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赤のケッツヒェン~邪神の思惑が絡む世界で~  作者: たきしむ
第三章 エレフセリア魔術院編
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第四十八話 平面に潜む狩人(前半)

 





 勇者一行にプッチンしたからといっても、授業は無くならない。



 心配性のルークや二郎は授業に出なくていいと言ってきたが、彼らと共に学生生活が送れる僅かな時間を大切にしたいと説得し、条件つきで許してもらっている。


 その条件とは、自分を大切にすることだ。


 二郎が~健全で健康的で楽しい学園生活を送るための百ヶ条~という巻物を渡してきたが、こんなに覚えきれないと拒否れば、自分を大切にしてくれればいいと言ってくれた。



 ちなみに巻物は勿体無いのでアイテムボックスに入れている。


 いつかきっと役立つ事を夢見て、今は寝かされている状態だ。






 クラス内は今までよりも私達に対してよそよそしいが、関わってこないだけ精々するし、健やかな生活を送れていた。


 五郎の私への態度が変わらなければ、他の生徒の態度なんて全く気にしない。



 理由もなく保健室の桐生の所に入り浸ったり、図書館で五郎と勉強したり、教師を頑張っているルークと二郎の応援をしたりして、楽しんでいる。



 そんな充実した良い日々を送っているが、こんな時に限って嫌な事が起こる事を私は知っていた。











 授業が終わり女子寮に帰ってきた私を迎えたのは、顔面蒼白の女だ。


 開けた扉の間から、ずるり、と私の方に倒れてきた彼女を避け、バックステップで扉から距離を取る。


 女はそのまま地面に倒れ込んだまま、ピクリとも動かない。



「華雪ちゃん!下がってて!!」



 前に割り込んできた桐生が、油断なくナイフと銃を構える。



 今日は私の部屋でお茶会をしようということで、こっそりと誰にもバレないように部屋に桐生を入れようと、彼女を連れてきていた。


 そんな日にこんなことになるなんて、私の幸運が無さすぎて、どこぞで混沌が爆笑してそうだ。



 数秒間が過ぎたが、何も無かったので、ひとまず桐生が戦闘体勢を解く。



「この女を調べたいな」


「中は危険だわ。ここで調べましょう」


「桐生はそこで寮に人が入らないようにしてくれ。

 私は魔法で目眩まししつつ、こいつを調べる」


「分かったわ」



 目の前で調べるなら危険性は低いと、桐生は許可してくれた。



 私は最初に脈を取る。


 が、最初に予想していた通りに全く反応がなかった。



 授業で帰ってくる奴らを適当な理由をつけて、入らせないようにする桐生の隣で、検死を進める。



 服をナイフで裂き、体の表面をじっくりと観察する。


 目立った傷は血の気の無い肌には不気味に輝く斑点が見つかった。


 幾つもあるその斑点は皮膚下を自由に動き回る。


 場所が皮膚の上ならば、虫が動いているように勘違いしてしまいそうな、気持ち悪い光景だ。



 そこまで見終わり、ふむふむと私は思考する。


 この世界特有の魔物という線を考えなければ、思い当たる奴がいるが、本当にそいつかはまだ決定しない方がいい。


 様々な可能性を考えておくのが生存率を上げる方法の一つだ。






 考えている間に、ルークと二郎と五郎がやって来た。


 私が検死をしている間に桐生が呼んだのか、それとも寮に置いていったツヴァイから異常が通知されたのか知らないが、学院にいる奴らは全員集合している。



「華雪、怪我は?」


「ない。いきなり死体が倒れてきたぐらいだ」



 心配そうに声を掛けてくる五郎に、今回はまだダメージを受けて

 ないことを告げる。


 安心させるために言ったのだが、しかし五郎は顔を顰めた。



「怪我がないならいいが、死体っていうのは?」


「中身が綺麗に吸いとられて、カサカサのミイラみたいになっている奴だ」


「二郎・・・・・・今なら介錯をしてやるぞ」



 死体に血が残ってないということから、殺したのが二郎だと思ったのか、五郎は二郎の肩に手を置いて、そんなことを言う。


 その顔はニヤニヤとしているので、本気でそう思っているのではなく、二郎との距離が近くなった彼なりのブラックジョークなのだろう。



 二郎はそんな彼に怒ることなく、ため息をつき、



「どうせ食べるならもっと美味しそうな人にしますよ。

 残り香からして不味そうですし、そもそも華雪さんの周りで怪奇事件を起こしません。

 やるならもっと美味しく育ててから食べ、死体は隠蔽します」



 にこやかに笑う二郎に、五郎は引き気味だ。 


 人間の感性では理解できないのが当たり前だが、嫌悪感はないようで、呆れるだけだ。



「物騒だな」


「どんな食材でも美味しく調理するというのが座右の銘ですから」


「言葉だけならよく聞こえるんだがな」


「はいはい。漫才はそこまでよ」



 桐生はパンパンと手を叩き、二人の会話を強制終了させる。



 こういう時に桐生は頼りになる。


 私では彼らの間に割っては入ったとしても、頭を撫でられて終わるからな。



「そうだな。

 なるべく早く原因を調べないと、今日の寝る場所が無い」


「そうなったなら、僕の部屋にくればいいよ。

 一緒のベッドで寝ようよ」



 ルークの誘いに悩む前に、五郎がそういう事なら俺の部屋に泊まればいいと言い出し、獣共の(ねぐら)に可愛い華雪ちゃんを放り込む訳にはいかないから私の部屋に来た方がいいなどと言い合う。



