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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
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第五十一話 挑戦者Aによる蹂躙(後編)

 





 近くの女から槍を引き抜き、次の獲物へと穂先を突き立てる。


 どれだけ魔法で防御を強化しようとも、穂先の一点にだけ魔力を集中させ、貫通力を上げている私の槍は防げない。




「このっ!!」




 勇者がようやく特攻してきた。


 その剣は白い光に包まれて輝いていて、いかにもそれっぽいものだ。



 しかし、その剣には大事なものが欠けていた。



 それに気が付いた私は鼻を鳴らす。




「一つ、お前に助言をしてやろう」




 私は槍で剣をいなしながら、近距離で向かい合っている勇者にそう言った。




「お前のその剣は子供のチャンバラごっこと一緒だ。

 相手を殺そうとする気概が全く見えない。

 そんなガラクタを振り回してどうするんだ?


 それなら、まだひ弱な私の拳の方がマシだぞ」




 隙を見て槍の柄でみぞおち部分を穿ち、体の内部に衝撃波を送る。


 勇者は地面に四つん這いになり、剣は飛ばされてどこかに行ってしまった。



 口からは胃の容量物が出ている。






 戦闘訓練を受けていたといっても、所詮半年程度。


 ずっと生死の境目どころか、神話生物相手に死に続けてきた私からしてみればお粗末なレベルだ。



 フェイントもなければ力とスピードに任せただけの攻撃。


 いくら攻撃が早くても、どういう攻撃が来るか分かってしまえば避けるのは容易い。




「剣を向けられれば分かる。


 お前、人を殺したことがないだろ」



「そ、れがっ、どうしたっ!?」




 勇者と私が戦っているのを邪魔したくないのか、それともコントロールが甘くて魔法が彼にぶつかってしまうことを恐れてか、誰も手を出してこない。



 好都合だ。そろそろこの馬鹿共に現実を教えてやろう。




「剣に殺気が全くこもってない。

 こんなのじゃどんなに性能のいい剣を持っていても誰にも勝てるわけがない。


 あの夜に襲ってきた暗殺者のほうがマシだ。

 自分の意思ではないとはいえ、私を殺そうとする思いは武器から読み取れたからな」




 あの男は何か洗脳みたいな精神支配を受けていた人間独特の雰囲気があった。


 彼本人の意思ではないが、それでも偽りの殺意があるだけましだ。


 全く何もこもってない、棒切れを振り回している奴が勇者なんて笑わせる。



 ・・・・・・いや、だからこそ勇者なんだろうな。


 あの悪趣味な邪神が考えそうなことだ。




「東雲。俺は、お前を殺すつもりはない・・・・・・っ。

 ただ、あいつの怪我を治して欲しいだけだ」



「その前に自分が殺されていたら意味がないと思うんだが」




 勇者の左の手の甲を槍で貫いて地面に縫い付ける。


 相当痛いのか悲鳴を上げることしかできないらしい。




「ここでお前を殺さないのは、まだお前にやってもらいたいことがあるからで、友情とか仲間とかそんな気持ち悪い台詞で表現しないでくれよ。

 そうじゃなかったら、お前らなんか全員殺してるんだけどな。


 って、勇者?おーい?

