。
「・・・・・・華雪ちゃんは、昔からあんなに強かった訳じゃないわ。
それこそ、裏道でヤンキーと一対一で殴り合って勝てるかどうかぐらいよ。
こう言ってはあれだけど、弱かったわ。華雪ちゃんは。
見た目通りの力しかなかった。
けれど、今はあんなに戦えてるということは、それぐらい苦労して習得したのでしょうね。一人で。」
複数で突っ込んでくる勇者一行に対して、見事に槍で攻撃を受け流し、槍を持ってない方の手で掌底を叩きこむ。
吹っ飛ぶ先には次に近い敵がいて、巻き込まれて仲良く地面に転がる。
はっきり言って、弱かったなんて言われても信じられない強さだ。
しかし、桐生はそういう嘘はつかないし、俺自身もそうだと思った。
一切の無駄も隙もない戦術に、俺は見入る。
「そこからどれだけ頑張れば、あんなに強くなれるんだろうな」
「さあ。ただ、何回死んでも彼女は諦めなかった。
それだけだと思うわ」
華雪は懐から出した何かを迫りくる水球に投げる。
あれは投げナイフの一種だろうか?
まるでダーツの矢のように水球に接触し、派手な音を立てて破裂したそれは水蒸気を発生させた。
続けて水の女の像にも四本ぐらい細長いナイフのようなものが突き立てられ、こちらも水蒸気を残して消えた。
「あんな物騒な武器をどこから調達してくるんだよ」
あまりの威力に呆れる俺。
あの武器を人体なんかに使ったら、丸コゲでは済まないだろう。
そんなヤバい代物を、基本一緒に行動していた俺の知らないうちにどこから調達してきたか謎だ。
「あれは華雪ちゃんお手製のマジックアイテムよ。
彼女が望めばこの世界のマジックアイテム程度なんて好きなものが作れるわ。
それを可能にするだけの魔力と知識、そして媒体があるからね」
「・・・・・・本当に勝てる気がしねぇ」
伝説級のマジックアイテムを作れるなんて、チート過ぎる。
華雪と自分の実力差に改めてへこんでいると、知らない男の声で災厄の魔女と桐生が呼ばれた。
その声はすぐ隣からして、反射的に飛びずさり刀を抜く。
「おいおい、随分な挨拶だな。いきなり刀を抜く奴がいるか?」
「貴方が驚かせるからでしょ、アーロゲンド。
私のことをそんな風に呼ぶから、山口がビックリしてるじゃない」
気配も足音もしなかったところにいきなり男が現れたのだ。
驚かない方がおかしい。
二郎の教えに従って刀を抜いてしまったが、間違いではないと思う。
隙のない立ち振る舞いと、服の下から押し上げている筋肉を見るに、確実に俺よりも戦闘力が上だ。
桐生の知り合いということで刀を収めても、立ったままそいつを油断なく見つめる。
「そいつ、あの勇者達と一緒に異世界からやってきた奴らだよな?あの木偶の棒達よりはマシそうだ。
実際、かなりイイ線行ってるぜ。俺様よりは弱いけどな」
「半年でここまで使い物になっているなら、いい部類よ。
それに、山口は勇者達とは違って青臭い理想論を語ったりしないわ。
必要になれば人を殺す覚悟もちゃんとできてる。
あの馬鹿共と一緒にしないでほしいわね」
「あっちの世界から来た奴にしては骨がありそうじゃねぇか。
どうだ?俺様の部下にならねぇか?」
などという軽口を叩いてくる男を睨み付けることで拒否を示す。
こんなところで危害を加えてくるようにはあまり見えないので、席に座って華雪の試合の続きを見守ることにした。
丁度、水蒸気が霧散して会場が見やすくなったタイミングだった。
その間に何人か倒したらしく、地面に転がっている奴らがいた。
「あいつはお前の友人か?災厄の魔女」
男は俺に話しかけるのをやめて、桐生に話しかけることにしたようだ。
彼女のことを災厄の魔女と呼んでいるが、周りに防音の結界を桐生自身が張っているため、大きな騒ぎになってない。
彼に桐生を恐れている様子もなく、ただ単にその呼び方を愛称のように使っているみたいだ。
「そうよ。世界で一番大切な人よ。
手出したら国ごと貴方を滅ぼすから、そのつもりで」
「あの戦闘能力の高さとオーラ、そしてお前たちの大切にする奴か。
興味が湧いてきたな」
ピクリ、と刀に手が伸びそうになった手を抑えた。
衆目の面前で斬りかかるのはまずいし、何より今の俺では勝てない。
しかし、本気で華雪に手を出すようならどれだけ力の差があるだろうが、叩き斬る所存だ。
まぁ、その前に桐生に殺されてそうだが。
「あら。貴方がそんなに死に急ぐ野郎とは知らなかったわ。
言ってくれれば、いつでも殺してあげるのに」
そう言う桐生の手には銃が握られている。
彼女固有の能力の一つらしく、俺も詳細は知らないが銃を召喚できることだけは知っていた。
結構経口が大きいゴツイ銃をくるくると手の中で回す。
「俺様はまだまだ死ぬつもりはないぜ。ただ、あれは欲しいな」
「あの人はモノじゃないし、貴方じゃすげなく断られて終わりよ。
彼女の意思に関係なく無理強いするようなら、魔王なんかよりも怖い奴らが黙ってないわ」
魔王よりも怖い奴らというところで、俺はふと解説席に座っている二人を見た。
常人には分からないだろうが、二人の視線は確かにこちらを向いていて、何かしらの手段を用いてここの会話を聞いているのだろう。
遠くからでも纏う雰囲気が普段のものとは異なり、臨戦態勢でいることが分かる。
「あいつらか。敵に回したら生きることはできなさそうだな」
「ええ。しかも、とびっきり狂ってる。
あいつらが言うことを聞くのはあの人だけよ。
つい最近、彼女に余計なちょっかいを出して死んだ奴らがいたわ。
二の舞になりたくなかったら、何もしない方がいいわよ」
そこで俺は華雪が正気を失い、襲って来た日のことを思い出す。
あの時、正気に戻った華雪は寝たままで、ちょっと熱も出て魘されているようだったが、二郎は俺に看病を任せてどこかへと行っていた。
今の華雪さんには貴方と二人きりで居た方がいいでしょうとか言っていたが、今思い出してみるとおかしい。
あの華雪至上主義の奴が、具合の悪そうにしている彼女を放ってどこかへ行くだろうか?