「いや、今日中に片付けばいいだけの話だろ。

 お前らは自分の仕事や訓練に戻ればいい。

 私は一人で中を調べる」


「一人で行こうとするな、馬鹿。

 お前の安全よりも優先することなんかある訳がないだろ。

 むしろ、お前が待ってろ。中は二郎とルークが見てくるから」



 寮内に入ろうとすれば、首根っこを捕まれて阻まれる。


 圧倒的身長不足に涙を禁じ得ない。



 そして、そのまま腕の中に閉じ込められる。



「なに僕たちに任せようとしてるんだ。

 しかも、ちゃっかりと自分は行かないのかい」


「死人が出てるなら、死なない奴を入れたほうがいいだろ。

 お前ら二人なら殺しても死なないからな」


「ここは餌の貴方が無防備に歩いた方がいいですよ。

 手足の二・三本も無くして這いずり回れば、血の臭いに誘われてやってきそうですから」



 バチバチと二郎と五郎の間に火花が散った。



「早くしないと生存者がいなくなっちゃうかもよ。

 まぁ、元々いないかもしれないけど」


「二対二で別れましょう。

 四人で行動したら、いくら広いとはいえ廊下や部屋の中では戦闘に支障が出るわ」



 桐生がちゃちゃっと分担を決め、二郎と五郎の間に割って入る。


 それでようやく、二人は火花を散らすのを止めた。



 五郎は私を地面に降ろし、二郎がコホンと一つ空咳をして、いつもの柔和な笑みを浮かべる。



「残りの一人は誰も入らないようにという見張りですね。

 これはルークさんに任せたいのですが」


「そうだね。

 僕はここでゆっくりと人間を追い払いながら、死体と戯れているよ」


「戦力バランス的に私と華雪ちゃん、そこの同じ顔コンビなんだけど、異論は?」


『こいつ(彼)と一緒なんて絶対に嫌(です)』



 寸分違わずにお互い様を指差して拒否しあう姿は、息ピッタリで問題なさそうだが、嫌だと言う奴ら同士を組ませるのはちょっとあれだ。


 何だかんだ呼吸が合い、戦闘ができたとしても、探索の時にギスギスしてるのは可哀想に思う。



「なら、久しぶりに私と一緒に探索よ、二郎」


「まぁ、いいですけど。

 彼に華雪さんの護衛ができますかね」


「五郎が守ってくれなくても、私は自分の身は自分で守れる。

 二郎も知っているだろ?私が力を使いこなし始めてるってことは」



 ふふんと得意気に笑い、胸を張る私だが、二郎は困惑した表情を向けてくる。



「えっと、その使いこなせてきたというのは、ようやく羊皮紙を貫通させることができる球体を十回に一回出せることを指しているのですか?」


「そうだ」



 私の返事に、しかし、全員から生ぬるい視線を送ってきた。


 まるで、子供が初めてのお使いに行ってこれたような、そんな視線だ。



「華雪、お前のことは俺が守るからな」


「むぅ。私は便利な攻撃手段を手に入れたというのに。

 あまり見くびってもらっては困るぞ」


「俺の刀の練習だと思って、後ろにいてくれ」



 な?とお願いされて、頷きはした。


 後ろにいることは了承した形になるが、手を出さないとは言ってない。



「じゃあ、行くわよー」



 桐生が景気よく扉を開け、中に入っていった。



「ちょっ!?勝手に入らないで下さいよ!!」



 慌てて二郎が彼女の後を追う。


 彼は相変わらず、桐生相手に苦労している。



「私達も入るか」


「いってらっしゃい」



 五郎と手を繋ぎ、ルークに見送られながら、ホラーハウスと化したであろう寮に踏み入った。











「死臭がしますね」



 玄関前で二郎は鼻をひくつかせて、空中に漂う僅かな臭いを嗅ぎとった。


 見える範囲こそ、今朝と何一つ変わりないが、私も死人がいる独特の雰囲気を感じ取っている。


 それと共に良くないものが徘徊しているのも感じた。



 力が少しは使えるのか、限定すれば何がいるかいないかぐらいはぼんやりと分かる気がする。