 ・・・・・・これは駄目だな。気絶してる」




 よほど痛みに慣れてなかったのか、槍でグリグリしながら話をしていたら、いつのまにか勇者が意識を失くしていた。



 まだ言いたいことはあったが、彼が勇者である限りまた会うだろうと、彼の腕を踏みつけて槍を抜く。




「さて、前菜は終わったからメーンにいこうか」




 数十メートル先に居る男を見る。


 そいつは私の視線に気が付くと情けない悲鳴を上げて、尻もちをついてずりずりと後退した。



 私はゆっくりそいつに向かって歩く。




「私はな、確かに自分一人じゃ何もできない。

 あいつらに助けられまくっているのも事実だし、甘えまくっているのもあってる。

 そんな私に対して何を言ってもらっても構わないが、あいつらのことを馬鹿にするのは許せない。


 訂正させてもらうが、あいつらの性癖は至って・・・・・・ノーマル?だ」




 私で満足しているように言われるのは癪だったので、彼らはまともなんだとアピールする。






 しかし、その言葉の途中で左の薬指に嵌られた指輪の存在と、彼らの女遊びの仕方を思い出した私は、ノーマルという部分に自信が持てなくなって語尾が少し上がってしまった。



 首まで傾げてしまったのはご愛嬌だろう。




「いや、少なくとも私のこの貧弱な体では性欲の対象にはなりえない。

 もっとこう、ボンキュボンみたいな女が好みらしいし」




 彼らは大体そういう女が寄ってきて、その中から遊んでいたら、やはりそういう女が好みなんだろう。



 うんうんと自分を納得させるように頷いていると、場外から本人達の訂正が入る。




「華雪、ボクの全ての欲と愛は君にしか向いてないからね!」



「華雪さん、私は貴女しかそういう目で見たことありませんから!」



「え?お前らロリコンだったのか!?」




 素で驚く私。



 あんなに選り取り見取りな女達を侍らせておいて、私のような子供体形がいいとは・・・・・・。


 人の趣味はそれぞれだし、二人の好きにすればいいと思うが、小さい女の子にしか興奮できないようであれば少しカウンセリングをする必要があるかもしれない。






 戦慄していると、二人は揃って頭を抱えた。


 その隣では屍鏡が気の毒そうな視線を二人に向ける。



「えーと、鈍い彼女のせいで解説役の二人が撃沈しちゃったけど、試合はまだまだ続くよ。


 華雪ちゃん・・・・・・じゃなかった。挑戦者A、頑張ってね」




 解せぬ。


 なんか私のせいで二人が頭を抱えていることになってしまった。


 私みたいな奴が好きだといったから純粋に心配しただけだと言うのに。






 頬を膨らませても、突いてくれる奴がいないので、すぐにいつもの顔に戻る。



 そして、槍を右手に持ちながら、あいつらを侮辱した男の所へゆっくり歩く。




「まぁ、彼らの趣味はおいておくとしよう。

 個人の好みに口を挟む気はないからな。


 名もなきモブその一。

 お前はどういう苦しみ方が好みだ?


 死なれるのは困るし、あまりショッキングなことをすると、あいつらの精神衛生上よろしくない。


 だから、せいぜいどこか失うぐらいだが、どこがいい?」




 参考までに聞いといてやる。



 ぶっちゃけ反映させる気はないが、こういうのは雰囲気が大事だ。


 相手の恐怖を一層煽るための演出だと思えば悪くない。






 誰も男を助ける気がないのか、妨害が入らずにすんなりと彼の元へ行ける。


 間近で見た彼は今にも倒れそうな顔色をして、バイブレーションのようにガタガタ震えていた。




「腕は斬りおとしたし、局部もやったしな・・・・・・。

 シンプルな損傷系じゃなくて、呪術系統にしようか」




 私は槍の穂先で地面にガリガリと魔法陣を描き始める。


 そんなに複雑なものではないので、すぐに描き終わった。




「た、頼む・・・・・・俺がわるかったっ!

 だから、許してくれ!この通りだ!!」




 土下座する男を、私は魔法陣に蹴り入れた。



 魔法陣から発せられた黒い波動が男を包み込む。


 バチバチッとプラズマが走り、それが空中に散ると彼は体中に黒い入れ墨が入っていた。



 私は成功したことにほくそ笑んだ。




「挑戦者Aの呪術が勇者の友人を襲う!

 どういう効果かは僕には分からないけど、二人は分かる?」



「ここから見える範囲ですと、魔法陣内に入ったものの体質を変えるものに見えますね」



「どんな体質に変えているかは本人に聞いた方がいいよ。

 まぁ、あの程度だと本人の性格とかを変えることはできないから、趣味嗜好を少し変えるぐらいじゃないかな」




 こちらの世界に意識が戻ってきた二人が、私の呪術に対してそう考察する。



 間違いのない分析に一つ頷いて、私は解説に付け加える。




「今、解説係の二人が言っていたが、趣味嗜好を少し弄っただけだ。

 慣れればそこまで日常生活に支障は出ない。


 どういう効果かは、生きていれば理解できるだろう。

 その程度じゃ気は済まないが、壊すわけにはいかないからな」




 呆然としている男をおいて、今度は周りの奴らを見る。



 彼らは二・三歩足を後ろに動かす。


 皆一様に顔には恐怖の表情を張り付けている。




「降参するなら、これ以上お前らに何かするつもりはない。

 私の目的は達した。


 だが、敵討ちとか下らないことを言うなら、付き合ってやる。暴れたりないからな」




 やりたいことはやったが、それでストレスが発散されたかと言われれば、答えは否だ。弱すぎて満足に戦えてない。



 ひゅんひゅんと槍を振り回しながら待っていれば、一人、二人と武器を落として両手を上げ始める。


 やがて、全員が武器を手放す。




「勝者、謎の挑戦者A!

 見事宣言通りに勇者達を一人で圧倒しました!!」




 会場内は驚きの声で包まれた。


 拍手を送ってくれてるのは五郎たちぐらいだろう。



 彼たちの方を向いて手を振ると、その近くの観客席から何かが飛び出してくる。






 ガキィィイイィィイイン!!!!



