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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
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第四十九.五話 国王同士と人外同士の密談

 





 屍鏡は不機嫌そうに城の廊下を歩いていた。


 常にない様子の彼に、城に勤めている魔人族達は遠巻きに心配している。


 が、あまりにも機嫌が悪いので、誰一人として話しかけたりするとようことはしなかった。






 イライラしている屍鏡が執務室を開ければ、そこには元凶の一つである男が我が物顔でソファーにふんぞり返っている。


 その向かい側で困った顔で対応していた朱音は、屍鏡を見ると顔を輝かせた。



「屍鏡君!」


「ごめんね、朱音ちゃん。

 こんな筋肉ダルマの可愛げもない男の相手なんかさせて。


 白の所に行って、癒してもらうといいよ」



 朱音は屍鏡の言葉に甘え、部屋から出ていくことにした。


 自分がいても足を引っ張るだけだと判断した結果だ。



 彼女がいなくなると、ソファーに座っている男はくつくつと笑った。



「おいおい。可愛げのない筋肉ダルマってオレサマのことか?」



 流れるような綺麗な金髪をポニーテールにし、その瞳は大空のように澄んでいた。


 そこまでならば好青年の要素だが、その体は小麦色の筋肉マッチョだし、口元は傲慢に歪んでいる。



 何ともアンバランスな男だが、これが巨大な帝国を統べる王なのだから、世の中は分からない。


 いや、後半の部分にだけ目を向ければ、違和感はないのか。



 屍鏡は朱音の隣に座り、仮面で見えないのをいいことに、思いっきり顔を顰める。



「君のことだよ。クルト・ライヒ・アーロゲンド」


「オレサマのフルネームを覚えていることに驚いたぜ、仮面王。

 いや、魔王サマとお呼びすればいいかな」



 クルトは帝国の王であるのと同時に、屍鏡の正体を魔人族以外で知っている、数少ない人物だった。



「このお城の中だけなら、好きに呼べばいいよ。

 外で大々的に言われると困るけどね」


「心が広い魔王サマだことで。

 その心の広さは探していた"先生"が見つかったからか?」


「どうしてそう思ったのかな?」



 屍鏡は首を傾げる。



 彼に華雪を捜索する手伝いをお願いしていたが、見つかったと報告してないし、手伝いを打ち切るように伝えた記憶もなかった。



「今まで見たことがないほど、機嫌がいいから」


「へぇ。

 勇者共がバカやって、女子寮で連続不審死したというのに、僕の機嫌がいいねぇ」


「そこまで事件が起こっているのに、他人と言葉を交わせる程度の不機嫌さで済んでいるからな」



 付き合いが程々に長いクルトは、屍鏡が本当に不機嫌になっていたら、この部屋から有無を言わせずに追い出すぐらいはすることを知っている。



 だというのに、むっつりと黙っている訳でもなければ、雰囲気が刺々しいものの話をしているのだ。


 それらを帳消しにできるほど良いことがあったと考えるのが当然だろう。



 クルトには、その出来事に一つだけ心当たりがあった。


 ずっと前から捜索をお願いされていた"先生"の存在だ。



「なるほど、ねぇ。

 僕は確かに、彼女が来てからはいい子にしているよ」


「ガハハッ!イイコ?あの魔王が!?