 確実とは言えないが、少しは信じていいとは思える程度の精度はある。



「私達は一階から行くわ。

 華雪ちゃん達は上の階からよろしくね」


「分かった。何も無かったら、二時間後に三階の右奥の共同スペースで待ち合わせだ」


「十分以内にそこで集合出来なかった場合、来なかった人の方に行くということで」



 解散、とそれぞれの場所へと向かう。






 私達は五階に上がり、まずは一番端の私の部屋に入る。


 部屋が荒らされたりしていたら困るので、確認しておきたいのだ。



 ツヴァイがいないが、荒れている様子もないので、どこかに避難したのかもしれない。


 二郎と合流した時にどこに行ったか聞けばいい。



「城の時から思っていたが、必要最低限のものしかないな」



 部屋を見回した五郎はそんな感想を呟く。


 彼の言う通り、物が少なくすっきりとした部屋だ。



「折角手に入れても無くなってしまう事が多かったから、あまりものを持たないようにしてるんだ。

 本当に大切なものはあの空間にしまってあるし、暮らしていく上で不便しなければいい」


「・・・・・・今度、服とヌイグルミと置物を困るほど送ってやる」



 声に呆れが混じり、ついでにため息まで聞こえた。



「え?何で?」


「もう大切なものが無くさせたりしない。

 なら、物を増やしても構わないだろ」


「んー。今度な。

 欲しいものができたら言うから」



 特に荒らされた所はないので探索を止め、部屋の外に出る。






 いくつも部屋はあるが、大抵は閉まっているので、そこは一先ず調べないで先に進む。



「なぁ。今回のはどういう奴なんだ?」


「中身を飲む奴はけっこういるから、安易に絞らないほうがいい」



 予想が当たっていようと間違っていようと、私がすることは殺すかお帰り頂くかのどちらかだ。



 油断はしないながらも歩いて私の部屋の反対側にある共有スペースに行けば、そこには倒れている女がいた。


 すぐに脈を取るが、事切れている。



「犠牲者二人目か」


「同じ奴にやられてるな。

 ちゅーちゅーちゅーちゅーと食欲旺盛なことで」



 この死体は最初に発見した奴とは違い、ステータスプレートを持っていたので、それを見る。


 名前と年齢、体力や能力を流し読みし、首を傾げた。



「どうかしたのか?華雪」


「いや。こいつ、勇者一行じゃないかと思ってな。

 五郎、彼女を知らないか?」


「クラスに居たような居なかったような。

 逆に華雪は見覚えないのか?」



 中身がなくなりシワシワになってしまったせいか、五郎も思い出せないようだ。



「五郎達以外の奴らの顔を覚えるのは苦手だから、思い出すのは無理だ。

 まぁ、別にどうでもいい事なんだけどな」



 犠牲者が誰であろうが、五郎達でなければそれでいい。


 ニャルラトテップもこんな死に方なら文句言ってこないはずだ。











 ステータスプレートはポケットに入れ、四階に降りる。



 五回と同じく、どの部屋も鍵が開いていることはなく、部屋の中に入らずに廊下をフラフラとする。



「どの部屋にも入らずに廊下を歩いているだけだが、いいのか?」


「多分、今回はこうしていればあっちから接触してくる。

 下手に部屋に入ると戦いにくいし、逃げにくいからな」



 そう言いながらはじまで歩けば、あー!!と背後から声が聞こえた。


 聞き覚えのある声に振り返れば、そこにいるのは別れたはずの彼女だ。



「華雪ちゃん居た!」


「どうかしたのか?」


「ちょっとこれを見てよ!!」



 彼女はペラペラした紙を私に見せようとしてくる。


 私はそれを見ようと近寄りーーーーー。



 次の瞬間、黒い刀が空中を走り、綺麗な赤茶髪が宙を舞い、床に真っ赤な花が咲いた。






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