華雪本人に言われればともかく、自主的にそんなことをするはずがない。
そして、ルークと一緒に帰ってきた時、本当に僅かだが何か様子が違った。
気のせいだと割り切れる程度で、華雪を優先していたから記憶の外へ置いてあったが、こうやってピースが揃えば、あの夜に誰かを殺してきたのだろうと予想できる。
それも華雪に手を出した奴らをだ。
彼らの性格を考慮すれば、かなり惨い死に方をしたのだろう。
華雪に手を出したということで、同情は全くもってしないが。
目の前の男も桐生の言っている通りに二の舞になりそうだ。
自分の欲に素直な奴は後先考えずに行動することが多い。
その結果、触れてはいけないものに触れるのだ。
こいつを二郎達が殺す時には自分も混ぜてもらおうと決めて、華雪の戦いを見る。
試合は佳境に入っていた。
華雪は勇者を倒し、俺達を侮辱したという男に華雪は詰め寄っている。
俺は別にこれといって侮辱された覚えはない。
華雪の体で満足できるかと聞かれれば、大満足だと即答できる。
触れた肌は栄養不足で少々荒れていて、体温も低かったが、確かに愛しいものに触れている歓喜に満ち溢れる。
キスなんかした日にはその柔らかな感触を思い出すだけで、しばらくはオカズに困らなかった。
どちらかと言えば、華雪本人が侮辱されているように聞こえた。
あんなことを普通の女に言えば、侮辱されていると取る。
しかし、自己肯定が低いを通り越してマイナスの華雪には、俺達を馬鹿にされたとしか感じなかったようだ。
「終わったわね」
効果が分からない呪術を男に掛け、気が済んだらしい華雪は他の奴らに投降を促した。
勇者が倒れたのを見た奴らに向かっていくだけの気概があるわけもなく、素直に武器を捨てれば、屍鏡の勝利宣言が場内に響き渡る。
俺達はその見事な戦いぶりに拍手をした。
「やっぱり、あれは欲しいな」
隣の男はそう言うと、華雪に向かって予備動作なしで突っ込んでいった。
驚いた俺は刀を片手にすぐに華雪の所へ向かおうとするが、桐生に止められる。
「華雪ちゃんなら大丈夫。
あいつに負ける要素がないし、何より屍鏡君がいるから」
華雪が槍であいつの一撃を受け流しきると、屍鏡がその前に立つ。
仮面の下の表情は窺えないが、怒っていることは予測できた。
その両手には桐生のものとは違う銃がそれぞれ握られていて、彼も銃を使うのかと変なところで感心する。
そのまま見ていると、あの男がいきなり正室にしてやっていいと言い出した。
これには動揺を隠すことができなく、再び向かおうとしたところ、華雪がバッサリと断る。
女としての自分は旦那に全て捧げているなんて熱烈なセリフを聞いて、俺は赤面するのを抑えられなかった。
「山口、顔が気持ち悪い」
「仕方ないだろ・・・・・・。
華雪が不意打ちであんなことを言うんだから」
女以外の部分を他の奴と分け合うのは不満があるが、それでも女の部分は夫だけというのは嬉しい。
今の俺でなく昔の俺に言った言葉だろうが、記憶を取り戻せば丸ごと俺のものになるのだ。
顔が崩れない方がおかしい。
俺が赤面している間にあの男は帰ったらしく、華雪は屍鏡と一緒に城に戻った。
ここにはもう用がないので、俺達も一緒に戻る。
頑張った華雪をそれぞれの方法で褒め、甘やかした。
俺がさっきの台詞は嬉しかったと言えば、華雪は顔を赤くしながらも、それなら何よりだと小さい声で返す。
今日のオカズはこの恥ずかしがった顔とさっきの台詞だなと決め、俺はベッドに入った。