 これは今世紀最大の面白いジョークを聞いたぜ!!」


「基本的に僕は椅子に座って甘いものを食べるぐらいしかしてないよ」



 働いたら負けというスローガンを掲げている屍鏡は、面倒なことはしない。


 魔王という肩書きを持ちながらも、人間と争わないのもそのためだ。



 それなのに、クルトは心底可笑しいとゲラゲラ笑っている。



「そうだな。

 椅子に座って甘味を食いながらでも大抵の奴は殺せるもんな」


「無用な殺生はしてないよ。

 暗殺者とそれを指示したものぐらいしか手を出さないからね。

 その辺は自業自得でしょ」



 仮にも一国の王を殺そうとしたのだ。


 反対に殺されるぐらい考えた上で、みんな実行している。



 だから、屍鏡は自分を殺しに来た奴らを殺すことに躊躇しない。



 そもそも屍鏡の所まで誰にもバレずにたどり着く奴は少ないので、そんなに暗殺者達は殺してなかった。



「強い者が生き、弱いものは死ぬ。自然の摂理だな」


「そんな野生生物みたいなことを言われてもねぇ。


 まぁ、それは置いておいて。

 帝王が自ら来てくれたってことは、あの件について了承したってことだよね」


「ああ。あの勇者達に懐疑的なのは俺だけじゃないからな。

 俺の国の重鎮もだが、他の国も疑っている。

 本当に勇者一行は俺達を助けてくれるのかってな」



 元々、クルトは勇者一行が好きではなかった。


 彼から見て、勇者達は頭に殻のついた、ピヨピヨ鳴くヒヨコだ。



 そんな連中に過度な期待をしている各国を密かに馬鹿にしていたし、背負わされる彼らを少しは憐れんでいた。



 が、それを差し引いても、最近の勇者一行の行いは目に余る。



 そんな中、屍鏡が提案してきた事は帝王としてのクルトでも、一人の男としてもとても気に入ることだった。


 ただ、勇者一行を倒せるような力量のある奴がいるかどうかが疑わしいが。



 そんなクルトの疑念を見抜いた屍鏡が、心配しないでと、からから笑う。



「あの人は確かに勝つ見込みのない勝負を吹っ掛けるような人だけど、今回は勝算があったから喧嘩を売っているんだし」


「魔王サマのお墨付きなら、心配はいらねぇな」


「僕としては心配だけどね。

 万が一にでも怪我なんかしたりしたら、僕は持てる全ての力を使って、彼らを苦しめて殺す」



 口調こそ軽いが、冗談を言っているわけではないと、それなりに長い付き合いのあるクルトには分かった。


 あの屍鏡がそこまで入れ込んでいることに冷や汗をかきながらも、ますます彼の言う先生に興味が沸く。



 文脈から推測しただけで、屍鏡が断言したわけではないが、勇者達の相手はほぼ確実にあの有名な先生だ。


 彼が疲れる度に先生の話をされてきたクルトとしては、戦闘能力を抜きにしても、是非とも会いたい相手だった。



 しかし、勇者一行の相手をするほどの人物と分かれば、さらに興味がそそられるのも無理はない。



 屍鏡の先生自慢に相槌を打ちながらも、彼の大切なその人物に会える日を心待ちにするクルトだった。











「お疲れ、二郎」


「お疲れさまです、ルークさん」



 職員寮の二郎の部屋で、ルーク達はお酒を飲んでいた。



 テーブルの上には所狭しとあらゆる種類の酒が置かれ、その間を埋めるように料理が並んでいる。


 床には空になった酒瓶が転がり、もうすでにかなり飲んでいることが窺えた。



 二人とも前ボタンを二・三個ほど開け、いつになく気だるげな雰囲気が色気を増大させている。


 ここに女性がいたら、誰もが鼻血を噴いて気絶するようなフェロモンが空間に漂っているが、ここには二人以外居ないので犠牲者が出ることはない。



 互いに自分で好きなように酒を注ぎ、つまみを食べながら、杯を空にする。



「それにしても、教員って大変な仕事なんだね」


「授業計画に、クソガキのおもり、他の教員のフォローに放課後の部活動の顧問」


「ボク達が人間だったら、とうの昔に過労死かストレスからの自殺で、どちらにしても死んでたよ」



 あははっと笑っているが、洒落になっていない。



 ワーカーホリック気味の二郎からすれば、充実した生活を送っているが、人間ならその仕事量の多さに押し潰されている。


 現代日本で教職の人間が鬱になったりするのも、こういう所が問題になっているのだ。



 人外で良かったと、二人はしみじみそう思った。



「でも、もうそれもようやく終わりそうですね」


「勇者達が馬鹿過ぎたからねぇ。

 ボク達だってかなり頭にきていたけど、それよりも先に華雪がプッツンしちゃったから」


「昔に比べれば気が長くなった方ですけどね。

 コンプレックスを刺激された上に、大切な大切な友人達を貶められて黙っていられるような方ではないですよ」



 華雪は自分に女としての魅力が全くないと思い込んでいる。


 二郎達から見たら、この上なく魅力的な女性なのだが、彼女自身がそれを許してくれない。



 そんな彼女の体つきを揶揄し、更にビッチ発言をしたことを、二郎はツヴァイを通じて聞いていた。


 華雪が動くのがあと少し遅かったら、ツヴァイが喉笛に食らいつき、その無礼な人間を死に追いやるつもりだった。



 結果として華雪本人が動いたから、矛先を一先ず収めただけで、彼女の気が済んでもそれが生きていたら、二郎はなぶり殺しにする予定だ。