 手に持っていた槍で咄嗟に攻撃を防ぐ。


 甲高い金属音が響き、何かを受け止めた。


 後ろに力を逃す形でバク転をし、槍を構える。



 勇者なんかとは比べものにならないぐらい強い。


 衝撃の余波で立っていた砂煙が晴れると、そこには一人の男が立っていた。




「やるじゃねぇか、俺様の一撃を受け止めるなんてな」



「どちら様だ?私の知り合いじゃなさそうだが」




 二メートル近くある背に、小麦色の体にはみっちりと隙間なく無駄なく筋肉がついている。


 そして、短く刈り上げた金色の頭に青目。そんな知り合いに心当たりはない。



 こんなに印象が強い奴ならば、流石に欠片ぐらいは覚えてそうだ。




「彼女に手を出すなら、僕が相手になるよ。クルト」




 ふわりと私と男の間に屍鏡が現れる。


 背後に私を庇うかのように、こちらには背を向けていた。



 顔を見ないでも声に怒りが滲んでいることがはっきりと感じ取れる。




「それが、例の先生って奴か?

 俺が今まで聞いていた話じゃあ、吹けば飛ぶようなか弱い奴だったはずだが?」




 私は紙きれか何かか。



 ツッコミを入れたいのを我慢し、屍鏡の後ろから男を見ておく。


 何か屍鏡にしようとしたら、その瞬間殺すためにだ。




「そうだけど。僕の先生に何か文句でもあるの?」



「俺様の不意打ちを受け止められる奴がか弱いわけねぇだろ。


 それと、そのオーラ。色が黒なんだが」




 オーラが黒?こいつもピンキーみたいにオーラが見えるのか?


 彼女は恋に関してしか読み取れないと言っていた。



 どういう意味のオーラがこの男に見えているか知らないが、色的にいい意味ではなさそうだ。




「だから?彼女にちょっかい出すなら僕が君を殺すよ。

 後、余計なことを言っても殺す。


 話があるなら、後で聞いてあげるよ。今は彼女を休ませてあげたいんだけど」



「ふーん。本気みたいだな。

 おい、女。気に入った。特別に俺様の正室にしてやるぜ」



「はあ?」




 突然、その口から吐き出された言葉が理解できずに、素で聞き返してしまった。


 それも面白いのか、男は笑う。




「俺様の正妻になれって言ってるんだ、女。

 俺様の一撃を受け止めて、なおかつこの仮面王にも気に入られているんだろ。

 そんな面白いものを手に入れなくてどうする」




 仮面王とは屍鏡のことだろう。


 そして、面白いものとは私を表しているようだ。



 とりあえず、私は思っていることをきっちりと口に出した。




「私には旦那がいる。女が欲しいなら他を当たれ」



「旦那?おい、それはどこのどいつだ?

 この俺様のモノに手を出すなんて」



「誰がお前のものだ、この筋肉ダルマ。


 女としての私はあいつのもので、それ以外の部分は私の大切な奴らのものだ。

 お前なんかにやるものなんか、髪の毛一筋もない」




 ほぼ無に等しいが、それでも女としての私は彼に全部あげると言ったのだ。


 女らしいことはあまりできないが、それでも私の女の部分は彼のもので、他の誰にも譲る気はない。



 それは、彼が私のことを覚えてないとしてもだ。




「気が強いのも好みだな。


 まぁ、いい。今日は引いてやる。

 だが、次に会った時は力づくでも手に入れるからな、女」




 屍鏡が仮面越しに睨み付けていれば、男はあっさりと引いて帰って行った。



 ようやく一息つき、屍鏡の白衣をくいくいと引っ張る。




「ん?どうしたんだい?華雪ちゃん」



「お金受け取って帰ろうぜ。

 疲れたし、二郎のご飯でも食べながらゆっくりしたい。


 最後の最後で更に疲れた」




 あの筋肉ダルマは要注意人物だと頭に刻む。


 戦闘能力もさることながら、あの手の奴はどんな手を使っても欲しいものは手に入れるタイプだからだ。




「そうだね。お疲れ様、華雪ちゃん。

 換金は後日しておいてあげるから、今日の所は帰ろうか。


 今は流石に混乱しているから、ねぇ」




 勇者が未だに私に負けたという現実が呑み込めてない観客たちがブーイングを飛ばしているので、落ち着いて換金ができなさそうだ。



 私に向かって差し伸べられた手に自分の手を重ねた。




「帰ろう、あいつらのところへ」



「うん。そうだね。帰ろうか、僕たちの居場所に」




 手を繋ぎ、私達は自分の大切な者の場所へ帰った。



 みんなには最後の筋肉ダルマとのやりとりで肝を冷やしたと言われ、勇者を倒すシーンはカッコいいと称えられ、旦那と言われたのは嬉しかったと五郎から伝えられる。











 もみくちゃにされ、ご飯を食べて、その日はぐっすり寝た。



 途中で仁義なき男性組(屍鏡は除く)の争いが勃発したり、女性組に囲まれて胸に顔を圧迫されて呼吸が止まりそうになったなどというハプニングもあったが、それはまた違うお話だ。






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