 そう考えているのはルークも同じで、今からどうやって殺そうかと怒りを抑え込みながら、自分を保つために鎖を念入りに磨いている。



「華雪の怒りのポイントは自分を馬鹿にされたことじゃなくて、ボク達が華雪の体で満足しているような物言いが一番頭にきたって所が、なんとも彼女らしいよね」


「私達はむしろ彼女でしか満足できませんからね。

 あの紅葉のように小さい手に頭を触られただけで、どんな人間と一夜を共にするよりも心が満たされますからね」


「ふにふにの頬っぺたを摘まんでいると、癒し効果が凄くてほとんどの事がどうでもよくなるしね」



 二人は華雪の体がどれだけいいのか、酒を飲みながら語らい合う。


 ここに本人がいたら赤面し止めさせただろうが、ここには疲れきり中身がオッサン化した、悲しき社蓄しかいない。






 酒を満たされない胃袋に入れつつ、華雪の良さについて語っていたが、コンコンと扉がノックされれば、中断せざるを得なかった。



 二郎の部屋なので、彼が扉を開ければ、そこには桐生の姿があった。


 その胸には酒瓶が抱きしめられ、顔が赤くなり目が据わっている様子から、完璧に酔っていることを伝えてくる。



「・・・・・・夜遅くに男性の部屋を訪ねるのはどうかと思いますよ」


「べっつにいいじゃない。

 アンタは私のオヤぁ?今更常識言われても困るわよっ!」


「面倒臭い・・・・・・・・・・・・」



 桐生は酒にそこそこ強いが、ある一点を突破すると、途端に絡んでくるようになる。


 その犠牲者兼後始末役はいつも二郎なので、飲み過ぎないでくれと事あるごとに言っているが、これを見るに無理だという事は分かって頂けただろう。



 本当にしっかりしてほしい場面ではそんなことはしないので、彼が多めに見てしまっているのも理由の一つだ。



 とにかく部屋の前で騒がれても迷惑なので、二郎は渋々と桐生を部屋に通した。



「イェーイ!!飲んでる!?」


「勿論!二郎作るつまみは美味いしね。桐生は一人でつまんなくなっちゃったから来たの?」


「そうよ。どうせなら、二郎の所で美味しいものを食べながら飲んだほうが楽しいじゃない」


「その割にはもう酔った後ですし、そもそもみんなして私のご飯を目当てに集まるのを止めていただけませんかねぇ」



 とは言いながらも、桐生のために追加でつまみを作っているので説得力がない。



 酒を飲みながらも慣れた手つきで、包丁を操り、フライパンを振って、彼女の好みそうなものを何品か追加する。



「わー。流石、二郎ね。美味しそう!」



 運ばれてきた料理に早速食いつく桐生。


 お腹が空いていたのか、かなりのスピードで皿が空になっていく。



「それを食べたら、さっさと部屋に戻って寝て下さい。

 明日も早いのにお酒を飲んでいて寝坊したなんて、屍鏡さんに知られたら大目玉ですよ」


「はいはい。遅刻しないでちゃんと仕事すればいいんでしょ。

 ここに泊まっていくから、二郎が起こしてくれれば遅刻しないで済むわ」


「自分の部屋に帰って寝てください」



 むーりー、と桐生は机に突っ伏す。


 二郎は自分の額に青筋が浮かんだのを自覚したが、本当に分かってほしい人物は駄々を捏ねている。



 そして、そのまますやすや寝てしまった。



「あははっ。お腹が一杯になったから寝ちゃったみたいだね」


「笑い事じゃないですよ、ルークさん。

 ああ、もう!本当に仕方のない人だ!!」



 舌打ちをした二郎は桐生を抱き上げ、備え付けのベッドに転がす。


 むにゃむにゃと寝ている彼女は万人が見たら可愛らしく映るが、二郎には腹立たしさしかなかった。



「そんなこと言っても二郎は結構桐生のことが好きだよね」


「華雪さんのご友人ですからね」


「それだけじゃなくて、桐生はまた別の意味で特別じゃないか」


「まぁ、かなり付き合いが長いので」



 桐生には他の人達とは違う親しみを感じることもあるし、こうやって面倒に思うこともある。


 きっと、人間風に表現するのなら、腐れ縁の昔馴染みといった所だろう。



 ふーんと納得したようにルークは頷いた。



「やっぱり二郎はそういう感情もあるんだね。

 そういうのはボクにはよく分からないなぁ」



 華雪の前では人間らしくしているものの、ルークには元来そういう細かい感情はない。


 好きか嫌いか無関心かの三つのパターンで事足りるからだ。



 そんなルークから見て、人間のように細かい感情を出す二郎の存在は神話生物からも人間からも外れているように見えて気持ち悪い。



 まぁ、そのどっち付かずのような微妙さを持つのが二郎の良さであり、ルークが気に入っているポイントではあるが。



「そうですか?昔のルークさんよりは今のルークさんの方が感情が豊かですよ。

 朱交われば赤くなるとも言いますし、出会った頃よりは理解できてるんじゃないですか?」


「え?そうなのかな」



 二郎に言われ、当時の事を振り返ってみるが、途中でどうでもよくなって遡るのをやめた。


 美味しいお酒とおつまみがあるのに余計な事を考えるのは野暮というものだ。






 その夜は桐生の寝息をバックミュージックに、二人共に大いにお酒を楽しんだ。






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